第32話 会談とパーティー
王都に到着すると、出迎えの人たちが待ち構えていた。
「アラムドラム帝国のジャスター殿ですね。ようこそ、お待ちしておりました」
「出迎え、ありがとうございます」
ジャスター様が代表して、出迎えてくれた王国の高官たちと挨拶を交わす。先触れで訪問を知らせてあったので、スムーズに話が進んでいく。
「長旅でお疲れでしょう。お食事とお風呂を用意させてあります」
「それは、ありがたい」
「では、こちらへ」
王都にある迎賓館へ案内される私たち。道中の案内も非常に丁寧だし、かなり気を遣われているのを感じる。
迎賓館に到着すると、使用人たちが急いで荷物を運び込む。それから、兵士たちが防衛の配置を確認するため動き回っていた。私たちは、明日以降の予定の再確認。その後は、明日に備えて休む。旅の疲れを癒やすことに専念した。
翌日、会談が行われる。ジャスター様と、今回の任務に同行する帝国の貴族たちが向かう。私は、夜のパーティーに備えて準備をするように指示された。
「お気をつけて、ジャスター様」
「エレノラも、気を抜かないようにね」
「はい。何か起きたら、護衛の兵士たちを頼ります」
「それでいい」
ジャスター様の一行と、護衛の兵士が数十名ほど迎賓館を出発した。残った人たちで、迎賓館で待機。向こうに行った兵士は精鋭で、残っている兵士も優秀な人ばかりだ。なので、何か起きても心配いらないはず。警戒は続けるけれど。
「エレノラ様、今のうちにドレスとアクセサリーの確認をしておきましょう」
「お願いね」
侍女たちがテキパキと準備を進めてくれる。彼女たちのおかげで、夜のパーティーも問題なさそうね。
夕方になり、ジャスター様が戻ってきたと侍女から報告があった。彼を出迎えましょう。玄関に向かうと、会談を終えて戻ってきた者たちの姿が見えた。彼らの表情は明るい。どうやら、良い結果を得られたようだ。
「お帰りなさいませ、ジャスター様」
「無事に会談が終わったよ。話し合いも上手くいった」
「それは、おめでとうございます」
無事に戻ってきてくれて良かったと、ホッとした。会談もうまくいったみたいで、一安心。
「パーティーに参加する準備は、出来ているかい?」
「準備、出来ています。今すぐ行きますか? それとも、少しお休みになってからにしますか?」
「いや、行こう」
ドレス姿に化粧も完全に済ませているので、すぐに出られる。ということで、今度は私も一緒にジャスター様と迎賓館を出発する。会談で頑張ってくれたジャスター様を労って、今度は私が頑張る番。帝国のために働きましょうと、やる気をみなぎらせる。
「今夜の君は、とても美しい」
「ありがとうございます」
「本当に綺麗だよ」
私は、手を差し出す。彼が、私の手を取った。エスコートしてもらう。彼の言葉に、胸が高鳴る。私は彼に褒められるのが好きだ。褒めてもらえると、嬉しい。そして、もっともっと褒めてもらいたくなる。
さてと、ここからは任務に集中しないと。
パーティー会場に入ると、たくさんの人が集まっていた。見覚えのある王国貴族の方々が、歓談している。その雰囲気に違和感があった。
なんとなく薄暗い。会場全体が、どんよりしているように感じた。私はジャスター様に体を寄せて、感じ取ったことを小声で伝えた。情報を共有する。
「私が記憶していた頃よりも、空気が重い気がします。想像していたよりも、王国の状況は危ないのかもしれません」
「なるほど」
入手した情報より、こうやって実際に肌で感じて分かることがある。
その後、王国貴族の方々とジャスター様が挨拶を交わしていく。私は笑顔で彼の横に立ち、会話には混ざらず静かに控えていた。挨拶の途中、何か言いたげにチラチラと私の顔を見てくる人が居た。
しかし、事情を聞き出そうとしたり、話しかけてくる人は居なかった。今の私は、ジャスター様の妻だから。つまり、帝国の人間ということ。
その時になって、ラドグリアの王が私たちの前にやって来た。
「楽しんでおられるかな、ジャスター殿」
「はい。素晴らしいパーティーに参加させていただき、感謝しております」
「そうか。明日は、特別な催し物も用意している。そちらも、ぜひ参加してくれ」
「ありがとうございます。楽しみにさせていただきますよ」
すると、王が私の顔をチラッと見た。
「そちらの夫人も、きっと気に入ってくれるはずだ。期待していてくれ」
それだけ言って、挨拶もそこそこに王は去っていった。特別な催し物。私にも参加してほしい、ということかしら。それが、私を王国のパーティーに招待した理由?
「特別な催し物というのは、どういったものでしょうか?」
「私も詳しくは聞いていない。しかし、危ないものではないだろう。あの王からは、敵対心を感じなかった。今日の会談でも、ほぼ無抵抗に近い対応だったから。戦争を仕掛けようという気配は無い」
「そうなのですか。とはいえ、警戒は続けたほうがいいかもしれません」
「そうだな」
その後、粛々とパーティーは進んだ。特に、変わったことはなかった。和やかに、パーティーは終わりを迎えようとしていた。
パーティーが終わって迎賓館へ戻り、お風呂でゆっくりと疲れを取った。今のところ、何も問題は起きていない。
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