第20話 目覚めを待つ『改・一号艦』 前編

ー満州国・旅順のとある造船ドックー


第二航空艦隊の訓練が終った直後、遠藤は単身で満州国の旅順に手配した輸送機で向かった。


現時点で、一応、満州国は独立国だったが、実際は日本の傀儡政権だった。

だけど、中国の国民党や共産党に狙われていた事から外務省を通して救援要請があった為に、現在、必要最低限だが陸軍と海軍の駐在軍が満州国に滞在していた。


勿論、満州国内にある旅順の港も、日本海軍は使用していた。

そして、旅順に到着した遠藤は、極秘裏に建造された造船ドックに、遠藤は来ていた。


とあるドックに到着した遠藤を待っていたのは、意外な人物だった。


「牧野さん、お久しぶりです。」遠藤は敬礼しながら挨拶した。

そして、相手も苦笑いしながら答えた。

「五年ぶりだな・・・。あの時、士官学校の一生徒だった君による『道場破り騒動』以来かな?」

そう言った人物は、福田啓二造船技師と共に『一号艦』の設計に携わった牧野茂造船技師だ。


五年前、遠藤が『一号艦』の設計上の問題点を容赦なく主張したので、結果、福田啓二造船技師と牧野茂造船技師のプライドはズタボロになり、半月~1ヶ月、二人は寝込んでしまった。

流石に遠藤もやり過ぎたと反省したから、遠藤は牧野に謝罪した。

「正直、問題点を指摘した事については、今でも間違ってはいない。だけど、貴方達の精神面に配慮すべきだった・・・。本当に済まなかった・・・。」


それに対して、牧野は苦笑いしながら、

「あの時の君の言葉は、私に造船技師としての当たり前の事を思い出してくれた。此方こそ、済まなかった。」

そう言って、牧野は遠藤に頭を下げた。


お互い挨拶と過去の件での謝罪を終えた中、遠藤は牧野にドック内に案内された。

「よくぞ、ここまで完成させたな・・・。しかも、大鳳型空母と違って徹底的に極秘裏に建造してきたのだから、素直に賞賛するに値するな・・・。」

そう言って遠藤は、ドック内に設置されている桟橋から目の前にいる巨大な艦艇に視線を向けた。


先日に鼓舞が話していた『改・一号艦』は、大鳳型空母に使われた『一号艦』よりも長く、約300m近くあった。

既に、艦橋・煙突・主砲・対空兵装等は取り付けられていて、何時でも出航が出来る状態だった。


その艦艇を見ている遠藤に、牧野が説明をした。

「如何でしょうか?あの時に君が指摘した箇所も大幅に改善または再設計して、建造したから君の言っていた『真の不沈戦艦』に近い形になったよ。」


牧野の説明を聞きつつ、遠藤は当時の事を思い出していた。

全ては、『一号艦』の建造前の1936年に遡る。

当時、福田と牧野は海軍の要求する性能に近い形で『一号艦』の設計を行い、正に『不沈戦艦』に相応しい戦艦だと自負していた。

『彼』が来るまでは・・・。


ある晩、福田と牧野は呉にある料亭に呼ばれていた。

この頃には、『一号艦』の建造も来年に控えていたから、労いの席と思っていた。

そこへ、来たのが兵学校在学中だった『彼』こと遠藤だった。

二人は山本が遠藤の保護者代わりをしている事は知っていたが、会うのは初めてだ。


お互いに挨拶を交わしてから、遠藤は福田と牧野に『爆弾』を投下した。

「福田さんと牧野さんに対して、失礼である事は承知で言わせてもらいます。あなた方が設計した『一号艦』は『不沈戦艦』どころか欠陥戦艦ですっ!」


この言葉に二人は激怒し、中でも福田は遠藤に掴み掛かろうとしていた。

しかし、遠藤と一緒に来ていた伊藤整一が止めに入った。

「遠藤君、今の発言は失礼極まりないっ!」

と叱責した。

しかし、遠藤は謝罪をせずに続けた。

「自分は最初に失礼を承知でと言いました。それに大事な戦いで欠陥戦艦に乗り込む将兵達を考えたら、当然の事です。」


それでも、まだ成人していない遠藤に、気持ちを落ち着かせながら牧野は聞いた。

「何故、そこまで言えるのか、その根拠や指摘を聞いても良いかな?」

そこで遠藤は答えた。

「自分は、山本の親父さんからや『さる御方』の許可を得て、『一号艦』の設計図を見ました。また、口外無用を条件に兵学校在学中の造船技師候補生達数人と協議しました。」


そして、遠藤が指摘した内容は、福田と牧野が気にしていた箇所でもあり、遠藤が造船技師候補生達と共に見いだした改善案に加えて画期的な機能も提示された事から、福田と牧野のプライドや誇りはボロボロになってしまった・・・。


この出来事は後に、『道場破り騒動』として海軍関係者達から良くも悪くも有名な話として、後々に語り継がれる事になった・・・。


戦後に、福田は『道場破り騒動』に関しては「その事は話したくない。」と言って、生涯、話す事は無かった。

また、牧野は「自分にとっての誇りは、大和型戦艦の件で完膚無きまでに打ち砕かれたよ・・・。」

と語り、それ以降は年齢に関係無く色々と学び、『造船の神様』の名称を残す事に繋がっていくのだった・・・。

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