親友の好きな人 = 私の好きな人
阿々 亜
親友の好きな人 = 私の好きな人
私と
学区が同じで成績も同じくらいだったので小中高とずっと同じ学校だ。
だから、お互いのことはほとんど何でも知っている。
初恋がどこの誰だったのか……
小学校のときに誰が好きだったのか……
中学のときに誰が好きだったのか……
そんな春子が
私たち二人とも入江君のことはもともとよく知らなかった。
中学以前は別の学校で、背は少し高いけど、顔立ちは普通。
成績は中の上で、部活はテニス部だけど特に活躍しているわけでもない。
1年の頃は別のクラスだったので、こう言っては入江君に申し訳ないが存在も認識していなかった。
それが2年のクラス替えで春子ともども入江君と一緒のクラスになった。
春子も最初は入江君のことを気にしているわけではなかったが、1学期の間に何度か言葉を交わすうちに、そのしゃべり方や声、出てくる言葉のセンスが春子の心の琴線に触れたのだそうだ。
夏休みに入る前は「ちょっと気になるかも……」と言っている程度だったが、夏休みで入江君と会えなくなり、日に日に「入江君に会いたい……」「入江君に会えないのがつらい……」「早く夏休みが終わってほしい……」と、春子の入江君熱は真夏の太陽よりも暑苦しいくらいだった。
私はそんな春子を微笑ましく思い、全力で応援しようと誓った。
なのに……
あんなことになるなんて……
「この腐れメガネフェチ!!」
「だって……だって……しょうがないじゃない!!」
凛香は机につっぷして「うわあああぁぁぁっ!!」と号泣した。
凛香の泣き声は、始業前の教室いっぱいに響き、クラスメイトたちが何事かと遠巻きに二人を注視している。
その中に事の発端たる人物、
「嫌な予感がしてたのよ!! 夏休み明け、入江君が眼鏡かけてきたときに、メガネフェチのアンタが邪な感情を抱くんじゃないかとは思ってたけど、言うに事欠いて『ごめん、私も好きになったちゃった♪』だぁ!? ほんの1週間前に『頑張って!! 私、全力で応援する♡』ってほざいた舌でよくそんなことが言えたなぁ!?」
そう、入江陽一は以前から少しずつ視力落ちてきており、そろそろ潮時だと考え夏休みの間に眼鏡を作り、夏休み明けに眼鏡デビューしたのである。
そして、その眼鏡姿が凛香の心にどストライクしてしまったのである。
「親友の性癖どうこう言いたくはなかったけど、今回ばかりは言わせてもらう!! あんなガラス玉二つくっつけてきただけで恋愛感情抱くとか、アンタの脳ミソ腐ってるわよ!!」
「春子はメガネのこと何もわかってない!! ただメガネをかけてればいいってもんんじゃないの!! メガネの形の良し悪しは言うまでもなく、メガネと装着者の相性、かけてないときとのギャップ、装着したことで溢れ出す知性!! それら全てを愛でるのがメガネ愛なのよ!!」
「ンなもん、よそでやれ!! 私と入江君の間に入ってくんな!!」
「いいえ、入江君じゃなきゃダメなのよ!! 入江君とあのメガネとの相性は常軌を逸している!! 入江君の身長、体格、髪型、顔立ち、声、それにあの形のメガネを合わせるのはもはや芸術!! まさに神が生み出した奇跡!! もう入江君の本体はあのメガネだと言っても過言ではないわ!!」
「過言だわ!! お前、それもうバカにしてるだろ!?」
ヒートアップした二人はいつの間にか席を立ち、教室の中心で罵詈雑言の応酬を繰り広げ、二人囲むクラスメートたちはオーディエンスとなって「いいぞ、いいぞー」と歓声を上げていた。
そんなバカ騒ぎをよそに、一人の人物が教室に入ってくる。
「おはよー。あれ? なんの騒ぎ?」
騒動の原因が自分だとも露知らず、入江陽一は涼しい顔でそう言った。
クラスの全員が陽一を注視するが、次の瞬間全員が困惑した。
そして、一番近くに立っていた男子生徒がクラス全員の疑問を代弁した。
「入江……お前、眼鏡は?」
そう、入江陽一は問題の発端である眼鏡をかけていなかったのだ。
「あー、夏休み中にできた彼女が似合わないってうるさくてさ。コンタクトにかえたんだ」
陽一の言葉にクラス全員が絶句する。
数秒後、学級委員がぱんぱんと手をたたいて全員に号令をかける。
「解散」
全員やれやれといった様子で各々の席についていく。
陽一もよくわからないまま自分の席に向かっていった。
最後に教室の中央に凛香と春子だけが取り残される。
二人は友情を取り戻すべく言葉を交わす。
「頑張って!! 私、全力で応援する♡」
「うるせーよっ!!」
親友の好きな人 = 私の好きな人 完
親友の好きな人 = 私の好きな人 阿々 亜 @self-actualization
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