調査

 

 まず、旧校舎の爆発事件について。


 放課後、怜は図書室で古い新聞記事を探していた。


 データ化された大手の新聞では、事件は小さく報じられているだけだった。


 まあ、これでも、日時はわかるけど。


 使用されてなかったガスストーブからのガスもれか。


 原因の詳細は不明。


 乾いていた木造校舎が爆発後、火災で一気に燃え落ちたようだった。


 地方紙の方が詳しいかな、と図書委員に声をかけ、町の名を冠した地方新聞を見せてもらう。


 埃っぽくなってはいたが、一応、その頃のものも残っていた。


 火災、炎上、死傷者なし、か。


 日付を確認し、それから、卒業アルバムを探す。

 佐々木明路が卒業した年のだ。


 この事件のとき、高校二年生だったはず。

 計算し、それを手に取った。


 薄い冊子のページを捲るが、明路の姿はない。


 少し考え、保健室に行った。

 引き戸を開けると、いきなり中から聞こえていた音声が途切れる。


「あら、服部くん」

とショートカットの養護教諭が立ち上がり、振り向いた。


「先生、外まで漏れてます」


 どうやら、部屋の隅にある小さなテレビで、サスペンスの再放送を見ていたらしい。


「先生、以前、入学式の写真が此処にあるって見せてくれましたよね」


「入学式?

 ああ、あると知れると、女の子たちが好きな先輩の写真とか見たいってうるさいから、隠してあるのよね」


「古いのもありますか?」


「あった気がするけど?

 あ~、あっちにあった分は燃えちゃったかなあ」


「……旧校舎ですか?」


 そうそう、と言いながら、彼女は、薬棚の前にしゃがむ。

 下には入学式の写真のファイルがあるようだった。


「生徒の顔覚えるのに、これ見るのよね。

 ところで、何に要るの?」


「実は、うちの両親が此処の卒業生で」

「そんな古いのあるかなあ」


「姉か叔母のでもいいんですけど。

 制服がどうとか母と揉めてて」


 ああ、と笑う。


「材質が変わったのよね、洗いやすいように。

 昔の方が重厚な造りでよかったって、お年寄りには評判悪いわ。


 そんなのわかるほど、大きくは写ってないと思うけど」


 何年? と訊かれ、明路の入学したであろう年を告げる。


「お姉さん?

 名前は?」


「服部……明路です。

 探します」


 変わった名前だ。


 別の名前にしようかとも思ったが、咄嗟に思いつかなかった。

 自分で探すと、彼女の手から受け取る。


「結構年、離れてるのね。

 そんなおねえさん、居たんだ」


 やばい。

 養護教諭だから、それなりの資料も持っているかな、と思い、


「一緒に暮らしていない、腹違いの姉なんです」

と言うと、


「あら……」

と言ったきり、遠慮して突っ込んでこなかった。


 細かく訊かれたら、隠し子が居たことにして、父親に不名誉を押しつけようと思っていたのだが、そこまでする必要はなかった。


 佐々木明路はすぐに見つかったし。


 だが――。


 指で、その少女に触れてみる。


 顔立ちは明路と似ている。

 これで間違いないだろう。


 だが、髪の色も瞳の色も今と違う。


 表情ももっと、ぼんやりとした感じだ。


 これが、佐々木明路――?


 視線をその周囲にスライドさせ、そして、閉じた。


「ありがとうございました」


「それで見たんじゃ、よくわからないでしょ?

 おかき食べる?」

と自分もまた齧りながら、空いていない方の小さな袋をくれる。


「一個しかないから、みんなには内緒ね」

「ありがとうございます」


 礼を言い、廊下に出た。


 すると、目の前に眉村が立っていた。

 上げかけた声を呑み込み、溜息をつく。


「はい」

とその手におかきの袋を載せ、歩き出した。


 少し行ったところで、眉村が言った。


「待て、服部」


 足を止め、振り返る。

 眉村は自分に向かい、手を差し出した。


「礼に、これをやろう」


 その手には、紙パックの珈琲牛乳が握られている。


 ……わらしべ長者かよ、と思いながら、怜はそれを見ていた。




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