予知夢はトラウマ
柴田 恭太朗
信じようと信じまいと
不吉なサイレンが鳴っていた。人間のうめきに似た単調な音。防災無線のスピーカーが単調な警報を鳴らし続けているらしい。
窓の外では火山が噴火していた。島の中央にある活火山。激しく立ち昇る噴煙と、間歇的に吹き上がる溶岩。粘度の低い溶岩は輝く噴水のようだ。
おぞましいことにそのカタストロフは、すべてモノクロームの映像で進行した。
「ねぇ」
私の右肩を揺する者がいた。妻だ。「あなた、ずいぶんとうなされていたけど大丈夫?」、私の顔を心配そうに見つめる。
「ああ……大丈夫、いつものヤツだ」
私はサイレンの音が自分のうめき声であったことを知る。鈍く痛む頭を振ってみた。なかなか意識が現実に戻ってこない。
「まさか色のない夢?」
妻は怯える。
「どこかの島が噴火するらしい」
一週間後、伊豆諸島の三宅島が噴火した。
◇
モノクロームの映像の中、私は海岸沿いの港町上空を飛行していた。
地上に広がる光景を見下ろしつつ、私はそれが夢であることを自覚していた。なぜなら、自分の両手を広げてカモメのように滑空していたからだ。これが夢以外の何物であろうか。
眼下に広がる光景は海から街を守るために建設された長く高い防潮堤。それは万里の長城にも似た建造物であった。
本来、街から望めるであろう明媚な眺望を捨て、海から街を防御することに全力を傾けた防潮堤は、人々の自然に対する決意の現れである。私は空を飛びながら感心した。この街、田老町は大丈夫だと。
一週間後、東北で大震災が起こった。巨大な津波は防潮堤の設計想定を超え、軽々と乗り越えた大量の海水が容赦なく田老町の家々を破壊し尽くした。
自然とは人の想定を超えるものだ。
◇
今日は私の誕生日。
夢も見ることなく爽やかな朝を迎えた。
重い雨戸をガラガラと開け放った私と妻の目の前に広がったのは、一面灰色の世界。花粉のように降る火山灰で覆われた東京の街並み。富士山が噴火したのだ。
自然は予知夢も超えることがあるらしい。
予知夢はトラウマ 柴田 恭太朗 @sofia_2020
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