シルビオの受難

相有 絵緖

番に出会いたい獣人は

獣人が支配する世界に、シルビオは生まれた。

種族は幅広く、四足の動物から鳥類、魚類、爬虫類などがある。竜もいるらしいが、ほとんど見かけることはない。


違う種族同士でも結婚でき、生まれる子どもは4世代ほど遡った先祖の誰かの遺伝子を引き継ぐ。

種族が混ざることはなく、必ずなにかの獣人となる。


また、前世持ちもそこそこいる。

獣人ではない、何の能力も持たない人だった前世を持つ人もおり、この世界はそういった別の世界の知識や技術を取り入れて発展してきた。


そんな世界に生まれたシルビオには、ぼんやりとした前世があった。

電気という技術を使う男性だった記憶があったので、ほとんど毎日のように教会に通ってその知識を説明していた。たくさんの前世持ちの先祖たちのおかげで、この世界には電気も存在する。

その補完技術を知っているということで、シルビオはそれなりに長い間教会に通わされ、自由になったのは成人を過ぎてからだった。


シルビオは革職人である。

電気を使う仕事に就ければよかったのだが、凶暴な獣が闊歩するこの世界では電気のような繊細な技術を行き渡らせることはできない。せいぜいが王都周辺だけにしかない。

電気もないような田舎町だが、シルビオにとっては大切な故郷なので離れる気はなく、需要のある革職人を選んだのだ。


そして自由になったシルビオは、結婚を考えるようになった。


この世界には、つがいというものが存在する。

簡単に説明するなら、遺伝子的に相性の良い相手だ。

通常は番の候補が複数人いて、その中から結婚相手を選ぶことが多い。ごく一部、番以外でも結婚することはあるのでこだわらなくても良いはずだが、やはりシルビオも番を選びたかった。


カラスの獣人であるシルビオは、それなりに執着が強い自覚がある。

鳥系の獣人は相手につくすことが多いので、番相手として人気もある。

それなのに、シルビオは未だかつて番候補に出会ったことはなかった。


結婚するときに魔法で契約するので、既婚者が番候補となることはない。そんなに大きくもない町なので、たまたま番候補がいないだけという可能性はある。

「俺に出会う前に結婚してるんじゃないだろうな……」

思わず口に出してしまった。

その可能性も低くないだけに、シルビオは帰宅途中に立ち止まり、かくりとうつむいた。






「晴太、また妄想が口からだだ漏れよ。……シルビオは多分なんやかんやあって番を見つけるんでしょうけど、あんたは自力で見つけないと無理だからね」

「ぶぅっぐ、っ!!っごほっ、!!!」

ぐい、とコーヒーを煽ったところで母に声をかけられ、晴太は思いっきりむせた。


鼻の奥からコーヒーの香りがする。


「鳥系なら、おしどり夫婦になれそうよね。カラスだけど」

「いやだから、……ごめん、これ以上は」

「でもまだ会えないままなわけね。とりあえず今のところは。鳥だけに、トリ会えずって?ふふふふふ」

「うぐ、う、うまくないからな!ほんと、頼むから忘れてほしい」

「えぇ?なんでよ。面白い設定だと思うわよ?」

「頼むからマジで忘れて聞かなかったことにして」


渡すものがあったために土日で帰省していた晴太は、やはり理解のある母に黒歴史をえぐられたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シルビオの受難 相有 絵緖 @aiu_ewo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ