第2話 やめたいけど、やめられない。それがメガネ

「そもそも、メガネっつーもんはなぁ……」

「はい。メガネっつーもんは、何なのでしょうか?」


 メガネ女子のメガネへの愚痴が、本格的に始まった。幼馴染みの男子も、ほんのちょっとだが、さっきより目が真剣になっている様子。


「そこそこ、邪魔になるんだよな!」

「えっ? お前……そんなに大事な、必要不可欠なメガネのことを、邪魔だって感じるのか? なくなったら何にも見えなくなるんだぞ!」

「うん、邪魔!」


 メガネ女子の発言に、幼馴染みの男子は目を丸くした。彼は驚きながら「お前……毎日お世話になっているメガネ様に対して、それは失礼じゃね?」と言うと、メガネ女子から「メガネは人間じゃなくてメガネなんだから、別に様とか失礼とかって、いらなくね?」と、すぐに返された。それでも二人のQ&Aは、まだまだ続く。


「いつも掛けているのに?」

「そうだよ!」

「お前……メガネがなければ全く見えないってのに、邪魔なのか?」

「あー、そうだよ! お前、さっき似たようなこと言ってたじゃんか!」

「大事なことなので、二回言わせていただきました」

「ま、まあ……大事なことではある!」

「しかし毎日、肌身離さず……」

「いやいや! あたし、好きでメガネを掛けているんじゃねーから!」

「……うーん……確かに、それもそうなんだよなぁ……」


 幼馴染みの男子は思った。こいつがメガネを掛けているのは、オシャレとかじゃない。ただ単に目が悪いからだ、と。


「いちいちズレたり汚れたり、それを直さなきゃならないっていうのが! マジで鬱陶しいんだからな!」

「あぁ~、なるほど……」

「あと! 雨が降っているときとか、濡れるのが嫌!」

「あー、そうだよな。水滴……」

「そう、水滴! そんでマスクを着けているときな! メガネが曇るのも、超ムカつくっ!」

「なるほど。視界に支障が出ると……」

「お前……何か急に、お医者さんっぽくになってんなぁ」

「おい、いきなりイジんな。おれは今、話を聞いてやってんのに」

「へっへっへっ」


 不意討ちのコメントに、幼馴染みの男子は少々ムッとした模様。これまでヒステリーだったメガネ女子が、まさか聞き手をイジってくるとは思わなかった。しかも、あんなに荒れていた彼女が今は笑っている。まるで鬼の首を取ったかのようとは、こういうことを言うのだろうか。幼馴染みである彼は、せっかく寄り添ったというのに、何だか突き放されたような気分である。


「じゃあ……もうメガネはやめて、コンタクトにすれば?」

「……目ん中に! ものを入れるっていうのが、すごく怖いんだよ……って前に言ったことあるよな? あたし!」

「ほい」

「コラッ!」

「はっはっはっ」


 予想外のイジリを受けて、ちょっとだけイラッとしたからだろうか。幼馴染みの男子は、お返しのようにメガネ女子を少し怒らせた。そして彼は喜んでいる。


「だから! やめたいけど、やめられない! それが、メガネだ!」

「いやいや何だ、その禁煙したい人みたいな言い方。おれの父ちゃん……この前タバコについて、そんなこと言っていたなー……」

「あー、タバコかぁ~……。やめたいけど、やめられないの代名詞だろうな、あれこそ。メガネとは全く違うジャンルだけど。っつーかさぁ……タバコって、一箱だけでも相当な額らしいな」

「うん、そうらしい。あんなの買うなら、その金をメシとかに使いたいね。おれは」

「同感。あたしはケーキを買いたい」

「でも……そんなこと考えたって、すっげー難しいみたいなんだよなぁ、タバコをやめるのって。もう自力でダメなら、医者の力で禁煙治療を……あっ!」

「えっ!」

 

 話題がメガネからタバコに変わる中で、幼馴染みの男子が、ハッとしたようだ。そんな彼の様子を見て、メガネ女子が驚くと……。


「いおうー」

 

 幼馴染みの男子は、ふざけた。それに対するメガネ女子の反応は、もちろん……。


「そうじゃねーだろ。本当に言いたいことを言ってみろい」

「ノリ悪いねー、はいはい。治療ってワードで思い出したんだけど……お前、レーシックなんてどうだ?」

「あー、あれも怖い。痛そう……」

「ああ、そうですか。じゃあ、あなたはもう、一生メガネを掛けていてくださいね」

「……ケッ!」

「万歳三唱!」

「そこはストレートに、お手上げって言いやがれ! うまくねーんだよ、この皮肉屋が!」


 果たして、このメガネ女子がメガネから解放される日は、いつになるのだろうか。というか、そんな日があるのだろうか。

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