めがね

喰寝丸太

めがね

 教室の机の上にポツンと忘れ去られた白色の眼鏡ケース。

 部活が遅くなって教室に戻ったらあった。

 眼鏡ケースには可愛いキャラのシールが貼られている。

 この席はたしか香川さんの席だ。

 香川さんは知的美人でクラスメートの人気も高い。


 届けてあげたら感謝されるかな。

 これがきっかけになって付き合うことになったりして。


 僕は淡い期待を胸に香川さんの家に急いだ。

 香川さんの家に着くころには、日は傾いて夕日になっていた。


 まず最初になんて言おう。

 こんにちはは普通だな。

 もっとインパクトのある挨拶か。


 やあは気安すぎるかな。

 あのは気弱な感じがして駄目だ。


 突然、扉が開いた。


「ひゃっ」


 香川さんがそこにいた。


「なにっキモイんだけど。ラブレター? それなら下駄箱にでも入れておいてくれたらいいのに。読まないけど」


 最悪だ。

 僕はパニックになった。


「これっ、プレゼントです」


 眼鏡ケースを差し出した。


「プレゼントって、これ私のじゃない」


 彼女は眼鏡ケースを手に取ってそう言った。


「困っていると思って」

「別に困ってなんかいないわ。スペアもあるし、コンタクトもあるから」

「ああ」


 何か言葉を捻り出さないと。

 付き合って下さいは駄目だ。

 今、僕に対する好感度は下がりっぱなし。


 今度映画でもどうですかもきっと駄目だろう。


「君が眼鏡を上げて、鼻筋を揉むのを見るのが好きだ」

「えっ、ふふっ、あなたって面白いのね。あんな仕草に魅力を感じるなんて」


 やった、とりあえず笑いをとれた。

 さらに好感度を上げるには。


「あれって最初鼻が詰まってると思ってた」

「失礼ね。眼鏡があそこに当たって痛いのよ。赤くなる時もあるんだから」


 ちょっと失敗。

 さあ、どうつなぐ。


「眼鏡が羨ましいよ。君を赤く出来るんだから。僕も君を赤くしたいな」

「告白? 誰とも付き合うつもりはないから。帰って」


 駄目だ。

 起死回生の一発を捻り出せ。


「君の眼鏡に僕の顔をアップで映したい」

「0点ね。もう帰って」


 扉は閉められた。

 ああ、さよなら。

 でも眼鏡ケースに僕のプリクラを貼っておいた。

 どうせすぐに剥がされるんだろうけど。


 次の日の放課後。

 眼鏡ケースがまた置いてあった。

 香川さんのだ。

 裏返すと僕のプリクラの横に彼女のプリクラが貼ってあった。

 やった。


 でも僕のプリクラには♡が割れた失恋マークシールが貼ってある。

 くそっ、僕は自分のプリクラを剥がした。

 置いていかれる眼鏡ケースが可哀想だ、主人を待っている犬みたいだ、相棒だろうと付箋に書いて貼った。


 なぜか、始まる眼鏡ケースを介した交換日記。

 これで良いとなんとなく思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

めがね 喰寝丸太 @455834

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ