KAC20248 めがね
@wizard-T
色眼鏡
どうしてそんなに強いのか。
どうして俺から逃げようとしないのか。
あっちゃいけないはずなのに、どうしてもお前はへばりついて離れない。
俺は大人になったはずなのに。
昔の俺はガキだった。
何か自分と違う奴をダメなもんだって思って、常に見下して過ごして来た。
そのせいで、俺は何度も悔しい思いをした。こんな奴に俺が負けるなんてって。
そんである時、俺はふと鏡を見た。
悔し泣きを落とすために顔を洗いに行き、鏡を見てみた。
視力1.2のこの俺にへばりついている、お前の存在を。
その時のお前は、本当にきれいな色をしていた。
しかも、一色で。
俺は必死になってお前を掴もうとした。でもダメだった。いくらやっても、俺の手はお前をすり抜ける。まるで、最初から顔のパーツとして存在しているのが当然だと言わんばかりに。
俺はあわてて親父やお袋の顔を見たけど、二人にもお前はいた。
そして同い年の仲間にも、先輩たちにも。
みーんなに、レンズの色が違うだけでお前はいた。
で、そんなに色の名前なんか知らねえ俺でさえも、わかっちまった。
二人として、同じ色のレンズがねえって。
たまにすごく似ているのはあるが、似ているだけで同じじゃない。
もう一つ、感じた事もあった。
ダサい。はっきり言って、ものすごくダサい。
一刻も早く、外したい。
どうすれば外れるか、俺は必死になって考えた。
でも大人たちは笑うか、外しようがないかしか言わない。
「目一杯世界の事を知る事だね」
そんな中、親切な大人は教えてくれた。
そうか、いろんな事を知ればこれは外れるのか。
その人はステンドグラスみてえなレンズをしてた人がナニモンなのかは、もうどうでもいい。
とにかく俺は、ダサいこいつとの別れのためにいろいろ頑張った。
勉強もしたし、スポーツもしたし、ボランティア活動もしたし、友達とも仲良くした。
そのおかげでいろんな色のレンズを持った奴とも出会い、同じようにダサいと思ってるやつにも出会えた。
そうして数年かけて、ついに俺の顔からそいつは外れた。
はずだった。
だってのに。
結局、お前は戻って来た。
(お前は結局超一流の俺を手に入れただけなんだよ)
そいつから聞こえてくる声。
ふとその過程で出会った大人の皆さまを眺めてみると、誰も彼もステンドグラスめいたそいつをかけている。確かに一色よりはずっと素敵かもしれねえけど、結局は死ぬまで逃げようなんかねえって事か。
ああわかったよ、せいぜいもっともっときれいなそれにしてやんよ。
世界中の色を集めたような、きれいな色眼鏡によ。
KAC20248 めがね @wizard-T
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます