ぐちぐちメガネちゃん

卯野ましろ

第1話 メガネ女子、吠える

「なぜ二次元のメガネ着用者は良くて、現実のメガネ着用者は、そうでもないのか」

「は? 急にどうした?」


 学校の休み時間に、とあるメガネ女子が語り出した。彼女の側にいる幼馴染みの男子は、首を傾げる。


「急じゃない。今に始まった話ではない」

「はあ」

「……あ~っ! ムカつく! 一体どうして! メガネ萌えっつーのは! 二次元に限るんだ!」

「お前……マジ何があったし」


 メガネ女子は荒れ出した。そんな彼女を、幼馴染みの男子は淡々として見ている。


「だってさっ! あたしって……メガネを掛けているけど……全っ然! さっぱり! モテねーんだよっ!」

「あーそっすねー」

「おい! 素直に返事すんな! それはそれで切ないだろ!」

「めんどくせー」

「ふんっ! ほっとけ!」

「いやいや、とりあえず続けてみろよ。暇だから聞いてやる」

「ケッ! 暇人が」

「はいはい。聞いて欲しいくせに」

「いちいち余計なんだよ!」

「わりーわりー」

「ったく……あ~っ!」


 このメガネ女子は、メガネを着用している時期が長い。少なくとも人生の半分は、メガネを掛けている。赤ちゃん時代からの仲である幼馴染みの男子も、メガネを外した彼女を見ることが、今では珍しいくらいだ。


「あたしのような! リアルメガネ人間はモテないっ! でも二次元の! メガネキャラはさあ! メチャメチャ愛されまくってんじゃねーかっ! あああああああああっ! ずるいっ! ずるいずるいっ! それって、ずるいよおおおおおおおおおっ!」


 右手の握り拳で、机をダンダンダン! とするメガネ女子。幼馴染みの男子は「それ、手ぇ痛くね?」と言ったが、なかなか大きな音で消されてしまった様子。痛そうな右手が止まるのは、すぐだった。大人しくなると、幼馴染みの男子が「やれやれ」と思いながら口を開く。


「現実とフィクションを比べたって、しょうがねーだろ。あれは漫画だから~とか、あれはアニメだから~とか割り切っとけ」

「あ! 悪いんだけど、あたし! そういうの難しいタイプの人間だから!」

「お前ってさあ……なぜ自分のことを改めようとしないんだ? メガネがどうこうって語るよりも、まずそれだろ」

「うっせ!」

「いやいや……。お前の方がさっきから、おれより何倍もうるせーっつーの」

「とにかく、あたしはっ!」

「うおっ! 何だ?」


 メガネ女子は、幼馴染みの男子をギロッ! と見た。メガネ女子に見られ、幼馴染みの男子は体を震わせる。


「今からっ! メガネというものについてっ! 話をさせてもらうっ!」

「はいはい。好きにしろ。どうせ暇だから、聞いてやる」

「さっき似たような言葉、聞いた!」

「お前こそ、もうメガネの話をしてんじゃねーかよ」


 ケラケラ笑う幼馴染みの男子は(引き続き)興奮気味なメガネ女子の愚痴に付き合うことにした。

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