第33話 ハルゼー艦隊の悪夢 中編

ー空母『エンタープライズ』艦橋内ー


迎撃開始後、間もなくして展開した光景は、ハルゼー達のワイルドキャット隊が次々と黒煙を噴きながら墜落していく光景だった。


ハルゼーやスタッフ達だけでなく、『エンタープライズ』の艦長や艦橋にいた乗組員達も唖然としていた・・・。

「何故だ・・・!?我が海軍のワイルドキャットがジャップの戦闘機に太刀打ちが出来ないだなんて・・・。」

ハルゼーは現実逃避をしている感じだったが、目の前で起きている光景は正に現実だった。

いや、ハルゼー達にとっては正に『悪夢』としか言いようがなかった・・・。

すると、ハルゼーの近くにいた航空参謀がポツリと呟いた。

「あの『シェーンノート』に記されていた『恐るべき日本の新型戦闘機』は、実在していたのか・・・。」


実際、日本海軍が開発した新型戦闘機『零式艦上戦闘機二一型(A6M2b)』は、速度及び旋回性能においてアメリカのF4Fワイルドキャットを上回っていた。

実は、既に中国戦線において既に零戦は投入されていて、その圧倒的な性能を目の当たりにしていた中国軍にいたアメリカ陸軍クレア・リー・シェーンノートが軍上層部に零戦を報告していた(通称:シェーンノート)。

だけど、軍上層部は「日本にそんな戦闘機を作る技術はない」として信じていなかった。


更に、ハルゼーはある『違和感』に気付いた。「何だ、ジャップの戦闘機は一対一の戦闘を極力避けて、ペアで戦っているな・・・。」

確かに、日本の戦闘機は一対一ではなく、ペアでワイルドキャット1機に挑んでいる。


このペアで戦う連携戦術が、遠藤と樋端が第二航空艦隊の戦闘機パイロットに提示した戦術だ。

最初こそ「卑怯な戦術」とか「武士道に反する」と言った反発もあった。

しかし、2機で一組となって戦う方が相手が強力な戦闘機でも対処出来る事が模擬戦で証明されているし、パイロット達の生還率を高めるのにも一役買っていたのでパイロット達もこの戦術を受け入れた。


それでも、零戦がペアで戦う為に、全てのワイルドキャットに対応するのは限度があった。

その為、遠藤と樋端が考えたのが、九九式艦爆と九七式艦攻の後部にある機銃で対応する事だった。

爆弾や魚雷を積んでいれば動きが鈍いが、『ある箇所』を重点的に攻撃してワイルドキャットの注意を逸らしている中で、味方の零戦隊が援護射撃する方法だ。

幾ら機体の防御力が高くても、『ある箇所』であるコックピットハッチは一番、防御力が低く格好の攻撃対象だからだ。 


実際、零戦から逃れたワイルドキャットが九九式艦爆や九七式艦攻を攻撃しようとしていたが、それぞれの後部機銃がワイルドキャットのコックピットハッチを狙って攻撃してきた為に、ワイルドキャットは銃撃を躱すしかなく、その間に駆け付けた零戦の攻撃でワイルドキャットが撃墜される状態だった。

時には、九九式艦爆や九七式艦攻の機銃攻撃がワイルドキャットのコックピットに命中して、撃墜に成功する場面もあった。


やがて、殆どのワイルドキャットが撃墜され、被弾したものの生還した機体は、艦隊近くの海上に不時着水するしかなかった・・・。

ほぼ撃墜ゼロだった零戦部隊に守られながら、九九式艦爆隊と九七式艦攻隊がハルゼー艦隊に迫りつつあった。


ハルゼーが慌てて各艦に対空射撃を発令した中、九七式艦攻や九九式艦爆が低空飛行を始めた。

海面スレスレの低空飛行に驚いている中、スタッフの一人が疑問を口にした。

「艦攻は魚雷攻撃の為だから納得出来るが、何故、爆装している艦爆や艦攻も低空飛行なんだ?」

そんな中、『エンタープライズ』と『レキシントン』を守っていた巡洋艦数隻と駆逐艦数隻にそれぞれ、艦攻や艦爆が迫る中、九九式艦爆隊と爆装していた九七式艦攻隊が抱えていた250kg爆弾を投下した。

落下した爆弾達は、目標の巡洋艦や駆逐艦のはるか手前で水煙を上げただけだったかのようにみえた。

しかし、一旦沈下したかに見えた爆弾は海面から飛び出し、再び水中に潜り、またも少し先に出現。

イルカの様に跳躍を繰り返しながら、爆弾達は目標にしていた巡洋艦1隻と駆逐艦2隻の舷側に襲いかかった。

投弾した各機は、自らの爆弾を避ける為に上昇して、左右に散開した。

直後に目標となった巡洋艦や駆逐艦は盛大な爆発と黒煙を発生していた。

間髪入れずに、九七式艦攻隊が次々と目標の巡洋艦や駆逐艦に800kg魚雷を投下していった。

そして、九七式艦攻隊も九九式艦爆隊と同様に上昇して左右に散開した直後に、魚雷達が次々と命中してこちらも盛大な爆発と黒煙を発生した。

直後に、標的となっていた駆逐艦数隻は、文字通り『爆沈』して、巡洋艦数隻は航行が止まっていたけどしばらくは浮いていた。

やがて、魚雷が命中した側から巡洋艦は転覆した後に海中に没した。


九九式艦爆隊と爆装していた九七式艦攻隊の行った爆撃方法が、遠藤が樋端と話し合って生み出した戦術『反跳爆撃』だった。

高々度爆撃よりも命中率を高め、敵艦隊の対空兵装を破壊するには、最も適した方法だった。

石を浅い角度で投げ込むと、石は何度も水面を跳躍しながら飛んでいく。

この『水切り』の要領で爆弾を放つ戦法だ。


やがて、第一次攻撃隊は第二航空艦隊の母艦である空母へと帰還していった。


巡洋艦や駆逐艦が沈んだ海域では、残存する数隻の駆逐艦が生存者達の救助していたが、ハルゼー達の頭の中の思考回路が中々、追い付かなかった・・・。

何よりも、第一次攻撃隊は空母『エンタープライズ』を無視して、巡洋艦数隻と駆逐艦数隻だけを狙って攻撃したのだから余計に混乱していた。


そんな中で、ハルゼー達にスピーカーを通して緊急報告が入った。

「新たな日本機群、多数っ!!恐らく第二次攻撃隊と思われますっ!!!」

悲鳴とも言える報告を受けたハルゼーも顔面蒼白のまま呟いた。

「俺達の『悪夢』は、まだ続くのか・・・。」

周りにいた者達にとって、ハルゼーの呟きは『死刑宣告』を告げられたも同然だった・・・。



____________________


零戦の2機一組による連携戦闘だけでなく、九九式艦爆や九七式艦攻による機銃攻撃は、考えとしては悪くないと思います😊


そして、九九式艦爆による『反跳爆撃』は、史実でも、樋端は考案していたそうです。


これらの戦術が早くに取り込まれていたらと思うと、残念ですね・・・😰

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る