めがねじゃないのは僕と君だけ。

杜侍音

めがね


「おはよー! あ! ○○ちゃんもめがねにしたのー?」

「そうなのー! 目が悪くなっちゃってお母さんに怒られちゃった。でも、これでみんなとお揃いだねー!」


 とある大学のチームが調べた、小学生の近視有病率は2017年で76.5%。中学生ともなると94.9%にものぼる。

 ……それよりも進んだ現在では、もうほとんどが眼鏡を付けるようになっていた。

 僕たちのクラスも例外じゃない。むしろ例以上。



「もう眼鏡をかけてないのわたしたちだけだね」


 同じクラスのリエちゃんは給食後の掃除時間の時に、集めた埃やゴミを掃きながら呟いた。

 ちりとりを持つ僕は「そうだね。一組はもうみんな眼鏡らしいよ」と、返事をした。

 僕たちの小学校はコンタクト禁止だから目が悪くなれば強制的に眼鏡で視力を矯正される。


「ぷっ……」

「どうしたの?」とリエちゃんに聞かれたけど、脳内でできたダジャレに一人ウケたとは言えなかった。

 ……好きな子の前ではクールぶっていたかったのだ。

 だからこそ裸眼なのが僕たちだけになったことはちょっと嬉しかった。一組も二組も先生まで眼鏡だから、本当に僕たちだけだった。


「卒業まであと半年だね。わたしたちはこのままでいようね」


 僕は頷いた。


 僕は目が悪くならないようにと早寝早起きは心掛けていたし、健康になるならと苦手なものもいっぱい食べた。

 テレビは明るいところで離れて見たし、ゲームもスマホも一日一時間までにしていた。

 全部リエちゃんとの約束を守るために。


 それに眼鏡なんてダサいじゃないか。

 目が小さくなったり大きくなったりで宇宙人みたいになるし、縁の部分なんて邪魔だし。

 まぁ、眼鏡じゃない方が少数派で変だから、別に僕がモテるということはなかったけど。

 でも、いいんだ。リエちゃんさえ振り向いてくれたら。

 だから卒業式が終わったら告白して……中学からはカップルになるんだ。


 ──卒業式の練習中、そんな感じで終わったことばかりを妄想していると、体育館の壇上への階段を踏み外した。


美國みくに、大丈夫か」

「大丈夫です!」


 踏み外したのは美國リエちゃんだった。妄想ばかりで彼女か、目を離していたばっかりに……まぁ、助けれるわけじゃないんだけど。

 でも、特に怪我はなくて大事には至らなかった。

 ふぅ、よかった……。


 そして、迎える卒業式。

 僕は自分の目を疑った。


「おはよー! あ! リエちゃんもめがねにしたのー?」

「そうなのー! あんまり足元見えてなくて怪我しそうだったからお母さんが買ってくれたんだ。でも、これでみんなとお揃いだねー!」


 とうとう裸眼は僕だけに……そ、そんな……僕とリエちゃんだけの裸眼が……ガーン。

 すると、フッと僕は彼女への想いはなくなってしまったような気がした。

 あー、きっと特別感ってだけで好きだったんだ。他のみんなと同じになってしまい魅力を見失ってしまった。

 ……僕が、一番目はいいはずなんだけどな……ぷっ。


 まぁ、いいや。

 卒業式なんて終わったら、さっさと帰ってしまおう。






「──ずっと、雷斗らいとくんが好きでした。わたしと付き合ってください!」

「うん! いいよ!!」


 帰ろうと思ったらリエちゃんに告白されたので、すぐさまオッケーした。

 だって、眼鏡姿のリエちゃんと正面から目を合わせたらすごく可愛かったもん。

 僕は眼鏡な彼女にも目がねぇ、なんてね。ぷっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

めがねじゃないのは僕と君だけ。 杜侍音 @nekousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ