第24話 『ニイタカヤマノボレ一二〇八』
ー1941年12月2日 太平洋上 第二航空艦隊旗艦・戦艦『土佐』防空指揮所ー
真珠湾を目指して太平洋上を航行する、第二航空艦隊。
既に、南雲が率いる第一航空艦隊も択捉島・単冠湾から出航して、真珠湾を目指していた。
そんな中で、この日も戦艦『土佐』の防空指揮所で外の風に当たっていた遠藤に、鼓舞が声を掛けた。
「何を物思いに耽っているのですか?若大将。」
声を掛けてきた鼓舞に、遠藤は軽い溜め息をしながら振り向いた。
「別にそんなつもりは無かったけど、聞きたい事があるんだろう?」
鼓舞が遠藤の参謀長になって、そんなに月日が経ってはいないが、鼓舞は遠藤の、そして遠藤は鼓舞の考えがすぐに理解が出来る様になっていた。
そんな遠藤に、鼓舞は尋ねた。
「出航前日に山本長官が訪ねて来て、夜遅くまで話していましたが、若大将は長官に何の入れ知恵をしたのですか?」
それに対して、遠藤は意味ありげな笑みを浮かべながら答えた。
「俺が親父さんに話したのは、アメリカの『ハル・ノート』に対してのカウンター返しと、資源確保を名目に南方進出と植民地拡大を図る陸軍に対して楔を打ち込む事だよ。」
遠藤の答えに、鼓舞は首を傾げながらも、その内容に興味があった。
だが、遠藤は苦笑いしながら、
「知りたい気持ちは分かるが、今は遠い先を考えずに、目の前の作戦に集中しよう。『捕らぬ狸の皮算用』はしたくないからな。」
そう言って笑みを浮かべた遠藤に、鼓舞もまた「そうですね。」と笑みを浮かべながら答えた。
そんな二人の元に佐野が電文を持って、駆け寄った。
佐野の様子から、ある程度を察しながらも遠藤は受け取った電文を鼓舞と一緒に見て、すぐに二人は顔を曇らせた。
「やはり、交渉決裂でしたか・・・。」
鼓舞の残念そうな言葉には、遠藤も同じ気持ちだった。
電文には、『ニイタカヤマノボレ一二〇八』と記されていた。
それは、アメリカとの戦争を開始せよとの通達であった。
だが、遠藤は悲観的にはなっていなかった。
(まずは、ルーズベルト大統領、あんた達への意趣返しをさせてもらうぞ・・・。)
アメリカからしたら待ち望んだ日本との戦争だが、同時に、アメリカにとっては自身の歴史に汚点を残す切っ掛けを作る事になってしまうのだった・・・。
戦後に大勢の軍事研究家や歴史研究者は、断言するように後々の人々に語り続けた。
『アドミラル・エンドウを敵にした時点で、ルーズベルト大統領の命運は尽きていた。』と・・・。
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遠藤達の元に届いた『ニイタカヤマノボレ一二〇八』。
ルーズベルト大統領からすれば、内心、大喜びだけど、ルーズベルト大統領にとっては自身の『終わりの始まり』ですね・・・。
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