第7話 抜擢される二人の航空参謀 前編
ー海軍省・特別室ー
早速、遠藤は鼓舞の直属上司に山本達の署名捺印がされている書類を見せて、鼓舞を参謀長にする事と奥奈、長津田は助手にして一段落したら遠藤の知り合いで信頼出来る士官の部下にする事を伝えた。
当然、決定権は遠藤にあるので、鼓舞の上司は承諾するしかなかった・・・。
また、鼓舞の上司は性格が温厚な人物で、鼓舞が石島達から疎んじられているのを心配していたみたいで、今回の話は正に『渡りに船』だったようだ。
鼓舞達が異動する際には、励ましの言葉を掛けていた。
物置小屋にあった書類などは、遠藤が山本達から与えられた特別室に移した。
更に、遠藤は鼓舞達に、
「残業で家に帰れなくなる事もあるから、ここで寝泊まりすれば良い。」と話した。
すぐに遠藤は、人事課に掛け合い、鼓舞の昇進をさせた。
遠藤が少将だったから、鼓舞は中佐から大佐に昇進した。
ちなみに、鼓舞の上司から石島達は鼓舞が大佐に昇進した上に、遠藤の参謀長に抜擢されたと聞いて憤慨していたが、遠藤や鼓舞達は無視した・・・。
そんな中、遠藤は鼓舞達と共に第二航空艦隊の幕僚召集の協議を始めた。
「既に、艦隊編成の目処は付けている。次は、俺に必要な幕僚達だが・・・。」
遠藤が言うと、鼓舞が遠藤に尋ねた。
「若大将に必要な幕僚達は、どんな役職ですか?」
鼓舞の質問に、遠藤は、
「そうだな・・・。あまり人数は必要はないな。今の段階では、作戦参謀は一人、航空参謀は甲と乙で二人、航海参謀は一人、通信参謀は一人だな・・・。」
遠藤と鼓舞の話を聞いていた奥奈と長津田は、意外に感じた。
「意外と少ないですね・・・。」
長津田の感想に、奥奈も同感だった。
「山本長官は、新たに連絡役も兼ねた戦務参謀を設置したと思いますが。」
それに対して、遠藤は、
「その辺りは、人によるな・・・。俺としては、大人数よりは必要最低限で対応したいしな。」と答えた。
遠藤は続けた。
「参謀候補は既に何人かいるんだが、一人は、かなり揉めるな・・・。」
長津田は、「誰ですか?」と聞いたので、遠藤は答えた。
「淵田美津雄少佐だ・・・。」
淵田の名前を聞いた三人は、納得した。
何故ならば、淵田は艦攻隊隊長として空母『赤城』に配属していたからだ。
しかも、第一航空艦隊の航空参謀である源田と同期で友人だった。
加えて、先日の図上演習で源田達が作った『真珠湾奇襲攻撃計画』を遠藤が否定した時に、源田は黒島と共に遠藤に激怒していたから引き抜きは不可能に近いのではないかと、鼓舞達は懸念した・・・。
「それで、若大将は諦めるのですか?」
鼓舞が尋ねたので、遠藤は答えた。
「いいや・・・、諦めるつもりは無いよ。これから空母『赤城』に行く。鼓舞、済まないが留守を頼む。それと、長津田を借りるぞ。」
そう言って、遠藤は長津田を連れて、空母『赤城』に向かった。
「巫山戯るなっ!!!」
早速、空母『赤城』を訪ねた遠藤は、応接室で南雲、草鹿、源田、淵田に会って淵田を第二航空艦隊の航空乙参謀として引き抜きたいと話した。
結果、今の南雲の怒声だった。
他の三人は、怒る以前に呆れていた。
草鹿は、
(率直に淵田を引き抜きたいと言うとは・・・。肝が据わりすぎているな・・・。)
長津田は、南雲の怒声に萎縮してしまっていた。
南雲の怒髪天に、遠藤は動じず続けた。
「南雲さんが怒るのは当然ですが、淵田を引き抜きたいのには、もう一つ、理由が有ります。」
そこで、源田が遠藤に尋ねた。
「その理由は、何ですか?」
それに遠藤が答えた。
「もう一人を、航空甲参謀にと考えているんだが、源田と淵田が知っている人物だ。」
「「誰ですか?」」二人して、尋ねてきた。
そんな二人に、遠藤は答えた。
「久我直樹少佐だよ。」
その名前を聞いて、源田は苦虫を噛み潰す様な顔をして、淵田は懐かしい名前を聞いた様な顔をした・・・。
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