掲示板/初配信翌日の雪人と月音

有望な新人ダンジョン配信者について語るスレ204



14:名無しの探索者

【URL】

雪姫ちゃん

魔術師(ソロ)

ダンジョン配信業界に新しい波が来た


15:名無しの探索者

初配信すごかったな


16:名無しの探索者

トレンド乗ってたのは知ってる

新規キーボス見つけたんだっけ?


17:名無しの探索者

配信はじまる→武装ゴブリンをソロで全討→未踏破エリア発見→壁壊す→キー部屋発見→キーボスにタイマンで勝利


なお探索者デビューして三日目のガチ素人


18:名無しの探索者

え?

……え?


19:名無しの探索者

こわいよぉ!


20:名無しの探索者

ソロの魔術師が武装ゴブリン倒す←まあわかる

未踏破エリア発見←ぎりぎりわかる

壁壊す←ん?


ソロの魔術師がキーボスを攻略←?????


21:名無しの探索者

これ途中からリアタイしてた

正直火力高すぎるから、初心者詐欺疑ってたんだけど……


22:名無しの探索者

あの動きで経験者はないでしょ


23:名無しの探索者

進路ろくに確認しない

足音立てまくり

曲がり角も躊躇なく進む

スキルを言いかける


俺探索者なんだけど、正直見ててずっとヒヤヒヤしてた……


23:名無しの探索者

ってか雪姫ちゃんのスキル謎すぎない?


24:名無しの探索者

考察するか


25:名無しの探索者

未登録スキル、最低でも三つは持ってそうだったな


・魔眼っぽいやつ:相手の動きを止めてた

・威力増強:壁壊した時のやつ

・金色のオーラ:【フロスト】を超威力にしてたっぽい?


?????


26:名無しの探索者

二つ目は多分【一撃必殺】だよな……?

自分の十倍硬い相手に確率で超ダメージみたいなやつ


27:名無しの探索者

多分そう

何発か撃って威力上がるのを待ってたみたいだったし

壁にも適用されるのは知らなかったけど


28:名無しの探索者

あと、ここでは出てないけど無詠唱で【アイスショット】撃ってた件

あれ、<初心の杖>ってマジックアイテムの効果だと思われる

詳しくは探索者協会のHPへGO


29:名無しの探索者

ああ、あのトレゴブ倒すとたまに手に入るやつ……

そういえば雪姫ちゃん、パンツ盗られてたな


30:名無しの探索者

URLはまだか? 


31:名無しの探索者

ノーパン雪姫ちゃん……だと……!?


32:名無しの探索者

>30、31

通報

残念ながらあの動画はもう削除されてる


33:名無しの探索者

うわああああああああん


34:名無しの探索者

あくはほろびた


35:名無しの探索者

脱線しすぎだろ!

雪姫ちゃんのスキルの話だよ!

一つは【一撃必殺】、無詠唱はマジックアイテムの効果

あと、上がってたやつ以外にもなんかやたら火力が高い理由とか

他は誰かわかる人いる?


36::名無しの探索者

さあ……


37:名無しの探索者

わっかんね


38:名無しの探索者

解散


39:名無しの探索者

というか雪姫ちゃん、登録者ヤバいことになってね?


40:名無しの探索者

見てきたけど、もう十万人!?

早くね?


41:名無しの探索者

これなあ……多分、全員雪姫ちゃんのファンってわけでもない

新規キーボスがいるんだから、対応する新規のガーディアンボスもいるわけで……

“初回攻略特典”目当てのやつが、情報欲しさに登録したんだろ

配信開始のタイミングで通知来るようにできるし


42:名無しの探索者

あー、なるほど

新規ガーディアンボスの情報目当てか


43:名無しの探索者

初回攻略特典に限っては、低ランクダンジョンでも見逃せないもんな


44:名無しの探索者

でも最初のチャレンジはキーボス倒した雪姫ちゃんだろ協会の規約的に

だからハイエナどもも雪姫ちゃんが動くのを待つしかないと


漁夫られないでほしいなー


45:名無しの探索者

ガーディアンボス戦配信してくれるかな


46:名無しの探索者

正直ガーディアンボスも見たいけど、それ以上にまた雪姫ちゃんの配信が見たい


47:名無しの探索者

わかる


48:名無しの探索者

あの癒しと超火力、癖になるww


49:名無しの探索者

俺はリアクションが好きだった

なんか初々しいというか、ダンジョンを楽しんでるのが伝わってくる感じ


50:名無しの探索者

あー

最近はビジネスっぽい空気あるからな

チャンネル伸びて金さえ稼げればいい、みたいな


51:名無しの探索者

確かにああいう純粋なダンジョン配信、久々に見たかも


52:名無しの探索者

つまり何が言いたいかというと……雪姫ちゃんマジ天使

推せる


53:名無しの探索者

うむ


54:名無しの探索者

次の配信まだかなー





「ブフォッ!?」


 初配信の翌朝、起きたらチャンネル登録者が十万人を突破していた。

 おかしい……昨日の夜の時点では一万人台だったはずなのに……!

 朝食中に月音に聞いてみる。

 月音は俺が作ったホットケーキを切り分けながらこう言った。


「理由は二つあると思うよ」


「二つ?」


「一つはお兄ちゃんがあまりに可愛すぎて世の中のロリダンジョン配信者を望む層にヤバいくらいぶっ刺さってしまったこと」


 ……


「おいおい月音、冗談はよしてくれよ。どこにロリダンジョン配信者がいるっていうんだ?」


「目を覚ましてお兄ちゃん。身長百三十五センチの銀髪幼女配信者なんて他にいないよ」


 最悪だ! この世界にこんなにロリコンが多いなんて! そしてそいつらに捕捉されているのが俺というのが本当に嫌だ!


「まあ冗談はともかく、お兄ちゃんの初心者っぽいリアクションがウケてたところはあると思うよ。実は登録したてで配信する探索者なんてほとんどいないからね」


「あー……実力がないと配信がグダってつまらなくなる、だっけ?」


「そういうこと。大抵Dランクくらいになって、ダンジョンに慣れてから配信スタート、みたいな人が多いかな」


 そういうこなれた人の配信が多いから、俺のどんくさい初配信も新鮮に見えると。


「お兄ちゃんの場合は外見が幼い感じだから、素で行った方がいいかなと思ったんだよね。まあ、トレジャーゴブリンの一件とか、そもそも夏休み中にお兄ちゃんを元に戻す方法を探す以上時間がないとか、理由は他にもあったんだけどさ」


「登録者が増えてるもう一つの理由は?」


「これ見てくれたら一発でわかるよ」


 ん?

 月音が差し出してきたスマホには、SNS“Twister”の雪姫名義のアカウントだ。


「……何か妙に通知が多いな……って、DМがとんでもないことになってる!」


 DМ、つまりダイレクトメッセージの通知欄に表示されるのは“99+”という数字。多すぎて表示しきれないのだ。おそるおそる開いてみると、内容はどれも探索者らしいアカウントからのものだった。



 ――ガーディアンボスの初回チャレンジ権を譲ってくれませんか? 対価は……

 ――ガーディアンボスの初回チャレンジで前衛をお探しではありませんか? ぜひ私と一緒に……

 ――ガーディアンボスの攻略に役立つアイテムをお求めでは……



「……月音。これ、もしかして昨日俺が新規キーボスとやらを倒したからか?」


「そう。ダンジョンの最深部にいるガーディアンボスには“初回攻略特典”ってものが存在するの。それ目当てのハイエナ連中が集まってきてるんだよ」


 初回攻略特典。

 あらゆるダンジョンのボスを最初に攻略した者に贈られるレアアイテムのことだ。一点モノユニーク装備やスキルオーブなど、滅多に手に入らないようなものがドロップすることもある。

 新規キーボスがいるということは新規ガーディアンボスが――すなわち初回攻略特典をゲットできる可能性があるということ。探索者たちにとってそれは重大な意味を持つ。


 ……らしい。


「何でわざわざ俺に……って、俺が“指”を持ってるからか」


 これがないと新規ガーディアンボスの部屋までの道がわからないと。


「それもあるだろうけど、そもそも今はガーディアンボスの部屋に誰も入れないからね」


「?」


「協会のルールで、キーボスを最初に討伐した探索者には真っ先にボスに挑む権利が与えられるんだよ。一週間の期限付きだけどね。それまでガーディアンボスの部屋は探索者協会の職員によって封鎖されるの」


 新規キー部屋を見つけたことの報酬、ってことだろうか。

 どうりで俺と一緒にガーディアンボスを攻略しようぜ! みたいな誘いが多いわけだ。俺を出し抜くことがそもそも探索者協会によって禁止されているのだから。


「ちなみに複数人でガーディアンボスを倒したら、初回攻略特典はどうなるんだ?」


「メンバーにランダムドロップだったかな」


 ふーむ。


「なあ月音、これって――」



 Prrrrrr!



 俺のスマホに電話だ。

 まさか親父か!? と思ったが違う。……知らない番号だな。


「すまん月音、電話に出る」


「あ、うん。どうぞ」


 とりあえず出てみよう。


「もしもし?」


『朝早くに申し訳ございません。探索者協会の者ですが、こちら白川雪姫様の携帯電話でお間違いございませんか?』


 この声、聞き覚えがある。

 確か神保町の探索者協会で、俺の登録手続きをしてくれた女性職員だ。


「白川です。ええと、何かご用でしょうか?」


『昨日の配信を拝見しました。新規キーボスの討伐、おめでとうございます』


「あ、ありがとうございます」


『配信初日であそこまで盛り上げ、ファンを楽しませ、さらには新規キーボスの初見討伐までやってのける……本当に素晴らしい初配信でした! 恥ずかしながら私もチャンネル登録をさせていただいたほどで!』


「ど、どうも」


 お世辞かと思ったけど、それにしては勢いがすごいな。

 もしかして本当に配信を楽しんでくれたんだろうか。それは少し嬉しい。

 女性職員ははっとしたように一度押し黙ると、話を戻した。


『すみません、それで本題なのですが……インプコマンダーの“指”はお持ちですか?』


「はい。魔力体にならないと取り出せませんけど」


『それを協会に預ける気はありませんか?』


「え?」


 どういう意味なのかと首を傾げる俺に、女性職員はこう説明した。


『白川さんが倒したキーボスのように、対応するガーディアンボスは未踏破エリアにいると考えられます。整備されていないルートなので、移動するだけで骨が折れるでしょう。そこで、未踏破エリアの解放までは協会の職員でやってはどうか、と案が出ておりまして』


「それに指が必要、という話ですか?」


『はい。どうでしょうか? もちろん、職員が先にガーディアンボスと戦うようなことはありません。あくまで開通工事のみです』


 話を聞く限り、こっちにデメリットはないように思える。面倒ごとを引き受けてもらえるなら願ったりかなったりだ。


『また、ガーディアンボスの部屋の前には腕利きのギルド職員を見張りに置きます。白川さんより先に誰かがガーディアンボスに挑むようなことはありません。……もっとも、この措置は一週間限定なのですが』


 これは月音が言っていたことと同じだな。


「わかりました。それじゃあ、お願いします」


『承りました。そうなると白川さんにはこちらにご足労頂くことになるのですが……』


 探索者協会に行かないと魔力体に【コンバート】できないので、自宅から指だけ郵送、というわけにはいかない。


「そのくらい構いませんよ。開通工事をしてもらうんですから、そちらにうかがいます」


『よろしくお願いいたします。……くれぐれも道中お気をつけて』


「? はい」


 なんか最後、妙に重々しい言葉だったな……何だったんだろう?


「悪い月音、探索者協会に行くことになった」


「あーうん。何となくわかるよ。ガーディアンボスの部屋まで開通工事をしてくれるって話でしょ?」


「ああ」


「それはいいけど……お兄ちゃん、さっき何か言いかけてなかった?」


 そういえばそうだった。


「ガーディアンボスと戦う時に、俺は他の人と組むべきだと思うか?」


 ダンジョン最深部にいるガーディアンボスが、キーボスより弱いってことはあるまい。


 意地を張って俺一人で挑んで勝てるかどうかは正直怪しい。俺が優先して挑めるのは初回のみだ。一度でも失敗すれば、もう初回攻略特典を得る機会は巡ってこないだろう。

 一夜でМチューブの登録者が爆発的に伸びたことから考えるに、初回攻略特典が配信に映れば、相当盛り上がるのは予想がつく。


 となれば、他人と協力してでも確実にガーディアンボスを倒すのがいいのだろうか。


「あー……人と組んで確実にガーディアンボスを倒すか、それとも撮れ高を狙って一人で挑むのがいいか、みたいな話?」


「撮れ高って言葉の意味はよくわからないけど、そうだな」


「いやソロ討伐狙い一択でしょ」


 何言ってんだ、とばかりに月音に言われた。


「簡単に言うなあ……俺、探索は素人なんだぞ?」


「別に勝てなくてもいいんだよ。あのねお兄ちゃん、雪姫チャンネルに今登録している十万人は、全員がお兄ちゃんに興味を持ってるわけじゃない。新規ガーディアンボスの情報狙いの人も大勢いるわけ」


「そういう話だったな」


「でもこれはチャンスなんだよ! どんな理由であれ、大人数がお兄ちゃんの配信を見に来る! そこで強い人と組んでガーディアンボスを倒してもらう配信なんかやっても、お兄ちゃんは後ろで棒立ちで終わるだけだよ! ソロで戦って、お兄ちゃんの配信のファンを増やすの。前に出て行かないと配信者の頂点は狙えないよ!」


「別に狙ってないんだよなあ……」


 こいつは俺が別に配信者として大成したいわけじゃない、ということを忘れてないか?


 でも、TS解除の情報収集をするために知名度はほしい。

 今は分岐点だ。理由はどうあれ注目が集まっている今、全力で目立ちに行くべきだよな。


「わかった、月音。俺、頑張ってみるよ!」


「それにお兄ちゃん別に格好いいで売ってないしね。負けて落ち込んでも可愛いからウケると思うよ」


「可愛い言うな」


 せっかくテンションが上がってたのに、やる気が下がるようなことを言うんじゃない。


 そんなやり取りの後、俺は探索者協会に向かった。


 ……協会には俺目当ての探索者が山ほど待ち構えていて、全員をあしらうのが死ぬほど大変だった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る