第5話 (最終回)




 お子様たちとのお話の後、殿下は国王陛下と宰相閣下と3人で少しだけ話され、眠られました。


 妃殿下の計らいで殿下のお部屋にいるのは妃殿下と三の姫とわたくし


 なぜこの顔ぶれなのでしょう…?


「あなたたちにだけ教えたいことがあります。一度しか見せられませんからよく覚えるのですよ。」


「王族の娘にはまれに特別な力を持つ者が現れます。」


「自身の生命力を他者に譲り渡すことができる力です。」


「持っているのはあなたたち2人のようなので2人にだけ教えます。」


「ただ、この力の存在は知られてはいけません。」


「自分が本当に必要と思ったときに使いなさい。」


「力の素地のある者は見れば感じられますから、その相手にだけ教えなさい。」


 生命力を譲り渡す…?


 それは自身の生命力を削るということ…?


「お母様? その力を使うとお母様はどうなるのですか…?」


「優しい子… 命を助けるのですから自分の命は燃え尽きます。」


「そんな… お母様が…」


「どうか聞き分けて… お母様はあなたたちのように可愛い子供たちに囲まれて、愛する方のために死ねるのです。幸せなのですよ。」


「姉様… 先程の託すというのは…」


「そうよ、私はもう十分幸せなの。だからこれからはあなたが幸せにしてもらいなさい。」


「でも… 私に子供ができれば国が…」


「馬鹿ね… 貴族の元へ降嫁した姫はこれまで何人もいるのよ? 担がれる可能性のある者もいくらでもいるわ。それにあの子は王の重責に耐えられるとは思わない。王族としての心が育っていないの。」


 それは… 父である殿下が倒れられたというのに一番に感じたのが、私を自分のものにできる機会だと言うのはなんとも言えません…


 一の姫は、その兄王子をからかい…


 二の姫は、私に応えることのできない質問を…


 三の姫だけが私の手を握り、心配そうに見上げていました…


 だからでしょうか、わたくしたち2人がここにいることを許されたのは…


 でもわたくしは…


「あなたは兄王子のことを覚えていますか?」


「はい、殿下に一騎打ちを挑んだあの姿は忘れることはできません。」


 わたくしの手を握り、妃殿下は


「王子は最期に「妹を頼む」と言われたそうです。」


 そんな…


「それにあの方は「任された」と応えたと言ったんだと、あなたを引き取った夜に教えてくれました。」


 お兄様…


「だからね、兄王子の仇ではあるけれどあの方を愛してもいいのよ。きっと王子もそれを望んでいるわ。王族に生まれると望んだ相手と結ばれることなんてない、それでも妹の幸せを最後まで願っていたのですよ。」


 おにい… さま…


「いい? これからは姉様のことを母だと思って学びなさい、王族として姫として必要なことは全部教えてくれるわ。」


「はい… 私はお母様の言いつけをしっかり守ります…」


「あなたには辛い役目を託します。あの方を妻として支え、その命尽きるまで尽くしなさい。例え私の子供たちといえど必要あれば討ちなさい。」


「それは…」


「大公にはその権限があります。王妃となっても大公位を持つことはできるのでそのままにしなさい。

 それに、私のことを姉様と言うのにあの方を兄様とは言わないのは兄王子のこともあるのでしょうが好きだからでしょう?」


「…わかりました、姉様に従います。」


 本当に厳しいことを言いつけられましたね…


「あとは… このひとに伝言をお願いします。王になってください、そして自分の幸せを見つけてください。大公を妃にしても大公位はそのままにしてください。この3つをお願いしますね。」


 姉様は本当に… 命を捧げるつもりなのですね…


「お母様…」


「ごめんなさいね、でもお母様はお父様の中で生きていますから。ずっとあなたたちを見ていますからね? 姉様たちや兄様もいますから、お父様と姉様のことを祝福してあげてね。」


「はい… 約束します…」


「いい子ね…

 これは全て私のわがままです。私がこのひとに生きてほしくて、私に生かす術があり、それを使っただけ。

 これは全て私の責任です、誰にも分けてあげません。ひとり占めです。

 今回、騒ぎになっても倒れたのは王太子ではなく王太子妃の伝達ミスということで落ち着けなさい。」


「じゃあ、そろそろ逝くわね。

 あなた… どうかお幸せに…」


 そう言って姉様は殿下の手を握り、口づけをしました。


 そこには創作にあるような呪文などはなく、ただただ純粋な願いがあるだけでした。




 私は警備の者に朝までは誰も近づけないように命じ、三の姫と2人で眠りました。


 どうか姉様に安らぎを…




 翌日、殿下を起こし、昨夜の出来事を伝えました。


 姉様からの伝言を伝えると、驚きからか目を開かれ私と三の姫を交互に見られ、2人とも頷くと、


「そうか」


 とだけ呟き、


「昼まで2人にしてくれ、昼食は陛下と宰相、お前たち2人も同席するように」


 誰よりも力強かった殿下の声が微かに震えており、お2人が愛し合っていたことを見せつけられた気がして胸がチクリと痛みます。




 お昼となり、5人での昼食です。


 殿下には王族女性の力については話していないのですが、


「皆の願いのお陰で命を拾うことができました。妃は命をかけて願ってくれたのでしょう、私の代わりにその命を燃やしてしまったようです。」


「そうか… あの子は本当に君を愛していたからな。君たちはあの子の遺言を聞いてはいないかい?」


 陛下はこうなることをどこかで感じていたのかもしれません、少しだけ驚きつつも納得されているようです…


わたくしから申し上げます。妃殿下…いえ、姉様は殿下に王になり、自分の幸せを見つけてほしいと言い残されました。」


「うむ… 三の姫よ、補足はあるかい?」


 陛下はわたくしが王太子妃と大公という関係ではなく、姉と妹として送りたいという気持ちを理解してくださったと思います。


「はい、お母様はお父様と姉様を祝福してあげてほしいと言いました。

 私は… 私はお父様と姉様を祝福します、姉様はずっとお父様を好きでした。

 おじいさま、お願いします。どうか2人の結婚を認めてあげてください!」


 言って…しまいました…


 陛下と殿下には血縁はありません、殿下が王太子であるのは姉様の夫だというのが根拠なのに…


「よく言えたね、偉かったよ。

 それでは今後について考えよう。

 宰相としてはどうです? 太子と大公の結婚について率直に意見をお願いします。」


「はい、儂は大公には王子と結ばれて国の基盤となってほしかったのですが妃殿下の願いですからな…」


「そうですね、年齢的にも大公には太子よりも王子の方が近いと思いましたが…」


「妃殿下は王子の妻はわたくしではなくても務まるけれど、殿下の妻はご自身かわたくしにしか務まらないと言われました。

 王子への無礼を承知で申し上げますが、昨夜の振る舞いや取り乱しから… 王子の妻になりたいとは思えません。」


「大公、少し言い過ぎだ。それに王子はまだ若い。多少大目に見ることも…」


「できません! 姉様の許しをいただいたので申し上げますが、殿下がわたくしの命を救ってくださったときのお年は18と聞きました。王子が18になったときに同じことができるでしょうか?」


「それは… 殿下が特別なだけで…」


「毒を含んだ敵国の王女を前にして、その口から毒を吸い出すようなことがあの王子にできるとは思えません。」


「そうだったね、君には辛い思いをさせてすまなかった。」


「陛下、頭を上げてくださいまし。謝られても過去は変わりませんし、何よりそのお陰で私は愛する方と出会えたのです。

 殿下、このような場で申し訳ございません、殿下のお心に妃殿下がいらっしゃるのは承知の上で申し上げます。

 あの日、剣戟と怒号の入り乱れる王宮でわたくしの口から毒を吸い出してくださった時より殿下をお慕いしております。

 どうか後添いとなることをお許しいただきたく…」


「た、大公… 陛下の前だぞ! 取り消せんぞ!?」


「はぁ… あいつには敵わないな…

 先生、以前話していた予定を覚えていますか?」


「うん、王子がもう少し成長したら君を王太子から外して大公に、王子を王太孫にするって話だね?」


 え…?

 殿下はそんなことを…?


「はい、そして王太子妃には大公をと考えていました。彼女であれば俺たちの想定を引き継ぎつつ王子の補佐ができると思ったからです。」


 殿下が私を王子の妃に…?

 そんな……


「お父様!?」


「待ちなさい、お前は普段の出来はいいんだが時々取り乱すのが良くない。俺が倒れていた間は良くできたのだから大丈夫。お前は出来る子だ。それに大公を見なさい、なんとか堪えているだろう?」


 殿下… こんな時にも教育を忘れないなんて残酷です…


「それで? 続きがあるんだろう?」


「はい、あいつの遺言ですからね。

 先生、1年で引き継ぎを行い、王位を譲ってください。

 1年後、俺の戴冠式と結婚式を行います。」


 え…?

 結婚式…?


「今さらだから言わせてもらうが、俺もお前を憎からず思っていたよ。なにせ初めて口づけをした相手だからな。」


 ………え?


「太子? どういうことかな?」


「先生? ちょっと怖いんだけど…

 あいつと初めて口づけしたのは例の結婚式の日なんだけど、大公と口づけ…というか毒を吸い出したのがそれより前。俺はそれまで異性と深く関わったりしてこなかったから。」


「なるほどね、口づけと言うから君の性癖や娘への気持ちを疑ってしまったよ?」


 え? え? えぇ?

 わたくしが殿下の… 救助のためとはいえ初めて口づけした相手…


 嬉しい…


「姉様真っ赤です〜」


「う、うるさいですよ!」


「はぁ… 話を戻すぞ。

 1年後になるが俺と結婚してくれ。」


「はい… 10年以上待ったのです、今さら1年くらいなんでもありません!」


「うんうん、おめでとう。今度は国のことばかりじゃなく自分の幸せも考えるんだよ?」


 陛下はやっぱり妃殿下のお父様ですね、殿下の幸せを願っていらっしゃ…… あ…


「あの… 妃殿下がいらっしゃらないと王位は…」


「なんだ、大公も抜けていることもあるのか。殿下は陛下と養子になっておるから問題ないわ。それよりも王子の妃に相応しい相手を探さねばならん… 頭の痛いことよ…」





 ★ ☆ ★ ☆ ★





「こうして2人は結婚し、何人もの子供が生まれ幸せに暮らしたんじゃ。」


「王妃になった大公さまに言い寄っていたひとたちはどうなったんですか?」


「うむ、戴冠式、結婚式の後に処分されたの。クーデターなんぞ計画するから自業自得じゃな。」


「国王になった殿下は本当に幸せだったのかな?」


「ほう、お前は優しいね。大丈夫じゃ。幸せだったと思うよ。」


「えー? なんでー?」


「去年亡くなられた国父様がこの話の殿下じゃからな。穏やかな顔をされていたじゃろう?」


「うん! それと優しく頭を撫でてくれたの覚えてる!」


「そうじゃろう? 私もあの手が大好きだったんじゃよ。」


「オババ様も?」


「そうだとも、私のお父様だからね。」


「オババ様はお話の誰に当たるのですか?」


「三の姫じゃよ。それから大公の王妃は国母様じゃ。」


「国母様って国父様が亡くなっ翌日に亡くなった…?」


「そうじゃ。国父様の葬儀についての指示をひと通り終えて安心されたのかそのままじゃな。本当に姉様はお父様のことを愛しておられたんじゃ。」


 お父様は戴冠後は王国を広げることはせずに、庇護下入りたいと求める諸国を連合王国という形で受け入れました。各国の独立は認められますがそれぞれの国の法は、連合としての共通法を前提とした法に変更され、お互いに助け合うようになりました。


 私の兄弟姉妹はそれぞれに結婚し、王国は姉様の2人めの王子が継ぎました。この子はお父様と姉様が認めるほど立派な王となりました。


 私はお2人を最後まで祝福するために独り身を通しました。姉2人の結婚を見たことと、お父様ほどの相手と出会えなかったのも理由かもしれませんね。


 独り身なのをいいことに医術を学び、連合王国の医療向上のために渡り歩いたこともありました。




「オババ様! 王子が階段から落ちて意識不明です!」


「うむ… 頭を動かさないよう慎重に運びなさいすぐに行こう。」


「「オババさま…」」


「お前たちもついておいで。お母様が見せてくれたものを見せることになるかもしれない。」


「そんな…」


「オババさま…」


「いいかい? 今日の話は兄弟たちに聞かせておやり。私の部屋にある本にもしっかり書いてあるからね。」


「わかり…ました… 国父様こくふさま国母様こくぼさま国母姉様こくぼしさまのことは連合王国が続く限り語り継ぎます。」


「私もです… 『連合王国成立録』は王族みんなで読み継ぎます…」


「うむ、では行こうかね。大丈夫、お前たちの弟はこの私がなんとしてでも助けるからね。」




 ★ ☆ ★ ☆ ★


作者です。

息抜きとリハビリがてら書いてみましたがなんと20,000文字オーバー…


なかなかになかなかでした。


今さらですが、今作は1話で全部書いて、

後から分割しています。


3話のところで完結していたのですが、

その後って気になりますよね?

ということで続きを書くと倍になりました。


おかしいなぁ…



最後に宣伝を…

メインと言える作品


最強ハンターがパーティー組んだら世界に異変が!? ちょっと待って昨日まで人間だったよね!?


も公開しております。(更新は滞っておりますが…)


こちらは現代ファンタジーになります。

政治要素やマスコミ、動画配信サービスなどについても若干取り入れております。

(ダンジョン配信モノではありません)

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連合王国成立録(習作) 出水でみ @d3d3

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