震える大地
前方を遮る、竜のように長く大きな煙を見たレイは、少しの間足が動かなくなった。
しかし、すぐさま正気を取り戻すと、大声で叫んだ。
「タ、タクマ!」
「わかってる!」
そう言うとタクマは再び息を吸い告げた。
「
一目散に操舵室へ入ると、タクマは思い切り舵を右へと切った。
「まさかこんなところで...」
汚染物質が地上を覆うようになり、生態系は大きく変化した。
多くの生物が環境に適応できなくなり、地上で絶滅していった。
そんな中で最も環境に適応し、地上を支配した昆虫。それが『ドラッグ』だった。
天敵がいなくなった地上で、肥大化し、凶暴化し、更に有毒のガスを放出、纏うようになったドラッグこそが、人間が地上で暮らすことの出来ない最も大きな理由だった。
進行方向に立ちはだかる、50メートルはあろうかという怪物はこちらに気づくと、身体をうねらせながらこちらへと襲いかかってくる。
周囲の土や岩をことごとく吹き飛ばしながら進んでくるその巨体には、ぎらぎらとした生命力が頭から尾の先まで満ち満ちていた。
2人のMEGAが遅れて警告音を鳴らす。
「汚染物質を検知しました。直ちに後方へ退避してください。繰り返します...」
タクマの舵を握る手は震えていた。
いつだって生命の危機と隣り合わせでここまで来た。その度に、この震えは呪いのようにタクマに憑いてまわった。慣れることなど到底なかった。
前方の霧が少し晴れ、目の前に巨大な崖が現れる。
「進行方向100メートル先、断崖です。」
「MEGA!今から高度を上げて、あの崖を越えられるか?」
「...計算結果、上昇後、67%の船体欠損。右方向への方向転換を提案します」
「船が持たないか...」
視界がMEGAの算出する大気成分、高度などの数値で覆われるのが堪らず、タクマはMEGAを外す。
「あれは...」
霧で覆われ、姿の見えない崖の影をよく見てみると、一箇所だけ光が差しているのが僅かに見えた。
「レイ、突っ込むぞ!」
「まって!その先には崖が...」
「わかってる」
崖にさす光だけを見ていたタクマにはわからなかったが、甲板にいるレイにはわかった。
大地が揺れている。
巨大なワームが、広大な地面を震わせながら迫ってくる様は死を覚悟させるのに十分だった。
船は加速しながら直進する。
霧を抜けたその瞬間、目の前の崖が、大きくくっきりと姿を現した。
「やっぱり!」
タクマの見た光は向こう側へ通じる小さな穴だった。
レイは思わず目を閉じた。
船はそのまま、穴の中へと突っ込んでいった。
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