盲目飛行
わちお
盲目になる眼鏡
「6時45分30秒、起床時間です。繰り返します6時45分…」
あまりにも機械的で無機質な音声が強引に意識を常世に引っ張り上げる。
どれだけテクノロジーが発展しようとも、変わらず朝は人類にとってつらいものだった。
眠い目をこすりながらタクマは音声が3周目に入ったところで体を起こした。
顔を洗い、ベッドの横に置いていた眼鏡型携帯装置『MEGA《メガ》』をかけ、甲板へと出る。
ドアを開けると甲板には、一足早く起きていたレイがいて眼下に広がる荒れ果てた世界を見下ろしていた。
「おはよう。気を付けて、霧が出てて前が見えにくい。MEGAのサーチ機能をオンにしておいて。」
言われるがままに、MEGAの横側についているスイッチを2回押す。
すると、静かな機械音とともに目の前にホログラムが展開され、気温、湿度、方位、高度、周囲の地形などが表示された。
「高度を上げて。汚染区域に入りそう。」
「了解、方位はこのまま?」
「うん」
西暦3200年。人類の四度に渡る世界戦争の結果、地上のいたるところが荒廃し、汚染区域となり、世界人口は今でも減少の一途をたどっている。
衰退した文明の中で生きる数少ない人類は、わずかな希望にすがるように地球のどこかに存在する楽園、『エデン』を探し求めている。
様々な人間がエデンを探し求めている。
この小さな飛行艦に乗って旅を続けるタクマ達もそうだった。
「なぁ、レイ。エデンって本当にあるのかな」
「なに急に。無かったら今までの私たちの旅はどうなるの」
そういうとレイはため息をついて、付け加えた。
「MEGAがあるって言った。それが全てよ」
「MEGA…ねぇ」
人類が文明を発展させていく中で生まれたのがMEGAという高度な人工知能を搭載した眼鏡型の携帯装置だった。
流れゆく時の中でMEGAは、ほとんど人間と一体となっていった。
発展する文明より遥かに速く、人工知能は進化していった。
街のあらゆるサービスが人工知能になり、人間のスケジュール作成を人工知能が請け負い、戦時中は人工知能が作戦をたてた。
気づけば人々の行く道は、MEGAの示す道そのものになっていた。
タクマはMEGAを外し、昔のことを思い出した。
物心ついたばかりの時に祖父から聞いた話だ。
「昔の人間はこれに似た『めがね』というものをかけていたそうだ。しかし昔はこれは目の悪い人のためのものだったらしいがの」
MEGAを外したタクマは周りを見渡した。
前方に大きい崖が見える。
左に逸れなければ。
「俺達の目って、良くなるどころか…」
そう呟いてやめた。
操舵室に入り舵を切る。
飛行艦に乗る人類は先の見えない道を進んでいく。
その先に何が待っているのかすらも知らずに。
濃くなる霧もお構いなしに前進する。
不確実な
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