七色少女の恋愛奮闘記

蒼雪 玲楓

頑張れ私達

『七色少女』


 そう呼ばれる少女がいた。


 その由来は彼女のよさを語った者がそれぞれ異なるところを挙げ、多彩さとその全てを一つとして見た時の魅力が虹に例えられたことからだと言われている。



「はー、つかれたー!」

「ちょっと、だらける前に制服から着替えなさいよ」

「えー、ちょっとだけちょっとだけ。五分休憩したらやるからさ」

「あなた、そういうこと言う時は大体やらないじゃない」


 その七色少女と呼ばれる張本人である巡 彩花めぐり さいかは自室のベッドに寝転がっていた。

 寝転がって誰かに注意されているように聞こえるが、

 この部屋には彩花しかいない・・・・・・・


 それはつまりこの会話は全て彩花の独り言ということになる。


 彩花にしか見えない何かが話しかけていて、それに返事をしているという形の会話でもない。

 彩花が彩花に話し掛け、それに彩花自身が返事をする。そう形容するのが正しい状況となっている。


「んーと、何かあるかなー……って、わわ!」


 それから数分後、スマホを操作していた彩花が突然慌てだす。

 その理由は今届いた一件のメッセージ。


『今から遊びに行ってもいい?』


 そのメッセージにはこう書かれていた。


「ねえ、どうしよどうしよ!?まだ制服なんだけど!?」

「だから言ったじゃない、先に着替えなさいって」

「こんなことなるなんてわかんないじゃん!」

「ひとまず、着替えたらどうかしら。お気に入りの部屋着はちゃんと片付けてありますわよ」

「それは、そう!」


 慌てる彩花を彩花自身が嗜め、それを更に彩花が宥める。慌てている状況にも関わらずふざけて一人芝居をしているように見えるが、彩花自身はいたって真面目だ。


「ねえ、手作りのお菓子ってまだあったっけ!?」

「ざんねーん、昨日たべきったよー。元々は今日は休憩して明日作るよていー」

「うわーん、私のばかー!」


 彩花自身だけで会話しながらも着替える手は一切休まることはない。自分と会話しながら何か動作をすることに慣れている、あるいはずっとそうしてきているのがわかると言い換えてもいい。


「はい、服はひとまずオッケー!。部屋の片付けは?」

「いつも通りは維持できてる。遊ぶ分には問題なし」

「他に何か確認することあったかな?私達」


 彩花自身への問いかけの答えは数瞬の沈黙。


「何もなし、だね!」


 彩花はそれを問題なしという返答だと解釈する


「それじゃ、頑張っていくよー!」



 これは、自分には一つのことしか頑張れないのなら複数の自分がいればいいのではないか、そう考えて実現してしまった少女が自分と共に恋を実現するために邁進する物語である。

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