メガネ男子にゃ興味ない

石田空

二次元でこそフェチは輝く

「おーのーれー……」


 ソシャゲをしてチギギギギ……と声を上げていた。

 最近ハマッている世界を救う系王道RPGをするのが、最近の専らの趣味だった。ガチャは無課金、Wi-Fiと相談しながら遊ぶ。これでエブリデイゲーム三昧だった。ワハハ。


「なに、またキャラデザ変わったの?」

「そうなんだよ。女の子がまたメガネ外した! 今時珍しいセーラー服三つ編みメガネの文学少女戦士っていうコテッコテのキャラだったのにさ。なんでメガネ外してんだ。しかも世界観的にコンタクトレンズないのにさ。なに考えてるの」

「ゲーム会社の集金率じゃないの?」

「資本主義! 悪!」


 私はグギギギギと歯を鳴らした。


「前から和香はメガネッ子好きだねえ」

「メガネはいくつあってもいいよ。フレーム、リム、それらによって似合うものはいくらでもあるんだから。自分に似合うメガネ付ける女子超サイコー」

「その割には和香はメガネ男子は好きじゃないね?」

「自分にあるものを男に求めてどうすんだ」

「……今の発言、さっきまでの語りと矛盾してない?」

「女子には女子のフェチズムを追求する。男子にはフェチより先に誠実さを追求したい所存です。たしかに私らの年代だとねえ、ちょい悪のほうが何故かかっこよく見えてモテるっぽいけどねえ。悪ぶって自分をよく見せようとする男なんてはっきり言ってクソだからね。その点で言ったら千歳は合格だね。いい奴だもの」

「ハハハハハ」


 千歳は乾いた笑いを漏らした。

 最近でこそメガネは個性だ、一種の価値だというのが浸透したが、未だにコンタクトレンズ信仰は長いんだ。

 だってコンタクトレンズ、目に異物を入れるから怖いし、目がすごい勢いで乾くし、少しでも眼球からズレたらなんにも見えないし、目から外そうとしても目に指突っ込まないといけないから怖いし、ときどき取れなくなるし。

 そんなこんなで「メガネ最高。メガネ最強」にメガネに出戻ってしまった。目に異物入れて頑張れる人間には私はなれなかったんだ。

 高校デビューの際周りに説得されて渋々コンタクトレンズを嵌めて「無理!」と諦めた私の近くには、いつも千歳がいた。中学からの同級生であり、押し付けられて保健委員同士になってから、ふたりで保健室当番の際にいろいろお話していた。

 どちらもインドア派であり、そこそこ映画が好きで、話が合った。一緒にソシャゲをしてフレンド登録して、それぞれのキャラを借りてゲームクリアに勤しみ、互いのガチャ運をたたえ合ったり罵り合ったりしていた。

 最近次々とコンタクトレンズユーザーに鞍替えしていく者たちが多い中、数少なくなったメガネユーザー同士のよしみとして、今後とも仲良くしたかった。

 それに千歳は乾いた笑いを浮かべる。


「和香はもしもこちらがメガネフェチと言ったら引く?」

「別に? 私もメガネ好きだし」

「でも二次元じゃん」

「さっきも言ったじゃない。三次元にはフェチより先に誠実さを所望するって。人のメガネ壊して笑って許してとか言ってくるような奴なんてへそ噛んで死ねって思うし」

「その言い方死語じゃない?」

「ひと月に一度言葉が生まれて死ぬご時世にいちいち死語を気にする暇はありません。その点千歳はいい奴だよ。人の話の揚げ足取るようなことは言わないし、一緒に遊んでくれるし、趣味も近いし。二次元的にはメガネだけれど、私三次元のメガネはマジでどうでもいいから。千歳が好きなのはフェチや推しとはまた違うよ」


 そう言ったら千歳は固まってしまった。

 私は「あれ」と思って気が付いた。

 ……これだとまるで私が恋愛的な意味で千歳のことが好きみたいに聞こえるなあ。


「ああ、ごめん。変なこと言った?」

「……あのさ、期待していい?」

「なにを」

「……和香の好きって、期待していい? それともその場しのぎの賑やかし発言?」

「ん-……」


 ああ、そう来たか。

 たしかに日頃から適当な発言ばかりしているから、真面目に真面目な千歳からしてみたら、適当に言った言葉か真剣な発言かは区別しにくい。

 でもなあ。普段だったら「適当こきました。ごめん!」で話を打ち切るところを、どうも打ち切りたくなかった。


「期待してもいいよ?」


 そのひと言で途端に千歳は破願した。

 その顔が好きだなあ。そう思ったら、私もなんだかんだ言って言葉通りのまま、彼のことが好きなんだなあと今更気が付いた。


<了>

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メガネ男子にゃ興味ない 石田空 @soraisida

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