第8話 抜擢される二人の航空参謀 中編
久我直樹少佐の名前を聞いた源田と淵田の表情は対照的だった。
(無理もないか・・・。)
内心で、遠藤は思った。
久我は現在、霞ヶ浦航空隊でパイロット育成教官をしているが、元々、赤レンガこと海軍省勤務だった。
何故、赤レンガ勤務から霞ヶ浦でパイロット育成教官をしているかと言うと、久我は3年前に『戦艦は、航空機の前では無力かどうか』という議題で、航空主兵者として先頭を立つ形で大艦巨砲主義者達を凹ませた事があった。
結果、大艦巨砲主義者達の恨みを買ってしまい、赤レンガを追われた経緯があったのだか・・・。
「しかも、源田・・・、その時は君も大西さん達と共に久我を担ぎ上げていたくせに、彼をトカゲの尻尾切りにしたな・・・。」
遠藤の咎める様な視線を受けて、思わず源田は目を逸らした。
この事は、南雲と草鹿は初耳だった。
南雲も思わず、
「源田くん・・・、それは酷くないか?」
源田は、すっかり、縮こまってしまった・・・。
「それで、既に久我には打診したのだけど、何と言うか、久我は人間不信になっているみたいだ・・・。それでも、優秀なパイロット達を輩出しているから、彼が優秀なのは違いないが、あいつは中々、首を縦に振ってくれないんだ・・・。」
そう言って、遠藤は深い溜め息を付いた。
そこで、草鹿が質問した。
「君の考えだと、淵田がいれば、久我は打診に応じるのか?」
それに対して、遠藤は、
「はい。実は、源田、淵田、久我は兵学校の同期だけでなく、久我と淵田は特に仲が良かったんです。当時の件で唯一、淵田は久我を庇ったのですが、その時点で久我は、赤レンガからの追放は確定してしまっていたので・・・。」
南雲と草鹿は納得したが、淵田は第一航空艦隊にとっても貴重な戦力でもあり、優秀な人材だったから、簡単には首を縦に振ることは厳しかった・・・。
南雲と草鹿の心境を察した遠藤は、ある提案をした。
「ならば、淵田は期間限定で第二航空艦隊の航空乙参謀はどうでしょうか?」
「「「「期間限定!?」」」」四人が声を揃えて聞き返した。
「草鹿さんの言う通り、淵田ならば、久我も同意してくれるし、一定期間、淵田と共にいれば久我も人間不信が薄らぐと思いますが、如何でしょうか?」
遠藤の提示を聞いていた淵田が言った。
「ワイの腕だけでなく久我も評価してくれるのは嬉しいけど、ワイはまだ現役でいたいんや・・・。」
それを聞いた遠藤は、更に提示した。
「ならば、淵田は航空乙参謀であると同時に現役搭乗員のままでも良い。何か航空攻撃の時に、搭乗員として出撃しても構わないよ。」
少し考えてから答えが出たのか、淵田は南雲と草鹿に顔を向けた。
「長官、ワイからもお願い出来ないでしょうか?」
淵田の申し出を聞いた南雲は、草鹿と顔を向き合い、少し考えてから遠藤に答えた。
「分かった・・・、今回の真珠湾攻撃だけならば良いぞ。」
南雲の言葉を聞いて、遠藤は頭を下げながら礼を言った。
「有り難うございます、南雲さんっ!!」
遠藤の態度を見た草鹿が思わず笑った。
「意外だな・・・。君が頭を下げながら礼を言うとは。」
それに対して、遠藤は、
「失礼ですね・・・。自称エリート連中は死んでもごめんですが、南雲さん達には結構、敬意を払っていますよ・・・。」
と言い返した。
今度は、遠藤の言葉を聞いた南雲、草鹿、源田、淵田、長津田達全員が笑った・・・。
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