第5話 波島彩香(なみしまあやか)

「おいッ!どういうことだよぉッ!!」

「先輩とかそういうのカンケーねぇから!」

「なんとか言ってほしいんですけどーッ!」

現在・・・俺は体育館舞台の袖裏で目の前のギャル3人に呼び出され、問い詰められている。


やばいッ!このシチュエーションはやばいッ!

何がやばいッ!って、この後ギャルにしばかれると思いながら、ワクワクしている自分がヤバい!!

最近の殴られ屋練習を数多くこなし、もうすっかり性癖が歪みに歪んでしまっていることを俺はしみじみと実感している(手遅れ)・・・。


「おいッ!何ちょっと嬉しそうな顔してんだよッ!」

「いやいや違う違う!と、とにかくもう少しちゃんと事情を聞かせてくれないかなぁ?」

それから彼女達の言い分を聞くと・・・彼女達は先日、俺の家に生徒会長の中院箕月先輩が訪れた際、近くの公園を散歩中、ばったりと鉢合わせ、その後に家にやってきた幼馴染の一年後輩…波島彩香(なみしまあやか)の友人であるそうだ。


うちの高校はそこそこの進学校である。その学校に在って異質なオーラを出す四人組がいる。それは目の前の彼女達…ギャル軍団と幼馴染の彩香である。

アクセサリー、染めた頭髪、化粧、ミニスカート…ギャル丸出しの派手な格好で校内を闊歩するその様は生徒達の目に嫌でもよくとまる。とりあえず関わらないでおこうとする者、羨望の眼差しを向ける者など反応は様々だ。

そんな彼女達の中の一人…幼馴染の彩香がどうやら辛い思いをしているらしいので、彼女達はいてもたってもいられず行動を起こしたそうだ。


「彩香は遊びに行ってもナンパされるし、学校でもよく告白されるけど、いつも断ってばかりだから、なんで断るの?お試しで付き合っちゃえばいいじゃん!って聞いたら、昔からずっと好きな人がいるから、やっぱり無理かもって言うの!」

「それで相手は誰かって聞いたら、2年の平見って言うから・・・うわー最悪だーって思った。その先輩、いつも女子を侍らせてるようなロクな人じゃないって噂を聞かないから!」

「しかも、B組の葛西を無理矢理脱がせてイタズラしたって聞くし・・・絶対にやめなって言っても、彩香は聞く耳持たないし、それだけじゃなく、最近だと生徒会長を家に連れ込んだらしいって!?もう我慢ならない!先輩とか関係ないから!痛い目みてもらうからッ!!」

彼女達の言い分はよくわかった。ほぼほぼ間違ったことは言ってないので、反論のしようもございません・・・

「まままままぁ、俺と彩香は幼馴染だけど、もうずっと前から疎遠だから!!君らが言ってるような気持ちをあいつからぶつけられたことなんて、一度もないから!間接的に聞いちゃったけど・・・彩香から頼まれた訳じゃないよね?」

そう言うと彼女達はバツが悪そうな反応を見せた。

まぁそれでも、今回のことは彩香の意思とは関係なく、彼女達が自発的に起こしたことだ。友達が悪い男(俺)に騙されてるのではないかという友達想いの心だ。派手な見た目とは裏腹に根は優しい子達なんだと見直してしまった。

『人は見かけによらず』・・・だ。


「わかった。じゃあ一回彩香と話してみるから!俺だって俺の事情があるし、どうなるかはわからないけど、とにかく話する!君らから聞いたってことも言わないし、あいつが今どう考えてるのか聞いてみる!」

そうして納得したのか、彼女達にようやく解放してもらえた。

「君らのことは誤解してたよ。ごめんな。それと、これからも彩香をよろしく!」

「わかった・・・でも、女たらしの変態先輩のことはまだ認めてないから!」

そう言い残して彼女達は立ち去ってしまった。

・・・なんとか無事にやり過ごせた・・・でも、ちょっと残念だったなという気持ちも心の中には残っていた(変態の思考)・・・



その日の放課後、早速幼馴染の波島彩香をいつもの研究棟裏庭に『いつも何をしてるか知りたいんだろ?じゃあ一度招待するよ!』とメッセージを送り呼び出した。


「こんなことやってるんだ〜」

彩香には既にボクシンググローブをはめてもらい準備万端!

「これはボクササイズって言うダイエットの一種だから〜とかなんとか言いながら、女の子の興味を引いてイチャイチャしようという魂胆が見え見え!」

正論パンチ過ぎて何も言えなかった。


「よしっ!じゃあ今日は相変わらずのスケベな蒼にぃを懲らしめるとでもしますか〜」

そう言う彩香に付き合い、ボクシングの練習を一通りこなした。疎遠になっていたが、俺の知らない間に彩香の育つ所は育ってんなーと彼女の谷間を凝視していたら鋭いパンチを何度も叩き込まれてしまった。


しなやかな動きから繰り出されるコンビネーションパンチ…こいつ、こんなに運動神経良かったのか!?と驚いた。ガキの頃のイメージとのギャップにタジタジになってしまう。成長というのは恐ろしい・・・結局俺は彩香のことを、小学生の頃のままで捉えているだけで、成長した今の姿を見ていないんだなと痛感した。俺もあの頃から精神的にはたいして成長していないが、肉体的には結構成長したと思う。同様に彼女もまた成長しているのだ。


その日は彼女と一緒に家まで帰ったが、たわいもない話ばかりで彼女の俺に対する気持ちは聞き出せなかった。

「蒼にぃ・・・明日は学校も午前中で終わりだし、一緒に帰ろうよ!」

明日は、我が高校の創立記念日・・・普通なら休日になるはずと思うが、午前中に創立記念の式典があり、校長先生の長い話とか校歌斉唱とか色々行われる。

まぁそれでも授業はなく、式典に参加するだけでよかったので、学校も午前で終わり、約束通り彩香と帰ることになった。


俺の家と彩香の家とは、50メートルくらいの距離…ド近所である。

にも関わらず、彼女と疎遠になってからは通学時もほとんど顔を合わせることはなかった。時たまに話をする機会はあるが、何故か彩香は俺のことを知ったようにスケベだの、変態だの当たりの強い言葉を発してくる。


なぜ、疎遠になってしまったのかというと・・・俺が中学に上がると必然的に顔を合わせる機会は少なくなる。彼女が中学に上がっても今更ということで話をすることもなくなった。そして彼女が中学一年の時夏休み明けの二学期最初の日・・・彼女はギャルの姿で現れた。それまで一学期の間は黒髪清楚な感じだったのに、驚きの急変を遂げてしまった。

『こいつ・・・一夏の思い出越えちゃったな!』と、そのインパクトに俺はショックし、完全に疎遠となった。

そんな間柄なのにどうして彼女はまだ俺のことを想っているのだろうか?

彩香の友達が言ったように、果たして彼女はまだ俺のことが好きなのだろうか?


「ねぇ、蒼にぃ〜寄り道したい!」

「いやーそれはちょっと・・・無理ぃぃ〜!!」

「はぁッ!?死にたいの?」

やはりブチギレたギャルの一言は恐ろしい・・・

それから俺達はファミレスでかなりの時間くっちゃべってから、先日休みの日に生徒会長の中院箕月先輩と散歩できた近所の公園に再びやってきた。


近所にあるとはいえ、この公園はかなり大きい緑地公園で、公園内には小高い丘もあり、ちょっとした登山散策も出来る。


そんな公園内を俺達は歩いていた。小学校時代、外の遊び場はここである。彩香やその下のガキんちょ達を引き連れていつもこの公園で遊んでいた。散策路じゃない道なき道を探検したり、かくれんぼ、缶蹴り、ドロケー・・・色々なことをしてはしゃぎ回った。今から考えれば、問題になりそうな危険なこともしたし、それに彩香は遅れることなくいつも付いてきていた。


「昔は蒼にぃとよく遊んだよね?また運動したくなってきた~ボクシンググローブ蒼にぃの家にあるでしょ!?取りに帰ってまた練習しよっか?」

と思い返したように彩香はそう言うと、シャドーボクシングを始めだした。昨日の放課後に一緒に練習をして少し興味を持ったようだ。

そんなことをしていた俺達に話しかけてくる者達がいた。


「ねーちゃん、ボクシングやってるスゲー!!」

おそらく小学生と思われる男子三人組が興味津々な目でやってきた。

「そうだよ!隣のスケベそうなお兄ちゃんなんて簡単にノックアウトしちゃうよ~」

「スゲー!!」

「ねーちゃんかっこいい!!」

男子三人組は物凄く盛り上がっている・・・おい、俺めちゃくちゃディスられてるんだけど・・・


「なんだ!?クソガキ!?」

「俺サトシって言うんだ!こっちはシゲルとタケシ!」

「そうか~じゃあガキは家帰ってピカチュウと遊んでろ!」

子供に対して辛辣な言葉を大人げなく吐き捨てる俺に周りは冷ややかな目だ。

「違うよ。今俺らはサッカーの練習やってんだ!」

「えっ?ボールねえじゃん!?」

「フィジカルトレーニングで相撲してるんだ!」

少年が言うには、サッカーで試合中の競り合いに負けない体をつくるためにフィジカルを鍛え、実践的な場面も想定しやすい相撲トレーニングをしているとのこと。


「ねぇ、ねーちゃん強そうだし、俺らのトレーニングに付き合ってよ!」

「えっ?」

「うん、ねーちゃんとぶつかり稽古したい!」

「て、てめぇ!!このクソガキ!お前らの魂胆は見え見えなんだよ~!!」

「うん、いいよ!でもお姉ちゃん強いよ~!」

「やったー!!」

さっきまでノスタルジックな想いに耽っていたのに、このクソガキどもに横槍を入れられてしまう。しかも彩香は安易にOKしてしまう始末・・・


「じゃあ、甲斐性なしの兄ちゃんは行司お願い!」

・・・このクソガキャあぁ!!さっきからいちいちディスってくるクソガキ達。


「よ、よろしくお願いします・・・ねーちゃん・・・」

「オッケー!ドンとぶつかってきなさい!!」

そして、クソガキ達の一人…サトシと彩香との取り組みがはじまった。

ぶつかり合う両者・・・しかし、その差は歴然だった。女子高生とはいえ小学生との対格差は圧倒的で、元々彩香は昨日の練習でも感じたが”柳の木”のようにしなやかな動きをする…力を受け止めて反動で跳ね返すような独特の動きは相撲に相性抜群のため、一気に少年は劣勢になっていた。木の棒で土俵のラインを作っていたが、際々まで追いつめられる少年。

「どうだ~♪」

「ぅぅ~くぉ~」

顔を真っ赤にした少年はなんとか踏ん張ろうとして、彩香の胸に顔を密着させる。

て、てめぇ!!おっぱいに顔をうずめるな!!エロガキッ!!

「どうだ~降参か~ホレホレ~♪」

そんなことはお構いなしに相手を追い詰めていく彩香・・・くそっ!このガキ!うらやま・・・

「うぅぅ・・・もう無理ぃぃ・・・」

とうとう耐えきれず、背中から地面に倒れこむ少年・・・しかし、気をきかせる彩香は少年が怪我をしないように彼の肩を掴んで引っ張りながらゆっくりと地面へ押し倒した。

ぅぅぅぅ・・・うらやましぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜!!!!

「勝っちゃった!」

ボソッとつぶやくように彩香はおっぱいを少年の体に乗せながら、彼を見下ろす。

「ね、ねねね、ねーちゃん・・・柔らかいし・・・いい匂いぃぃ・・・♡♡♡」

彩香に押しつぶされながら少年はビクンビクンと痙攣していた。


このサトシ(少年)!?てめぇー完全にイったな!?パンツがびしょびしょになってんな!?少年の正癖がぐちゃぐちゃにされる瞬間を目撃した。


「寄り倒しで彩香の勝ちー」

と俺はこの取り組みの結果を伝える・・・唐突なギャルによる”おねショタ”を見せられ、しかも幼馴染の女の子がこのクソガキ(ショタ)に奪われたような…NTRな感覚の合わせ技に俺の心は発狂寸前となる。

それから残りの二人(シゲルとタケシ)と彩香は対戦し、案の定・・・彼ら少年三人の性癖はことごとく破壊されてしまった。


「ね、ねぇーちゃんありがとう。」

「また遊んでほしい!」

「サイコーだった〜」

少年達は前かがみになりながら、俺達に感謝した。

こいつら・・・このエロガキ達はブチコロがす!!


「フフッ、甲斐性なしの兄ちゃんも・・・まぁ頑張れよな!」

俺達のこのレベルまで上がってこいよな!!と言うかのように勝ち誇った顔で俺を見下す少年達に・・・俺は・・・


「このクソガキどもがぁぁーーーーー!!!!二度と来んなーーーーー!!!」

最後の最後まで暴言を吐き続けた。



今日は色々あったが、最後に行きたい場所があったので、俺は彩香を連れてそこへ向かうことにした。

整備された遊歩道の手すりを乗り越えて、かろうじてわかるような脇道に入って行く・・・この道に入るのは小学校以来だ。

「あっ、ここ来たことあるかも!」

「彩香が途中でグズって、結局引き返したんだよなぁ〜」

「だって、あの時足挫いちゃったんだもん・・・でも家まで蒼にぃがおぶって帰ってくれたんだよねぇ!」

そんな話をしながら、けもの道を奥へ奥へと入って行く・・・だんだんと傾斜がきつくなっていく・・・登っているのだ。


「あっ!切り株!」

「そうそう、ここまで来たんだよなぁ!」

何年振りだろうか・・・彩香やガキんちょ連中を引き連れてここまでやってきた。そしてあの時はここで引き返したのだ。今日はここで引き返すのではなく、その先に行きたかったのだ。因みに俺一人ではそれ以前に何回か来たことはあったが、何年振りかあの景色を見たかったのだ。


登りながら森の中を抜けると開けた場所に出る。ようやく到着地点・・・緑地公園内の丘の頂上だ。とは言え、遊歩道から離れているため穴場スポットだ。

「この景色が見たかったんだよ〜まぁこんなもんだよなぁ〜もうそこまで住宅地が迫ってきてんだなぁ〜」

「蒼にぃはこの景色が見たかったの?」

「あぁ!そうこの景色が見たかった!でも、こんなもんかなって感じ・・・」

ちょっとした高台から街を見下ろせる・・・住宅地が見えるなぁ〜という感想しか出てこない景色が広がっていた。


「でもさ、今はこんな印象かもだけど、小学校の頃は違ったんだよ!」

元々俺達は学校と家の近所、この森林公園を活動の範囲としていた。親と出掛けたりする以外は、ここより外の世界へ出て行こうとしなかった。

「でも、この景色を見てもっともっと街は遥か彼方まで続いている・・・俺達の生活する範囲は狭いけど、もっともっと世界は広く続いている!って、感動したんだよ!!そのことを彩香やガキんちょ連中にも伝えたかったんだと思う・・・俺は!」

あの頃を思い出しながら話を続けていたが、ふと横を向くと彩香は何故か泣き出していた。

「お、おいっ!?どうした?」

「だって・・・蒼にぃと・・・離れてわかったもん・・・寂しいし、辛いし・・・やっぱり蒼にぃと一緒にいたい・・・」

約何年振りだろうか・・・グズリ出して大泣きする彼女を見たのは・・・涙で化粧も落ち、相撲を取ったりけもの道を歩いたり俺も彩香もボロボロになっていた。


「蒼にぃ、家までおんぶして!!」

「流石に家までは無理!!」

「じゃあ公園を出るまでおんぶして!!」

結局、グズリ泣く彼女をおんぶして帰ることになった。


「・・・そう言うことです・・・」

「まぁ、お前の気持ちはわかった・・・だけど、疎遠になってる間、俺は俺でいろんな人と関係を築いてきた訳だから、今更全て忘れて捨ててしまえとかそんな身勝手なこと言わないよなぁ?」

「・・・うん・・・わかってる!・・・でも今日はこのままもっとゆっくり歩いてよ・・・」


俺はガキの頃から精神年齢は対して変わっていないと自覚できる。

彩香…こいつもあの頃と大して変わっていないと今日感じることが出来た。


・・・あの頃と変わってしまったものと言えば・・・


「彩香・・・お前・・・胸デカくなったなぁ・・・それにわりと重量級かも・・・」

「変態にぃーーーーーーーーーッッッ!!」


・・・・・バキィィィッッッッッ!!!・・・・・


・・・それでも俺達は成長しているんだ(出血)

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