かわいいとは


 アトラクションに向かい、ロッカーに上着や鞄を突っ込み、携帯を服のポケットに突っ込む。

 アトラクションの予約は携帯管理なので携帯はいるのである。

「コースター系だよなぁ」

「素直に絶叫系かなぁ。それともイベント目で追っちゃってうはうはしちゃうタイプかなぁ。ドキドキするね!」

 うはうはなんだ。ネオン。

「パパが職後によく言ってる」

 ……おじさん。ネオン、おじいだからしかたないね。は愛があっても言っちゃいけないと思うぞ。まぁ、気さくな人だよね。

 アトラクション絡みのコスプレをしている人達も多く、混在しているからちょっと不思議なクロスオーバーが起きている。マスコットキャラとアニメや映画の世界観が混在する不思議空間だ。制服系が三種類集まると結構馴染んでしまう部分もあると知った。

 まぁ、コスプレ自体をしようと思えばなんちゃってくらいはできるんだろうけど、そこに充てる予算は少々厳しい。まだランチもおやつも食べたいものは残っているのである。自販機のドリンクもアミューズメント価格だし。

「あ、タイ君。タイ君もプリンセスティアラかぶってみる? 奢っちゃう」

「お小遣いはもう少し考えて使いな。女の子用のアイテムだろ?」

「だって、あそこのミスタープリンセスの集団ちょっとかわいくない?」

 指し示す方向を見ればプリンセスティアラを被ったアニキ集団がいた。

 ほっそりしたティアラからのびるベールと揺れるイヤリングっぽいアクセが目立っている。

 インパクトが大きい。

 かわいい……。

 かわいい、のか?

 楽しそうなら問題はないだろう。

 つまりかわいいのかも知れない。

「……うん。偏見よくないよね。あっちのサメに齧られ帽子の方がよくないか?」

 おれが悪かった。

「海賊帽とかあるかなぁ?」

 今の時期のアトラクション的にはないんじゃないかな?

「タイ君が不安になることがあるのと同じくらいネオンだって不安になるんだからね。新しく住む住宅の内見とか無理でも連れて行ってほしいって思っちゃうし、せめてどの辺りに引っ越そうって考えているかくらい教えて欲しかったし、むしろ、地元をはなれるかも知れない私との愛の巣は一緒に見に行ってくれないとイヤだとかあるんだけどね」

 おい、待て。

「途中から妙な未来願望になってるぞ。とりあえずは同棲も同居も学生中はしないつもりでいます。理解しましょう」

「えー。学生結婚とかカッコよくない?」

「カッコいいカッコ悪いで決めることじゃないだろ」

「いやぁ、パパが元気でママに育児手伝ってもらえるうちが最適かなって考えちゃって。今ならおばーちゃんもお世話してくれそうだし!」

 ネオン。

「他力本願すぎだろ」

 呆れるぞ。

「えー。頼れる部分は頼らなきゃ。確かにタイ君と居たいのが主理由だからお子様は別にどっちでもいいんだけど、耳年増感はあるかな」

 耳年増?

「育児にかかる体力とか。旦那の無理解とか。嫁姑問題とか。いろいろ」

 あー。

「ウチは姉さんいるしなぁ」

 ネオンに敵対的なんだよな、うちの姉さん。

「んー。お姉さんとはあんまり問題ないんじゃないかなと思ってる。ただ、うん。おかあさん、結構古風系じゃない?」

 そう、かなぁ?

「おれら姉弟を引き取ってくれた時は時短とかいろいろ対応してくれてたけど、なんだかんだで働く女性だし? ……おじさんが結構収入不安定とかはあったっぽいけど、アテにしてなかっ……た?」

 え?

 おじさん?

 あれ? 今気が付いてはいけないことに気がついたのでは?

 おじさんは実父とはそれなりに長い付き合いの友人で……あれ。地雷案件では?

「タイ君?」

「おかあさん、ダメンズに惹かれる系?」

 一気に不安になる。

 いや、最低限自分でも稼いでるって言ってたっけ?

「あー、姉さんが経済力は身につけろって言うのがわかったかも」

「ふぅん。ネオンとしては将来のやぼーに備えて経理と事務をタイ君が担当してくれると助かりますよ?」

 やぼーって。

「パパから経営権を奪う。それがネオンのやぼーだし」

「まずは資格取ってからだろ?」

「うん。だから、タイ君に協力してもらえると嬉しいんだよー。タイ君がネオンにとって都合のいい男だとネオンはマジ嬉しい」

「言い草サイアクだろ」

「知ってるー。あ、写真どーする?」

「んー。撮ってもらっとく?」

「変顔だったら持ち帰らないからねー」

「はいはい」

 どんなネオンだってかわいいだろうさ。

「あー、なーげーやーりー」

 説明会場までだらだら喋りながら歩いて途中挟まれる説明に耳を傾ける。

 通路からすでにアトラクション世界の世界観は滲み出し這いずってきている。

「ネオンはこの作品知ってるの?」

 そっと小声で問う。

「単行本と映画はおさえた!」

 あー、映画作品なんだ。

「ちょっとグロさはあるけどカッコよくて楽しいよ」

「へぇ、そうなんだ?」

 あれ?

「おれ、グロ苦手なんだけど?」

「だいじょうぶ。そこまでじゃないから!」

 待って。ネオン。

 ネオン基準で言ってないか?

 筋肉模型で「イカす!」って言ってたの知ってるからな!

「しんどかったら目を閉じてればいいよ。そしたら音声付きのジェットコースターだよきっと」

 あのね、ネオンさん。見えない動きも大概アレですよ?

 ああ、はい。持病はないし、コースター系は好きだよ。

「タイ君と一緒がいいな」

 あー。

 はい。

 勝てません。

 可愛いがすぎる。




 目を開けた瞬間、目前に異形がいてマジびびった。

 悲鳴は出なかった。

「けっこう可愛いかったね」

 ネオンくんはマジなにをかわいいと言ってるんですかね!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る