第22話 プロポーズ
妻になってもらいたいと言われた。これってプロポーズ。いえ、でも。
「ジャスター様には、婚約相手が居るんじゃ……?」
「私に婚約相手は居ない。何度か話が来たが、全て断っている」
きっぱりと言われて、私は混乱した。
「本当ですか?」
「本当さ。嘘は言わない」
ジャスター様の目をじっと見つめて、私は判断する。彼は、嘘をついていないわ。そのはず。私の願望が、そう思わせているわけではないのよね?
彼には婚約相手が居ない。それなら、私にも希望がある。でも、ダメよ。他にも、気にしないといけない問題があるから。そうじゃないと私は……。
「私は王国の人間だったから、帝国の貴族であるジャスター様と結婚してもいいのでしょうか?」
「もちろん、問題ないよ。君の友人だって、そうしているじゃないか。既に、うちの父上には説明済みだからね。君の両親にも後で話をしないといけないけれど、必ず説得してみせる」
私の疑問に即答するジャスター様。自信満々で、それだけの覚悟が伝わってくる。
「君は、どうしたい? 正直に答えてほしい」
「ッ!?」
ジャスター様が、私の手を握る。私より大きくて温かい手だ。私を、心から心配してくれるのがわかる優しい瞳。この人なら信頼できる。信じたいと心が叫んでいる。
「私は……」
どうしたいのか、考えてみる。すぐに答えは出てくる。彼と一緒に居たい。そう思っていた。だけど、本当にその答えを口に出していいのか、ためらう。
貴族としての役目。家の発展のため、考えて結婚しなければいけない。両親の考えもある。だから、自分の意見だけで決めていいものなのか。ここで、答えを出していいのか。
私は、素直になってもいいの? でも、迷惑じゃないかしら。
戸惑っていた。そんな私の気持ちを察したのか、ジャスター様が微笑む。
「好きだ。一生、そばにいてほしい」
「っ!?」
真っ直ぐな言葉。ズルい。心が刺激される。そんな事を言われたら、私は。
「私も、ジャスター様と一緒にいたいです!」
自然と、自分の気持ちが口から出た。止まらなかった、私の本心。それが本当に正しいのか、まだわからないけれど。
「よかった」
ジャスター様が笑って、私を抱きしめる。力強い抱擁だった。彼の体温を感じる。心臓の音が聞こえてくる。彼もドキドキしているんだわ。同じ気持ちでいる。そう思うと、とても嬉しかった。
だから私も、彼を抱きしめ返す。
彼と見つめ合う。顔が近づく。唇が触れる。キスされたんだと気がつくまで、少し時間がかかった。初めての経験だった。
「これから、よろしくね。エレノラ」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。ジャスター様」
私たちは、2人で結婚することを決めた。そうと決めたら動き出す。なるべく周りに迷惑をかけないように。祝福してもらえるように。
まず、両親に事情を説明した。ジャスター様と私の婚約はすぐに認められた。
「ようやく決めたのか」
「この子のこと、よろしくお願いしますね」
両親は、私がジャスター様と一緒になることをずっと待っていたらしい。いつ決めるのかと、毎日ソワソワしていたとか。そんなに期待されていたなんて知らなかったわ。
一度、両親が望んでいた婚約を破棄されてしまったから、今度は絶対に失敗しないようにしたい。
話が決まると、それから一気に事が進んだ。彼の家も、彼の結婚を望んでいたみたい。その期待の表れなのか、あっという間に結婚式の日程が決まり、準備が完了して、結婚式の日を迎えることになった。
自分たちが考えていたよりも早く、私たちは夫婦関係に。
「気が早くて、すまないね。うちの両親も待ち望んでいたみたいで」
申し訳なさそうに謝るジャスター様。いえいえ、問題ありません。
「私は嬉しいです。こんなに早くジャスター様の妻にしてもらえて、幸せですよ」
「そうか、ありがとうエレノラ。改めて、これからもよろしく」
「はい。よろしくお願いします、ジャスター様」
王国から帝国に来て、こんなに素敵なパートナーと出会えるなんて。帝国に移ってきて本当に良かったと思った。
ここがゲームの世界だと知って、ヒロインが現れてから次々と男たちが虜にされていく場面を見せつけられて、不安で仕方なかった。
でも、もう大丈夫。私には彼が居るもの。これからは安心して過ごせそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます