公園の怪談


 あら?

 藤森を置いてきたわ、と思ったが、構わず、明路は学校を出て、歩いていた。


 なんだか今は、このまま歩いていたい気分だった。


 たまには通ることもある道だが、学校から出て、歩いていると、また気分が違う。


 時間が戻ったような気になるが、振り返り見た新校舎には確実に時を経た古さがあった。


 いつか、これもまた、旧校舎になるんだろうな、と思う。


 まあ、もう、吹っ飛ばす奴は居ないだろうけど。

 そんなことを思いながら、道を歩く。


 どっちに行こうかな、と迷ったあとで、あの道に決めた。



「おい、服部ー」


 教室に上がった怜は、

「何処行ってたんだよー」

と当然のことを訊かれる。


「何処だっていいだろ」


「まあ、別にいいけど」

とあっさり言った友人は、


「お前、この辺に妖怪が出るって話知ってる?」

と言い出す。


「妖怪?」

 何を暇なことを、と思った。


 嫌いな話題ではないが、今は別のことが頭のほとんどを占めているので、あまり気乗りがしなかった。


「公園に出るんだってさ」

「公園ねえ」


 そんなところまで行かなくても、この学園に既に居るが、座敷童が……。


「ぬりかべか?

 一反木綿いったんもめんか?」

と如何にも何かと見間違いそうなものを例に出し、訊くと、


「違うよ。

 化け猫だよ」

と言う。


 化け猫?

 ……なら、とりあえず、一匹知っているが。


「夜な夜な人を襲うんだってさ」

「公園でか」


 そうそう、といつの間にか話に入っていた別の友人が言う。


「何処のだ」

 此処から少し離れた、駅に近い公園を友人は教えてくれた。


「あんな目立つとこでか?」


「あそこ、意外と夜は人通りないんだよな~」

と聞いていないと思われた友人まで、話に乗って来た。


 高校生になっても、みんなこの手の話題は好きらしい。


 人を襲う化け猫か、と思いながら、なんとなく葵の方を見る。

 葵は面白くもなさそうな顔をして、矢来たちと居た。


 彼女もまた、こちらを見ているようだった。

 やがて、女子の群れから離れ、やって来る。


「悪かったわ」

 開口一番、そんなことを言う。


 意外に素直に謝って来たが、何処の部分を謝っているのかはわからなかった。


 どうやら、明路が子どもを産んでいるのは本当のことのようだが。


「八つ当たりよ。

 貴方がちゃんとしていてくれたら、私がこんなに苦しまずに済んだのに、と思ったの。


 だから、貴方の呑気そうな顔を見て、腹が立ったのよ」


 そのあとに続いた葵の呼びかけに、目を見開く。


「さっさとかっこよく退場して、自分は満足?

 そのあとのこととか、考えなかったの?」


 もう一度、彼女はその名を口にする。


「服部由佳」


 そう自分を呼んだ。







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