第12話 第二航空艦隊 ー戦艦編ー 後編

ー高速戦艦『長門』防空指揮所ー


声を掛けてきた松田に対して、遠藤は、

「松田さん、前にも話した通り、空母だけでなく戦艦を含めて全てが重要な戦力ですよ。」

と答えた。


元々、第一戦隊司令官に松田千秋少将をスカウトしたのは、遠藤自身だった。

松田は、海軍内部に『戦艦は無用の長物』という風潮が出始めていた頃から、中瀬泝大佐、野村留吉大佐と共に、研究やシミュレーションなどで、航空攻撃に対する爆撃や魚雷の回避マニュアルを生み出していた。

これにより、『戦艦は航空攻撃の前では無力』という固定概念を早々に打ち砕いていた。


そんな中で、ある日、遠藤が松田の元を訪ねて来たのだから、三人は驚いた。

しかも、遠藤は松田を第二航空艦隊・第一戦隊司令官としてスカウトしてきただけでなく、中瀬と野村もスカウトしたのだ。

更に遠藤は、彼等の回避マニュアルに『ある提案』をしたのだから、更に驚いた。

松田達が驚愕する中で遠藤は、

「松田さん達は勘違いしているみたいだけど、俺は絶対の航空主兵派じゃあない。大体、日本はアメリカと違って豊かじゃあないから、持てる物は全てフル活用します。勿論、戦艦も同じく必要です・・・。」


そして、遠藤が松田達に提案したのは、航空機相手の高角砲や機銃による弾幕射撃法だった。

遠藤曰く、

「いずれは対空射撃システムは進化するが、現状ではない袖は振れない。だから、この弾幕射撃法です。」

それは、高角砲要員達や機銃要員達に、予め持ち場の攻撃範囲を与え、1機の撃墜に拘らずに与えられた範囲内に飛び込んで来た機体だけを高角砲や機銃で攻撃する方法だった。


その後、遠藤の提案した弾幕射撃法も研究やシミュレーションが行われて、爆撃や魚雷回避だけでなく弾幕射撃で敵機を撃破または撃墜が不可能ではない事が証明されて、松田達は改めて、遠藤の先見の明には心底、驚愕したのだった・・・。

だからこそ、三人は遠藤のスカウトを受け入れたのだった。


現在、中瀬は第四戦隊の司令官として『金剛』と『榛名』を率いており、野村は、遠藤が新たに発案した巡洋艦隊の司令官に着任している。


勿論、松田は遠藤から戦艦も含めた全ての艦艇を重視しているのは理解していたから、不満は無かった。

寧ろ、遠藤が編成した第二航空艦隊の存在が、近い将来、国内外で畏怖される事を予感していた。


(若大将の元で戦えるのは、俺にとっては正に僥倖だな。)

内心で松田は、それを実感していた・・・。

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