第34話 ハルゼー艦隊の悪夢 後編
ハルゼー達が第二次攻撃隊接近の報せを受けている頃。
ハルゼーの残存艦隊に向かっていた第二次攻撃隊の中で、1機の九七式艦攻に搭乗していた淵田は気合十分だった。
しかも、淵田の手にはカメラがあった。
操縦や偵察を担当していた搭乗員二人が尋ねた。
「中佐、カメラを何の為に使うのですか?」
「まさか、記念写真を撮る気ですか?」
そんな二人の質問に淵田は、
「アホ言うなっ!若大将から『エンタープライズ』の最期を見届けてくれと言われたから、その最期を撮影した写真を長官に渡すためやっ!」
淵田の回答を聞いた二人も納得した。
「しかし、若大将の新しい航空戦術には驚きますね。」
「ああ、実際に模擬戦などで結果や効果を見せ付けられたら、反論も出来なかったな・・・。」
確かに、二人の言う事には淵田も同意だった。
実際に、無線の内容から第一次攻撃隊として出撃した友軍の被害は一部の被弾した機体以外は、撃墜はゼロだったから尚更だし、第一次攻撃隊の戦果も加わっているから淵田も内心、驚嘆していた。
(ここまでの戦果が出ているならば、ワイらも若大将の期待に応えないとな。)
やがて、パイロットから報告が入った。
「ハルゼーの残存艦隊ですっ!」
淵田も目線を変えて確認すると、空母2隻以外は駆逐艦が数隻残っていた。
そして、この第二次攻撃隊がハルゼー艦隊への最後の攻撃である事を淵田は確信した。
淵田は全搭乗員に命じた。
「全機、突撃やっ!!」
一方でハルゼー達も第二次攻撃隊を確認していた。
状況は絶望的だが、逃げる訳にはいかなかった。
「全艦、対空射撃を開始しろっ!」
とは言え、ハルゼーは命じたが駆逐数隻は生存者達達を乗せているから対空射撃は厳しいし、『エンタープライズ』と『レキシントン』も対空機銃が多数装備されてはいたけど、安心とは言えなかった。
この時、淵田は生存者達を救助していた数隻は標的から外して、空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』に集中した。
対空射撃が疎らだった合間を縫って、先ずは淵田率いる九七式艦上攻撃隊が空母『エンタープライズ』の左右から迫っていった。
そして魚雷投下後、左右にそれぞれ、4~5本の魚雷が命中して『エンタープライズ』が左右に大きく揺れた。
ハルゼーは他のスタッフや乗組員達と同様に、船体の激しい揺れで倒れ込んだ。
すぐに立ち上がったハルゼーは、目の前の光景を目にして思わず動きが止まってしまった。
今度は、左右から九九式艦上爆撃隊が『反跳爆撃』の為に接近して来ており、次々と爆弾が投下された。
「跳躍しながら向かって来る爆弾をハッキリと目にするとはな・・・。俺達は敵にしてはいけない相手を敵にしてしまったのか・・・?」
思わず口にしたハルゼーは、目の前に迫った爆弾を目にした直後、その意識は永遠に閉ざされ、また他のスタッフや乗組員達と共に肉体も消滅した・・・。
この時、投下された250kg爆弾2~3発が『エンタープライズ』の艦橋に直撃した為であった。
自機の機体を上昇させた淵田は、『エンタープライズ』のダメージが致命傷なのを確信しながら、用意していたカメラを準備した。
しかし、直後に搭乗員の一人が「『エンタープライズ』が転覆しましたっ!」と叫んだ。
最終的に『エンタープライズ』は、右側から一気に傾き転覆した。
淵田は慌ててカメラを向けたが、周囲に発生した激しい水飛沫が邪魔して船体がハッキリと見えなかった。
水飛沫が収まった時には、『エンタープライズ』は海中に没していた。
正に『轟沈』と言うべき最期だった・・・。
「残念やったけど、これならば、長官も納得するやろな・・・。」
「間違いなく、若大将も納得しますよ。」
「自分達だけでなく、他のパイロット達も証言してくれますよ。」
二人の搭乗員に慰められる中、淵田も納得して全機に告げた。
「全機、母艦に帰還せよっ!!!」
時同じくして、空母『レキシントン』も同様の戦術で攻撃を受けて、空母『エンタープライズ』の轟沈から数分後に空母『レキシントン』の撃沈に成功した。
これにより、第二航空艦隊は、史上初めて『洋上を移動中の艦船を航空攻撃のみで沈めた』事例を成し遂げたのであった・・・。
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