第3話 否定された『真珠湾奇襲計画』 後編
ー帝都東京・目黒 海軍大学校ー
遠藤の提案を受けた山本達は、現在、海軍大学校の中央ホールの東側にある特別室に移動していた。
室内の中央には、太平洋全域の海図が置かれた長机が設置されている。
他にも、図上演習を公平に司る役目を与えられた統制管を務める士官を始め数人がいた。
更には、その場には、海軍大臣の嶋田繁太郎大将と軍令部総長の永野修身大将の二人も来ていた。
他にも、山本の部下だった軍令部次長の伊藤整一少将や第一部長の福留繁少将もいた。
4人が居たのには、山本達も驚いたが遠藤が、
「今回の図上演習を見てもらう事で、嶋田海軍大臣達にも納得して頂く為に来てもらいま
した。」
山本達は、遠藤の抜け目ない行動に、思わず苦笑いをした。
「それでは、始めましょう。」そう言って、遠藤による図上演習が始まった。
まずは、黒島達の初期案に沿って、演習を始めた。
やはり、遠藤の指摘通り、真珠湾の攻撃目標がアメリカの戦艦部隊、飛行場のみになってしまい、燃料タンクや基地施設の攻撃を徹底しない中途半端が出て来た。
また、最大の攻撃目標であるアメリカの空母部隊が急遽、真珠湾を離れて不在になった場合は、取り逃がしてしまう展開になってしまった。
この展開に、自信を持っていた黒島と源田は、言い返す事も出来なくなっていた・・・。
少し休憩してから、遠藤は自分の修正案である二つの航空機動艦隊による作戦を、演習でお披露目した。
結果は、初期案とは異なり、アメリカ太平洋艦隊や飛行場だけでなく、基地施設、燃料タンクなどに大きなダメージを与えた上に、想定外の行動をしていたアメリカの空母部隊にも追撃した後に打撃を与える結果で終わった。
「図上演習は、これにて終了です・・・。」
統制管が図上演習の終了を告げると、海図を囲む様に見ていた者達から悲喜こもごもの言葉が漏れた。
「分かった・・・。これでお開きにしよう・・・。」
疲れた感じで、福留が答えた。
「これで充分かね?遠藤君。」
同じ様に疲れた感じの永野が、遠藤に聞いてきた。
それに対して遠藤は、
「はい、永野総長。此方の姿勢は、既に示せたと思いますので。」
と答えた。
「分かった。これにて今回の図上演習は、終了する。皆、ご苦労だった。」
伊藤の言葉で、図上演習は終了した。
もはや、黒島と源田も、遠藤の改修案に賛成するしか無かった・・・。
そんな中、図上演習を見守っていた山本は、嶋田、永野と顔を見合わせてから確信したかの様に遠藤に言った。
「やはり、俺達だけでなく、『さる御方』の目に狂いは無かったな。そう言う訳だ遠藤、頼むぞっ!!」
山本の言葉に、嶋田と永野を除いた全員が言葉を失った。
言われた遠藤も、戸惑っていた。
「え・・・!?どういう事でしょうか?」
事態が呑み込めない遠藤に、山本は少し呆れながら言った。
「君が修正した提示案にあった第二航空艦隊、遠藤、君が司令長官となってくれ。」
山本のさり気ない言葉に皆が驚いた。
そして、嶋田も、
「今回の第二航空艦隊に設立において、幕僚召集、艦隊編成について全ての権限を君に一任しよう。」
加えて永野も、
「大丈夫だ。私も、その件には大賛成だから、その手腕を存分に振るってくれ。」
(もう一つの機動艦隊を設立する為に、一部の艦艇を前倒しで建造する様に奔走していたが、俺が第二航空艦隊の長官とは・・・。)
山本、永野、嶋田にそう言われても、当の遠藤は内心では、そう考えながら、暫し、呆然となってしまった。
近くにいた山口は、
(驚いたな・・・。だけど、俺も間近で彼の手腕を見てみたいな・・・。)
山口は、内心でそう感じた・・・。
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