第21話 目覚めを待つ『改・一号艦』 後編


遠藤は、福田と牧野に『一号艦』の問題点を上げた。

内容は、以下になる。

①『一号艦』防御部分が船体中央に集中している為に、肝心な艦首部分と艦尾部分の防御力が平均以下になっている事。

②敵戦艦との砲撃戦はともかく、魚雷攻撃になるとバルジに浸水したら、反対側のバルジに注水をするから、それが速力低下に繋がってしまう事。

③『一号艦』の副砲は、最上型で使用している15.5cm三連装を流用しているから、防御力がかなり低く副砲の破壊から弾薬庫の破壊に繋がる懸念がある為に、『一号艦』のアキレス腱になってしまう事。

④速力が27ノットになり中途半端な速力である事。

以上の4点を上げて、遠藤は『一号艦』の問題点を指摘した。


全てを聞き終えた福田と牧野は、遠藤に言い返す事は出来なかった。

勿論、妥協せざる得なかった部分もあったが、遠藤からは、

「乗組員達の人命を犠牲にしてまで妥協してしまう事は、妥協してしまった貴方達のプライドや誇りと同様に、価値などは無いし、必要は有りませんね・・・。」

遠藤の容赦ない言葉に福田と牧野のプライドと誇りは完膚無きまでに打ち砕かれたのだった。


伊藤は慌てて双方を落ち着かせながら、

「今日の話は、ここまでにしよう。」

と言ったが遠藤は、

「いえ。既に改善案と新しい機能のアイディアを用意しているので、このまま続けましょう。それとも、このまま欠陥戦艦を建造する気ですか?」

遠藤の言葉に福田と牧野は、力無く答えた。

「分かった・・・。君の話を聞こう・・・。」


「分かりました。続けましょう。」と言って、遠藤は続けた。

「まず、艦首と艦尾部分の防御力は、中央の防御力をある程度減らして、減らした分を艦首と艦尾に回します。」

遠藤の言葉に福田は、

「中央の防御力は減らすのか?」に対して遠藤は、

「はい、多少の防御力低下は大丈夫です。むしろ、中央ばかりに回し過ぎです。」

更に遠藤は続けた。

「出来れば電気溶接も使いたいですが、アメリカに比べて遅れているので、今回の『一号艦』改め『改・一号艦』には一部のみに使います。」


次に遠藤は、

「副砲4基は撤去します。アキレス腱の部分は外して、対航空対策として速射率の高い高角砲や機銃を多数、設置します。」

遠藤の言う対空兵装増設に牧野は尋ねた。

「対空兵装の増設理由は?」

「これからは、航空機が主役になるから対航空戦を前提に対空兵装を増設します。勿論、艦隊戦も考えていますが、空母の護衛の為にも必要です。」


遠藤の言い分には、もはや、福田と牧野には反論する余力は無かった・・・。


そんな中で、伊藤が遠藤に聞いた。

「他の改善案や新しい機能とは?」

遠藤は残りの改善案を話した。

「艦内の浸水対策として水密区画初期よりを細分化します。勿論、乗組員達の居住には配慮します。」


一旦、話を止めて遠藤は話を再開した。

「また、外部装甲のすぐ内側にゴムを注入した層を設けて、爆発時の衝撃を吸収します。そのまた内側に、スポンジの層を作り浸水を吸収して、水圧から隔壁を防御して浮力を増大させて魚雷対策にしました。」

遠藤の潜水艦や航空機からの魚雷対策に三人が感心する中、最後に遠藤は、

「最後に動力機関は、翔鶴型空母に使用される動力機関を大幅に改善して速力を30ノット~32ノットにします。以上が、改善案と新しい機能についてですが、質問は?」

遠藤が造船技師候補生達と一緒に考えた改善案や新しい機能に、三人は絶句していた。


やがて、福田が重い口を開いた。

「分かった・・・。すぐに決断は出来ないが必ず検討するよ・・・。」

そして、牧野も、

「安易な妥協は駄目だと、今回の事で痛感したよ・・・。」と力無く答えた。


後で分かった事だが、航空機を重視していた山本が遠藤に大艦巨砲主義者達を黙らせる為に、遠藤に『一号艦』の設計図を見せたのだが、遠藤は、

「今の日本は余力が無く総力戦だから、『一号艦』にも活躍して貰います。」

と山本に反論したのだった。


最終的に、遠藤達の改善案や新しい機能は認められたが、ショックだったのか福田は1ヶ月半、牧野は半月ほど体調不良を理由に寝込んでしまったのだった・・・。

それを聞いた遠藤は言い過ぎだったなと反省し、山本は呆れるしか無かった・・・。


その後、福田は『改・一号艦』の建造から手を引いたが、牧野は造船技師としての誇りの為に、遠藤が提示したアイディアなどを組み込んで設計及び建造に着手した。


そして、現在、遠藤の目の前にいる『改・一号艦』は、以下の性能となって目覚めの時を待っていた。


全長:292.5m、基準排水量:89.000t、速力:30.5ノット~32ノット、最大幅:39.9m、主砲:45口径九四式50cm 連装砲塔4基、対空兵装:65口径九八式長10cm連装高角砲26基(シールド付き)、96式25mm三連装機銃基(シールド付き)22基。


やがて、説明を終えた牧野が遠藤に尋ねた。

「何故、戦艦なんですか?私はてっきり、大鳳型を上回る超弩級空母だと思っていたが・・・。」

それに対しての遠藤の答えは、意外だった。

「意味は無いな。ただ、俺も戦艦が好きで、牧野さんが目指す『真の不沈戦艦』の誕生を見たかったし、暴れ回って欲しいからだな・・・。」

遠藤の答えに、牧野は暫し、目を見開いていた。


それに構わず、遠藤は続けた。

「それに、この艦艇が戦う相手はアメリカだけでは無いからな・・・。」

遠藤が話した最後の言葉を聞いた牧野は、この艦艇が必要とされる場所が何処かを理解した。

「相手は、ナチスドイツですね・・・。」

遠藤は、牧野の問いに答える事はせずに、目の前の艦艇を見つめているだけだった・・・。


そして、この艦艇がアメリカ・イギリス・ドイツでも実現が出来なかった『今世紀最後の戦艦であると同時に世界最大の戦艦』となる事を、遠藤も牧野も今はまだ、知る由は無かった・・・。

遠藤が訪問した翌日には、『改・一号艦』に艦名が授けられた。

その名は・・・、『土佐(とさ)』。


かつて、八八艦隊計画において加賀型戦艦の2番艦として建造が開始されたが、ワシントン海軍軍縮条約の煽りを受けて廃艦となり、各種実験に従事したのち自沈した『土佐(とさ)』の艦名を受け継ぐ事になった。


後に、超弩級高速戦艦『土佐』は、世界各国から『東洋のリヴァイアサン』として畏怖される事になるのだった・・・。


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