迷い
しっかりと腹にたまる丼物を注文し、デザートも添える。あと揚げた芋は正義。
「お店の人も面白いねー。たのしー」
まだあまり人のいないオープン時間すぐのレストラン。コンセプトに忠実なメニューにお店スタッフ。並ばずに済んだことに安堵しつつ小箱に入れられた調味料を丼に移す。
「おいしー」
きゃっきゃと楽しそうなネオンが料理をマズいと言っている姿は見たことがないなと思いながらおれも丼をかきこむ。
「ね。タイくんと食べる外食楽しくて美味しい」
「ん。おれも」
外に出れば出たで、チュロスにポップコーン、骨付き肉の屋台の行列に並ぶかどうかの話し合い。
ポップコーンもどのケースがかわいいかでものすごくうろうろした。
うろうろすれば、通りによってはパフォーマーによるパフォーマンスが繰り広げられていてネオンは楽しそうに寄っていく。
女子グループの配信系だろうか、練習だか撮影だかもちらりと目につく。
「タイ君よそ見しちゃダメでーす」
ネオンがおれを引きながらこっちを振り返りもせずに告げる。
ちょっとクセのある黒髪は結ぶのに不自由ない長さで切られている。明るくて基本的に親切だし、かわいい。すこし不思議な行動力だって目が離せず惹かれる魅力だと思う。
周りにはいろいろ気の回る友人も多い。それは男女問わずで。
「ネオンはおれのどこがいいわけ?」
無駄にささくれた気持ちのまま言葉がこぼれ落ちた。
ネオンが悪いわけじゃなくて、おれが納得できていない部分があるせいだ。
楽しいデート時間におれはなにを言い出してるんだと焦る。
おれ、最低じゃないか?
ネオンは無言でくるりとこちらを振り返り、じっと見上げてにっこり笑う。
「タイ君。面白いこと聞くよね」
え?
にこにこと手を引かれてちょっとばかり人のいない隙間に連れ込まれる。ネオンは猫や小動物の追跡が趣味なだけあっていきなりの穴場を見つけるのが得意過ぎる。
「悪い。いきなり言うようなことじゃなかったよな」
「うーうん。タイ君が気になったなら言ってくれていいの。いっつもタイ君がそれでいいよって言ってくれて甘えている部分も多いから」
ネオンが甘えてくることってあったかなぁ?
「あのね、好きな理由なんてわかんないの。でもネオンはタイくんが好き。他の誰かがタイ君のそばにいるのはかなりイヤ」
時々表に出されるネオンの独占欲は強めでわかってはいたけれど、それがいつまでも自分に向いているのかどうかもわからないことだと判断しているおれもいる。
ネオン、めんどかわいい。と思っているおれが八割だが。
「生物として億単位いる同種族の性別同士で、運命とかフェロモンとかホルモンの迷いとか言われたらタイ君にネオンより相性のいいめ、女の人とか出てくるかも知れないじゃない」
今、メスって言いかけたろ。ネオン。
「言ってないよ。言ってないからセーフだよね?」
「うん。まあいいけど」
「よくないし! ネオンはタイ君にはいつだってかわいいネオンでいたいんだからね」
いつだってかわいいと思っているけど?
ネオンは軽く深呼吸してじっとおれを見上げてくる。
かろうじておれの方が背が高いので上目遣いネオンが楽しめる。かわいい。
「ネオンはかわいいと思っているよ」
ネオンに告げれば、キッと強い視線で睨まれる。うん。見つめるって言うより睨むだこれ。
だんっと横から音が聞こえた。
おれの腰ぐらいの位置にネオンの靴が見えた。
え?
なんでおれネオンに壁ドン(足)されてんの?
「ネオンがなにしてもタイ君はすぐかわいいって言うから!」
え?
だってかわいいだろ?
「んっもう。絶対わかってないし。タイ君はズルい」
は?
え?
なにが!?
え?
おれが悪いの?
足を下ろしたネオンを支えつつ浮かぶ疑問符が消えない。
「ネオンが、フェロモンでタイくんを好きならタイ君が他を見てデレデレするのは許容すべきだと思うのよ」
は? なに言ってるの。ネオンくん?
「だって、生物的に家庭を築き、子孫をって望んだとして遺伝子として最適な相手を求めるのが本能なんだから、それを阻害するのは間違ってると思うの」
えーっと、いつものアレかな?
変に思い込んで持論を滑らせるアレ。
「つまり、ネオンにとって最良と思える相手がおれ以外に現れたら身をひけってこと?」
「ヤダ! タイ君がいい。フェロモン、本能や運命がなにを言ってきてもネオンはタイ君をはなさないし、タイ君もネオンをはなさないでほしい。よ」
上目遣い狡くない?
この近距離でそれ狡くない?
「あ。ネオン、次の予定時間だから向かおう」
メインで押さえておきたいアトラクションは予約をとってあるから時間は外せない。
「え。じゃあ急ご! あのね。タイ君。ネオンはタイ君が大好きだよ」
手を引いてネオンが笑う。
かわいくてズルい。
「そっちじゃなくて道はこっち!」
「なんで、わかるの!? すごいね。タイ君」
何度もパンフ確認したからね!
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