第25話 アメリカへの強烈な意趣返し 前編

ー1941年12月1日 ワシントンD.C.ー


遠藤と鼓舞が『ニイタカヤマノボレ一二〇八』の電文を受け取る前日の12月1日まで遡る・・・。


ワシントンD.C.では駐米大使の野村吉三郎と来栖三郎の二人は、緊張した気分でホワイトハウスに向かっていた。

車内で来栖は野村に、

「既に腹を括っていますが、この妥協案が拒否されたら即座に、ハル国務長官に宣戦布告書を渡さなければいけないのは緊張しますね・・・。」

来栖の心境は理解しつつも、野村は、

「残念ながら選択肢は無いし、私も既に腹を括っている。宣戦布告書を渡し終えたら日本大使館で各国の記者達を呼んで記者会見を行う。」

野村の強い決意の前に、来栖もそれ以上の質問はやめた。

(それにしても、交渉決裂直後に宣戦布告書をハル国務長官に渡した後に記者会見とは・・・。しかし、若大将の言い分は最もだな・・・。)


日米関係が悪化する中の11月上旬頃、野村と来栖の元に遠藤の部下が訪ねて来た。

彼は、海軍省では、遠藤の面会の連絡役をしてくれていた士官だ。

遠藤の手紙を受け取りすぐに開封して読んだ野村と来栖は、絶句した。

内容は、

『交渉決裂になったら、その場でハル国務長官に宣戦布告書を渡し、後に大使館で宣戦布告に関する記者会見をせよ。』

更に、

『宣戦布告書は正式に作成したものをすぐに用意して、ハル国務長官に渡す日が来るまで厳重に保管して置く事』

と記されていた。

野村は、使者として来ていた遠藤の部下に抗議した。

「一介の海軍将校が、ここまで指示する資格が有るのかっ!!」

だが、遠藤の部下は野村の抗議に対して、

「ご安心して下さい。陸海軍の上層部だけでなく政府関係者達、更に東郷外務大臣や外務省からも許可を貰っておりますので大丈夫です。」

遠藤の部下はサラリと関係者達に根回し済みである事を告げた。


野村と来栖も、遠藤の手際の良さに絶句していた。

そんな二人に遠藤の部下は、トドメの言葉を告げた。

「加えて、『さる御方』も遠藤中将を強く支持しております。」

『さる御方』が誰なのかを知っているだけに、二人とも遠藤の部下に、

「了解した。直ちに準備します。」

と答えて、遠藤の部下も一礼して大使館を後にした。


遠藤の部下が去った後、野村と来栖はソファーに座り込んで溜め息をついた。

「しかし、あの男がここまで根回しをするとは。てっきりあの男は親米派と思っていたのに・・・。」

と野村は感想を漏らした。

それに対して来栖は、

「そうとは思えません。彼は山本長官と同じく『日・独・伊三国軍事同盟』にはかなり反対していました。」


二人とも遠藤の考えに理解が苦しんでいた。

しかし、そこで野村は、手紙(厚い封筒)の中に更に薄い封筒が同封されているのに気付いた。

薄い封筒を取り出すと表に『盗聴されている可能性が有るので、声を出さずに読んで下さい。』と遠藤直筆の文字が記されていた。


野村と来栖は、驚きつつも気持ちを落ち着かせながら手紙を読んだ。

遠藤の手紙を読み終えた二人の表情には、強い決意が現れていた。

野村は来栖に顔を向けて、

「来栖くん、我々も腹を括ろう!」

と言った。

それに対して来栖も、

「アメリカがそのような考えならば、彼の言う通りやりましょう!」

と力強く答えた。


それ以降、二人は他の大使館員達に悟られないように準備を進めた。

そして、今日12月1日、二人は車でホワイトハウスに向かった・・・。



____________________


戦場だけでなく、外交でも野村と来栖がアメリカに一矢報いようとしています。


アメリカのプライドは、ここからボロボロになっていきますね・・・(;-_-)=3

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