第31話 王国へ

 王都へ向かう道を、複数台の馬車が走っていた。


 私とジャスター様は、隊列の真ん中付近を走る一番豪華な馬車に乗っていた。前と後ろの馬車には、帝国の貴族が数名同行している。王国が主催するパーティーに参加するため。さらにその周りにも馬車があり、世話係の使用人が数十名、護衛の兵士が数百名という大所帯で移動していた。


 他国に出向くのには、十分な準備と警戒が必要だと思う。けれどこれは、ちょっと過剰だと思うような数。そんな集団を指揮するのがジャスター様だった。


「王国にプレッシャーをかける、ということですか」

「それもある。君が集めてくれた情報によると、予想していた通り王国は困っている状況らしい。そこで私たちが余裕を見せて、帝国を攻めようという気持ちを萎えさせる。捨て身でも無理だと思わせるぐらい、帝国の余裕を見せておきたい」

「なるほど」


 ジャスター様の考えを聞いて、納得する。私が集めた情報も有効に活用してくれているみたい。役に立てたようで、嬉しいと思った。


「戦争は起こさない。帝国の今の方針は、内政に力を注ぐこと。今は、余計な戦いで資源や人材をすり減らしたくない、ということですね」


 おそらく、戦争になっても帝国が負けることはない。だけど、損害は出てしまう。前にも話し合った今後の方針について、変更はない。帝国が主導権を握れるように、舵を取る。


「その通り。君たちが帝国へ来てくれたおかげで、特に今は優秀な人材も集まっているから」

「そんなに評価してくれるなんて、彼女たちも嬉しいでしょう」

「正当に評価しているのさ。そして、君のことも評価しているよエレノラ」

「嬉しいです」


 ジャスター様に褒められて、とても嬉しい。やっぱり彼は褒め上手。


「ところで、エレノラ。どういう気持なんだ? 生まれた国に戻ってきて、何か感じるものはあるかい?」

「うーん、そうですね……」


 何気ない質問に、私はじっくりと考える。今、自分がどういう気持ちなのか。何を感じているのか。馬車から見える風景を眺めた。この辺りは通ったことがある道ね。見覚えのある景色。もう少しで、王都に到着する場所。


 それを見て思うこと。


「懐かしいとは思いますが、帰りたいという気持ちは、もうありませんね」

「そういうものか」


 自分でも驚くぐらい、冷めていた。もしかしたら、生まれ育った王国の景色を見て帰りたいという気持ちが湧いてくるかもしれないと思っていた。でも、そんな気持ちは一切なかった。むしろ、早く帝国に帰りたいと思う。


 そう。帝国に帰りたい。私は、そう思った。


 ここはもう、自分の居るべき国じゃない。私はジャスター様と一緒に居たい。そんな思いが強いからだろう。


 これからどうなるのか。無事に任務を終えて、何事もなく帝国に帰れたらいいな。それが、今の私の正直な気持ちだった。

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