第6話 『昼行灯』と呼ばれる男 後編

【申し訳ございませんが、その気にはなれませんね・・・。】


そう言って鼓舞は、あっさりと断ってきた。

だが、遠藤は言った。

「そうか・・・。君の懸念事項が解決したら、引き受けるという事だな・・・。」


鼓舞の部下二人は、鼓舞の言葉と遠藤の言葉が理解出来ず、混乱していた。

「何故、そう思うのですか?」

鼓舞は聞いてきた。

だから、遠藤は答えた。

「君は、『辞退』とは言っていない。少なくとも、理由は二つだな・・・。その懸念事項が解決していないから、先ほどの言葉だったんだろう?」


遠藤は、石島達が鼓舞を『昼行灯』と見下していたが、実際の所は鼓舞が普段は『昼行灯』を装っているのは、下らない揉め事を嫌っている為だったんだなと確信した。

一方、遠藤の言葉を聞いて、鼓舞は思った。

(以前に樋端が言っていた通り、彼はかなりの切れ者だな・・・。)

鼓舞は以前に樋端から、遠藤が樋端から航空戦術を学んだ事や新たな機動艦隊の周囲を護る護衛艦隊の防空戦術を提案して、樋端を驚愕させた事を聞いていた。


そこで鼓舞は答えた。

「貴方の言う通り、理由は二つあります。一つは、私の部下である奥奈と長津田に対する石島達の扱いです。私がいなくなったら、碌な事にしかならない・・・。」

それを聞いた遠藤は、鼓舞の部下二人を見た。

すると、二人はそれぞれ自己紹介をした。

「自分は、奥奈光太郎大尉ですっ!」

少し日焼けして体格がガッチリしている士官が自己紹介した。

「自分は、長津田謙二大尉ですっ!お会い出来て光栄ですっ!」

少し体が細い感じの士官が自己紹介した。


遠藤は軽く苦笑いしながら、鼓舞に聞いた。

「二人は、鼓舞の『昼行灯』に隠れた優秀な所を理解しているから、石島達は気に入らないんだろうな・・・。彼奴らが長津田と奥奈にする事が、容易に想像が出来る・・・。」

遠藤は、石島達のレベルの低さに内心で怒りを通り越して呆れながらも、鼓舞にある提案をした。

「長津田と奥奈については、暫くは俺の幕僚集めや日程調整などの手伝いをしてもらう。一段落したら、俺が信頼出来る人の部下として働いてもらうが、それで良いか?」

遠藤が提案した内容は、魅力的だが、鼓舞は疑問を口にした。

「貴方が提案した内容に異議は有りませんが、思惑通り簡単に行きますか?」


そこで、遠藤は一枚の書類を見せた。それを見せられた鼓舞達は驚いた。

そこには、幕僚召集や艦隊編成関する事は、全て遠藤に一任する事を認めるという、山本、永野、嶋田の署名捺印がされていた。

「これで大丈夫だ。すると、後はもうひとつの懸念事項だな。もう一つの懸案事項は何だ?」


遠藤の問いに対して、鼓舞は逆に遠藤に尋ねた。

「もうひとつは、この戦いをどの様にして、終わらせる気ですか?ひたすら勝ち続けるだけでは、意味はありません・・・。」

それに対して、遠藤は話した。

「鼓舞の言う通りだ。ただ、勝ち続けるだけでは駄目だ。その辺りは、日本とアメリカが納得する『引き際』を考えているよ。」


遠藤の話を聞いた鼓舞は、姿勢を正しながら言った。

「そういう事ならば、若大将の参謀長の役目、謹んでお受け致します。」

『若大将』の言葉を使っていたが、石島と違って、敬意を示していると遠藤は感じた。


そして、遠藤は左手を差し出しながら言った。

「此方こそ、宜しく頼む。言っておくが、俺は人使いが荒いから覚悟していろよ。」

鼓舞も左手を差し出し、答えた。

「勿論、それは覚悟しています。喜んで、お付き合いしますよ。」

不敵な笑みを浮かべながら、鼓舞は遠藤と握手を交わした。

二人の姿を見て、奥奈と長津田は涙を流しながら、感動していた。


この瞬間、第二航空艦隊・鼓舞武雄参謀長が、誕生した・・・。

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