闘気の色は心の色

御剣ひかる

そのうち壁の一面に鋲が追加されそうな気がする

 なに? 極めし者とはどういう者か? だと?

 ふん、興味があるか。君も護身術とはいえ格闘術に触れているだけのことはあるな。

 いいだろう、教えてやる。


 体のうちにめぐる「気」を、自らの意思で増幅、解放し扱える者を「極めし者」という。

 いわゆる異能者というヤツだ。


 誰でもなれるわけではなく、元々身体能力が高く、とりわけ格闘に関わる者が極めし者に師事し、闘気を扱う呼吸法を会得することで極めし者となる。


 ならば格闘をたしなむ者は全員修練すればその高みに到達するのかといえばそうではない。

 呼吸法を会得できない、あるいは十分に力を発揮できない者もいるそうだ。

 つまり最後は資質があるかどうかにかかってくるな。


 こら、運ゲーとか言うな。


 極めし者に何ができるか、か。

 一言でいえば、運動能力が常人ではなくなる。

 そう、石柱を素手で破壊したりもできるぞ。格闘ゲームのボーナスステージ? 懐かしいな。というか君は若いのにどうしてそれを知っているのか……。


 あぁ、やはり見当がついたか。

 うん、俺も極めし者だ。……褒めても何もでないぞ。

 ……あぁ、話の流れで予想していたがやはりそうか。

 君は極めし者になって何をしたいんだ?


 は? 駅までの道沿いの家にいる犬が怖いから闘気を開放していれば吼えてこないだろう、って?

 確かに動物は自分より強い者は察するし、おとなしくなるだろうが……。


 うん、まぁ、いい。力に溺れる者が悪さをするよりは。

 ならば呼吸法を教えてやろうか。

 言っておくが、ひと月やそこらでものにできると思うなよ?

 君がその犬に対する恐怖心を克服する方が早いかもしれないぞ。




 ……驚いたな。

 君には素質があったようだ。

 まさか半年で呼吸法を会得するとは。


 君の属性は「地」だ。そう、守りの属性だな。闘気の色が体の周りが黄緑、離れると茶色になっているだろう? 草原と大地の色だ。なかなかいい色合いだと思うぞ。闘気の質もいいということだ。


 ……ん? 超技ちょうぎを使いたい? そうだな。格闘ゲームの必殺技だ。君は意外にも中二……、いや、かっこいい物好きか。


 君の属性だと「防壁」などがいいかもしれないな。

 地属性だけが会得できる防御の超技だ。

 残念ながら俺が教えて得られるものじゃない。俺の属性は炎だしな。超技の会得は個人でするものだ。


 なに、簡単なことだ。こんな超技を覚えたいとイメージしてトレーニングすればいい。呼吸法を会得するよりは楽だと思うぞ。思うように使いこなせるようになるには時間がかかるがな。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「何回見てもあいつの超技、エグいな」

「食らった相手が、超重量の茶色の壁に挟まれて圧死してるようにしか見えないもんな」

「本来『防壁』って自分の周りに置いて攻撃を防ぐ超技じゃなかったか?」

「闘気の性質と本人の性格は一致するもんじゃないからな」

「でもあいつ、近所の犬を怖がってたんじゃなかったっけ?」

「怖いものを遠ざけたい一心で超技をイメージしてたらこんなふうになった、って言ってたぞ。わりと一致してるかもしれない」


 うむ。極めし者の道は奥が深い、というか道が分かれすぎていると再認識した。



(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

闘気の色は心の色 御剣ひかる @miturugihikaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ