噂話

 

 最近、怜の奴、葵さんと一緒に居ることが多いような。


 気のせいだろうかな。

 あの美人の刑事さんといい、いつもうまいことやってやがる、と菅原は思った。


 放課後の教室。

 怜と葵の机には鞄が残ったままだった。


 確か、佐々木明路と言ったあの刑事。

 従兄に聞いたら、知っていた。


『あ~。

 例の事件の。


 そうそう。

 留学してそれぎりだったんだよな~。


 結構可愛かったよ。

 事故に巻き込まれた感じで可哀想だったなあ。


 でも、そう――


 確か、彼女は留学したって聞いたけど。


 その後、同じ学校に留学したって奴がさ、佐々木明路は居なかったって言ってたんだよな』


 


 買い物袋を手に、明路は夜道を歩いていた。

 欠伸をしながら、街路樹の下を通っていたとき、誰かに後ろから何かで突かれた。


 振り返る前からなんとなくわかったので、振り返りたくはなかったが。


 放置していたら、それはそれで面倒臭いことになるので、仕方なく、振り返った。


「……なにやってるんですか」

 晴れているのに、閉じた傘を手にした湊が立っていた。


 傘で突くな、と思いながら、そう問うと、湊は、

「お前こそ、何をしている」

と答えず、訊き返してくる。


「ちょっと届け物です」

「事件が解決してないのに、呑気なことだな」


 お前もな、と思いながら言った。


「事件なら解決してますよ」


 眉をひそめた湊に、

「すみません。

 ちょっと吹きました」

と言う。


「いや、ホラなのは、一部です」

と訂正すると、


「どう一部なんだ。

 まあいい」

と言われた。


 いいのか?


「それより、それはなんだ」

と湊は傘で買い物袋を指してくる。


「届け物ですってば。

 それより、なんでこんなところをウロウロしてるんですか。


 傘なんか持って」


「そろそろ梅雨じゃないか。

 いつ降ってもいいように。


 というか」


 武器かな、と言う。


 誰を攻撃する気だ。

 私じゃないだろうな、と明路は思った。


「で、何処へ行くんだ」


「相変わらずしつこいですね~。

 プライベートですよ」


「お前にそんな高尚なもの、あると思っているのか」

 明路は溜息をついて言った。


「服部邸に行くんです。

 ときどき様子を見に行っているので」


「一人で宴会でもやる気か」


「一人じゃないですよ」

と買い物袋を開けてみせる。


「行きますか?」


「遠慮しとこう。

 相性が悪い」


 でしょうねえ、と思いながら聞いていた。


「じゃあ、明日な」

「え、明日?」


 その言い方に厭な予感がして、明路は思わず訊き返す。


「何か不都合でもあるのか」


「ありませんが。

 まだ次の事件も起きないでしょうしね」


「予知か?

 推理か?」


「どっちなら信じます?」

と笑ってみせる。


 湊は答えなかった。


「実は推理です。

 最近はそれほど見えないので」


「お前の話は何処まで本当かわからん」


 湊はそこで何故か傘を投げて寄越した。

 男物の黒い傘だ。


「持って行け」


「……降りそうにないですが」

と明路は星空を見上げる。


「だから武器だ。

 それじゃあ、明日」


 たまには人の話も聞け、と思いながら、その後ろ姿を見送った。





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