へんたい
「……ん? 何だ、あの行列?」
一層のある場所に探索者が列を成している。何だあれ?
気になったので並んでいる人に聞いてみる。
「すみません。これって何の列なんですか?」
「ああ、ここの奥にゴブリン
「へえ……!」
どうやらここは効率よくレベルを上げられるポイントのようだ。
せっかくなので並んでみよう。一人あたりの占有時間も決まっているようなので、そこまで時間はかからなさそうだし。
ふと壁を見ると、何やら貼り紙がしてある。
“ダンジョン豆知識”。
その貼り紙には箇条書きでダンジョンの基礎知識らしきものが書かれていた。
探索者協会が監修済み、というチェックもある。あれか。ここで並んでいる人間が暇にならないように、という協会の配慮だろう。
することもないし、眺めてみるか。
――――――
★☆ダンジョン豆知識!☆★
・モンスターと戦って倒せば経験値やドロップアイテムが手に入るぞ!!
・負けるとペナルティがあるので注意! 一時的にステータスが下がったり、スキルが使えなくなったりする! 最悪の場合は装備品を失ってしまうことも……!
――――――
ペナルティねえ。せっかく買ったローブをなくしたら出費も馬鹿にならないし、気をつけないとな。
少し進んだらまた別の貼り紙が。
――――――
・ダンジョン最下層にはガーディアンボスがいる! とても強いけど、倒すと大量の経験値が手に入る! レアなドロップアイテムもあるぞ! 一回しか倒せないのが残念だ!
・ガーディアンボスを倒せばダンジョン“踏破者”の称号を得られる! 探索者ランクもアップ!
・ガーディアンボスの部屋に入るためには対応する鍵を持つ“キーボス”を倒さないといけない! 協会のデータを確認して対策を立てよう!
――――――
ガーディアンボスにキーボス。
要するにダンジョンには何か強いモンスターがいる、という話だろう。まだ俺には関係ないな。レベル低いし。というかなぜこんなに文章のテンションが高いんだ。
……と。
「デュフッ……す、少しいいですかな?」
「はい?」
急に後ろから話しかけられた。
振り向くと、そこにいたのは――
「……うげ」
「むぉ? せ、拙者の顔に何かついていますかな?」
「あ、いや、その」
――山倉ぁあああああああああああああ!?
俺は脳内で頭を抱えた。
そこにいたのはクラスメイトの山倉
平均くらいの身長と百キロ近い体重を兼ね備えた逸材で、「ドフッ」「ヘフフ」などと独特な笑い声が特徴。席替えで隣になった女子からガチの悲鳴を上げられたという伝説を持つ重度のオタクだ。
一応何度か話したことがあるので、話し方の癖などから正体が俺だとバレる可能性がある。最悪だ……!
「フフ……拙者の見立てに間違いはないようですなぁ……猫耳フードで顔を隠そうとも、美幼女のオーラまでは隠しきれませんぞぉ……?」
「……」
ネットリとした視線で自分を見てくる山倉。
おっと、これはバレてないな? よし今のうちに逃げよう。何か身の危険も感じるし。
「私は用事を思い出したのでこれで!」
「あいや待たれよ!」
「ひぃ!」
腕を掴まれた。手ぇでっか、こいつ! というか俺の手首が細すぎるのか。
「すまぬ、驚かせるつもりは……ええと、貴殿は昨日デビューしたダンジョン配信者の“雪姫”殿ですな? 実はマークしておりましてな。自己紹介動画もばっちり確認していますぞ。いやあ……大変初々しくて可愛いですなあ。フヒ」
「ど、どうも……」
配信者として視聴者が増えるのは嬉しいことのはずなのに、笑顔が引きつってしまうのはなぜなのか。
「貴殿なら普通に配信をやっていてもブレイクするのは時間の問題でしょう! しかし拙者は遺憾! 貴殿の魅力をフルに活かせば、はるかに速く! はるかに高く! チャンネルをプロデュースできるっ!」
「は、はあ。プロデュース、ですか」
「うむ。拙者はダンジョン配信に詳しいですからな!」
自慢げに言う山倉。
そこまで言われると少し気になるな。
「……具体的にどんな感じでやったらいいと思いますか?」
「簡単なこと。これを着てくれればいい」
そうして自信満々に山倉がスマホ――ダンジョン内でも使えるように加工したモデル、俺は持っていない――の画面を見せてきた。
そこに並ぶのは、何か妙に肌面積の少ない水着を着ている小さな女の子のイラスト画像。
いわゆるマイクロビキニであった。
「……こ、これを私に着ろと?」
「うむ。やはり幼女といえばマイクロビキニ! 肌色の面積が増えればМチューブのチャンネルが凍結される恐れもありますが、まあそのリスクを飲んででもやる価値はありますぞ! 世界のロリコン大歓喜、話題沸騰間違いなしでござる! そしてその姿を間近で撮影する拙者――オゥフ、鼻血が止まりませんなあ!」
「……」
「銀髪ロリの丸出しのおへそ、やわらかそうな太もも……最高でござる!」
ふと思い出した。
そういえばこの男は確か教室で自分がロリコンであると大声で喧伝していたような。
どうやら今の俺の外見は山倉にとってストライクのようだ。
「あのー、さっきから何をしてるんですか? 協会に知らせますよ?」
と、列に並んでいる他の探索者が見かねて助け船を出してくれる。
「ひゅ、ヒュオフ? よ、横から口を出さないでいただきたいですな! これは拙者と彼女の問題ですので――」
パシッ。
汗を流しながら相手をしりぞけようとする山倉の言葉を遮るように、俺の手首を掴む山倉の腕を振りほどく。
「む? ど、どうしたのでござるかな?」
俺は、ただ一言告げた。
「……最低」
「ひょっ」
変な息を出して固まる山倉。
「自分より小さい女の子にこんな卑猥な格好をさせて、何がプロデュースですか? 自分の好みを押し付けてるだけじゃないですか」
「そ、それはその、戦略ゆえ……」
「二度と話しかけないでください、変態」
「あふんっ……」
心が折れたように倒れ込む山倉を無視し、俺は割って入ってくれた探索者に頭を下げる。
「声をかけてくれて、ありがとうございました」
「あ、はい」
「失礼します」
そのまま列を離れる。もはやレベル上げ効率がどうとかどうでもいい。今すぐ山倉から距離を取りたい。
去り際、「幼女の罵倒……!? ありがとうございますぅううううううう!」という雄たけびが聞こえたような気がするが気のせいだと思いたい。
……無事学校に行けるようになったら、あいつとは関わらないようにしよう。
<新しいスキルを獲得しました>
「……ん?」
脳内にそんな声が響く。新しいスキル? このタイミングで?
俺は山倉から十分離れたところで自分のステータスを確認する。
――――――
白川雪姫
▶レベル:4
▶クラス:魔術師(氷)
▶ステータス
力:2
耐久:4
敏捷:4
魔力:55
▶魔術
【アイスショット】:氷属性。氷の弾丸を飛ばす。詠唱「氷神ウルスよ、我に力を貸し与えたまえ。我が望むはひとかけらの氷のつぶて」
▶スキル
【オーバーブースト】:三十秒間全能力値を倍にする。一日一回のみ。
【クラス補正倍化】:レベルアップ時のクラス補正を倍にする。
【一撃必殺】:耐久が自分の十倍以上の相手と戦う時、まれに魔力が十倍になる。
【氷結好き】:氷属性の魔術を少し強める。氷属性以外の魔術を使うとスキル消失。
【魔術好き】:魔力を少し強める。魔術以外で敵にダメージを与えるとスキル消失。
New!【氷の視線】:目を合わせた相手を確率で“拘束”状態にし、氷耐性を弱める。
――――――
さっきまでなかった【氷の視線】というスキルが追加されている。
……まさか、さっきの山倉に向けた視線で? 確かに軽蔑の眼差しで見たような気はするが、そんなことでスキルを手に入れていいんだろうか。
「まあ、細かいことはいいか」
せっかくスキルを手に入れたんだ。人のいない場所で試してみようじゃないか。
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