第17話 第二航空艦隊 ー巡洋艦編ー


遠藤が山口達の着任経緯を思い出していた中、第二航空艦隊は対空訓練を開始しつつあった。

その中で、対空用の輪形陣に展開を始めている巡洋艦は6隻いた。


2隻は高雄型重巡洋艦の『鳥海』と『摩耶』、2隻は最上型軽巡洋艦の『最上』と『熊野』だった。

今回、『鳥海』と『摩耶』は第三砲塔を撤去した後で高角砲や機銃を設置して、『鳥海』は左右の高角砲が初期の単砲だったので、此方も連装高角砲に換装した。

他にも、機銃を増設して対空兵装を設置している。


本来ならば、巡洋艦で編成された艦隊も『戦隊』と呼ばれるが、遠藤により巡洋艦で編成された戦隊だから、今後は『巡洋戦隊』と呼ばれる事になり、『鳥海』と『摩耶』は第一巡洋戦隊として配備された。

そして、第一巡洋戦隊の司令官に抜擢されたのは、早川幹夫だ。

 

早川幹夫は水雷が専門だったが、勇猛果敢であると同時に冷静沈着に対応する人物だった事から、遠藤がスカウトして第一巡洋戦隊司令官に赴任した。


また、『最上』と『熊野』を含めた最上型巡洋艦は、ワシントン軍縮条約、ロンドン軍縮条約が1936年(昭和11年)いっぱいで失効した事で計画通りに20.3cm連装砲塔に換装して重巡洋艦になる予定だったが、遠藤が関係者達に掛け合って換装を中止してもらい軽巡洋艦のままでいた。

勿論、対空兵装増設の為に機銃の設置も行われた。


第二巡洋戦隊に配備された『最上』と『熊野』の司令官は、木村昌福だ。

彼も早川と同じで水雷が専門だったが、士官学校時代の成績は決して高くはなかった。

また、『水雷屋』の要件である水雷学校高等科学生の履歴がなく、海軍士官としての専門を持たない『ノーマーク士官』と揶揄されていた。

だけど、勇猛果敢な上に豪放磊落な性格の人柄で知られ、部下をむやみやたらに叱ることもなく、常に沈着冷静な態度であったので将兵からの信頼は厚かった。


遠藤は、そんな木村を高く評価してスカウトした。

最初、木村は辞退しようとしていたが、自分を高く評価してくれた事や、木村も遠藤の人柄も含めて高く評価していた事から、今回の話を引き受けてくれた。


そして、初めてお披露目となった2隻の巡洋艦は、主砲は無く、代わりに高角砲や機銃が多く設置されていた。

この2隻が遠藤の発案で建造された日本海軍初の『防空巡洋艦』である阿賀野型防空巡洋艦の一番艦『阿賀野』と二番艦『能代』だ。


阿賀野型は本来ならば、球磨型から始まる5500トン型軽巡洋艦に代わる水雷戦隊の旗艦として計画された最新の軽巡洋艦になる筈だった。

だけど、艦隊の上空を守る事を専門にした『防空巡洋艦』が必要と考えていた遠藤が白羽の矢を立てたのが、阿賀野型巡洋艦だった。


結果、初期に予定されていた50口径15cm連装砲 3基6門、四連装の魚雷管2基と偵察機用のカタパルトは撤去された。

代わりに、防空駆逐艦として計画された秋月型防空駆逐艦と同じ65口径10cm連装高角砲 を前部に3基、後部に2基、左右の側面に2基ずつの合計で9基が設置されている他に機銃が多数、設置された。


そして、『阿賀野』と『能代』で編成された第一防空巡洋隊の司令官は、松田や中瀬と共にスカウトされた野村が赴任した。


今回、あまり評価されていなかった木村が抜擢された事に反発する連中もいたが、それに対して遠藤は、

「そこまで言うならば、木村よりも優秀だと、証明してみろっ!!」

と一喝して黙らせた。


結局、口先だけの連中や木村に及ばない連中は、遠藤に言い返す事が出来る訳がなく、負け犬の様にスゴスゴと退散していった・・・。


6隻の巡洋艦の中でも、初めて見る阿賀野型防空巡洋艦に皆が注目していると、風間が感想を口にした。

「しかし、阿賀野型を防空巡洋艦とは言え、完成させるとは・・・。例の秋月型防空駆逐艦も、確か、竣工予定は阿賀野型と同じ1942年半ばでしたよね・・・?」

実際、阿賀野型巡洋艦は1942年10月頃で、秋月型駆逐艦は1942年6月頃の予定だった。


風間の疑問に、遠藤は、

「本来、軍艦関係は余程の事が無ければ、民間企業には回されないが、その辺りは関係部署に掛け合っただけでなく、長官を通じて堀さんに依頼したんだ。」

遠藤の答えを聞いて、風間だけでなく、他のメンバーも納得した。


堀とは、元海軍の堀悌吉の事で、山本の海軍士官学校の同期で友人の男だ。

何れは海軍大臣になれる逸材だったが、1930年(昭和5年)のロンドン海軍軍縮会議において、日本は対米比6割9分7厘5毛でロンドン海軍軍縮条約に調印した件で艦隊派の恨みを買ってしまい、1934年に事実上のクビとも言える予備役に編入された。


その後、日本飛行機株式会社の取締役に続き、浦賀船渠株式会社 取締役社長に就任していた。

遠藤は、山本を通して堀が社長に就任する前に、今回の前倒しによる建造の話をして、堀も快く承諾してくれた。


此れにより、阿賀野型防空巡洋艦と秋月型防空駆逐艦の前倒し建造が可能になった。

ちなみに、予算については『三番艦』と『四番艦』の建造を中止させて浮いた予算を回していた。


「そう言えば、若大将、例の『改・一号艦』は今回の作戦に間に合うのですか?」

鼓舞の問いに、遠藤は、

「近い内に、視察に行くけど、ギリギリだな・・・。」


遠藤と鼓舞が言う『改・一号艦』、此方も公の場に登場するのは、間もなくだった・・・。


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