第23話 近くで見てきた友人について ※リゼット視点

 今になって思う。エレノラの誘いに乗って、本当に良かったと。


 話を聞いた当初は、彼女のことを少し疑っていた。何か企んでいるのか、嫌がらせなのか。アルメルという女に気を付けろと言われたが、その真意がわからなかった。その辺に居るような令嬢を、なぜ警戒しなければならないのか。


 でも、エレノラと話すのは楽しかったし、彼女の人柄は好きだった。普通に友人として付き合うのなら、エレノラは良い子である。一緒に居たいと思える人だった。


 そんな彼女から言われたことだから、ちょっと気にしてみるかしら、というくらいは思っていた。




 あれよあれよという間に、私は婚約を破棄された。


 例のアルメルという女が、トゥーサンを奪っていった。エレノラの忠告を聞いて、もっと気を付けるべきだった。


 だけど、こんなことになると分かっていたのならもっと早く教えてほしい。それなら、前もって動けたかもしれないのに。詳しく教えてくれたら対処できたかもしれないのに。そう考えて、エレノラに対してイラっとした。


 でも、すぐに反省する。エレノラはちゃんと事前に教えてくれたし、信じなかった私の責任なのでしょう。

 

 それに冷静になって考えてみると、そこまで執着するような男じゃなかったのよ。他の女に目移りするような軽薄な男なら、譲ってやってよかった。


 あれだけ強烈に感じていた、トゥーサンに対する好意がスッと冷めた。王を支え、共に王国を導く宰相になると誓っていたのに。その望みを放って、女なんかに夢中になっているような、そんな男に用はない。


 デュノア家も、彼のために色々と投資してきたのに全てが無駄になってしまった。それが、とてもむなしい。




 それから、エレノラが集めた令嬢たちも同じように婚約を破棄されていった。とんでもないことになったと思った。このままじゃ、王国の未来すら危ないのではと。


 だけど、エレノラは冷静だった。何か考えがあるらしい。そんな彼女を見て、私も冷静になれた。それからエレノラも、王子から婚約を破棄された。本当に大丈夫なのかしら。さすがに心配になってきた。これから、どうするつもりなのかしら。


 大変な状況だけど、ちょっとだけワクワクもしていた。


 そんな私の期待を大きく超えて、エレノラは動き始めた。彼女は私たちに提案する。アラムドラム帝国への移住を。


 私の友人は、凄いことを考えつく。しかも、それを実行しようと計画まで立てた。普通ならあり得ない。王国で生まれた貴族が、他の国へ行こうなんて突飛な発想。けれど、面白いと思った。私は大賛成。


 エレノラと出会って友人になった時、彼女を信じられなくて、疑ってしまった。だけど、今度は信じ切る。彼女の計画に全力で乗らせてもらいましょう。


 まさか、自分が亡命するなんてね。いや、正式には亡命じゃないらしいけれども。エレノラの話によると、ちゃんと手続きを済ませて帝国に移って来たらしい。私には、どうやったのか詳しくは知らないけれど。


 とにかく、そうするように私たちを追い込んだ彼らは馬鹿だと思う。特にエレノラを自ら手放すことになった王子は、後悔すればいいのよ。


 帝国へ行くので、彼らの悔しがる様子を近くで見れないのが少し残念ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る