第2話 否定された『真珠湾奇襲計画』 中編

【この『真珠湾奇襲計画』は、この国を亡国へと導く作戦です。】


遠藤の言葉を聞いて数秒後に室内に響き渡る数人の怒号、その中には計画に携わった源田や黒島、その作戦を実施する予定の南雲もいた。


だが、全員が激怒していた訳ではなく、ある者達は呆れ、ある者達は面白そうにしていた。

そんな中、会議の進行役である宇垣が、黒島達を宥めた事で怒号は収まった。


黒島達が落ち着いたのを確認した後、遠藤が話し始めた。

「まずは、発言を許して下さい。」

そして、遠藤は山本に尋ねた。

「以前に長官は、当時の首相だった近衛文麿氏から対米戦に関して尋ねられましたね。」

確かに、昨年の1940年に近衛首相から対米戦を聞かれた山本は当時「是非やれと言われれば、半年や1年の間は暴れてご覧にいれるが、2年、3年となれば(勝利出来るか)全く確信は持てない」と答えた。


その事を話した上で遠藤は、

「長官の考えは、短期決戦でアメリカ太平洋艦隊や真珠湾の基地に大打撃を与えて、アメリカの士気を打ち砕いて講和をする考えですよね?」と山本に確認した。

「そうだ。国力の違いから長期戦は不可能だからな。初戦でアメリカの出鼻を挫く計画だ。」

と山本は何を今さらという感じで答えた。


それに対して、遠藤は話した。

「先ほど、長官の言う通り国力が違うから、アメリカとの長期戦は論外です。」

更に遠藤は続けた。

「しかし、短期決戦にしてもどんな形で終わらせるかが重要です。確かに、長官達の計画も悪くはないですが、デメリットが多いです。」

そして、遠藤は山本達にデメリットの内容を説明した。それは、次の内容だった。

①奇襲攻撃とは言え、アメリカにいる日本の外務官僚達が素早くアメリカ政府に宣戦布告が出来るという保証が無い。

②宣戦布告の不手際で真珠湾攻撃後に宣戦布告を通達したら、アメリカ側はこれを『騙し討ち』の口実にして、軍や国民達の士気を高めて、全力で日本を叩く行動に出る。

③真珠湾の攻撃目標が、アメリカの戦艦部隊や飛行場のみになってしまい、燃料タンクや基地施設の攻撃を徹底しない恐れがある。

④最大の攻撃目標であるアメリカの空母を取り逃がしてしまう可能性がある。


因みに、空母が真珠湾から離れる可能性があったのは、遠藤が現地の日系人や他の人種達を諜報員として起用したりして、アメリカや世界各国に独自の情報網を築き上げていたが、最近の報告から日米関係悪化に伴い空母が真珠湾を離れる可能性が出て来ていたからだった。


また、宣戦布告書の件については、担当するアメリカ駐在の外務官僚達が的確かつ迅速な対応をするとは思えなかったからだ。


「他にも細かい点は有りますが、自分が上げた長官達の初期計画でのデメリットは以上になります。」

そう言って遠藤は、一旦、話し終えた。


山本達はデメリットの内容を説明されて、反論の余地は無かった。

黒島、源田に至っては、顔面蒼白になっていた・・・。

更に、遠藤が根拠もなく言っているのではなく、アメリカだけでなく世界各国に情報網を築き上げている事にも驚愕していた。


「確かに、宣戦布告が遅れた場合、アメリカから見れば『騙し討ち』として軍や国民達の士気が高まり、量産体制で新型の戦艦や空母を建造される・・・。我々、日本からしたら最悪の展開だ・・・。」

山本は思わず頭を抱えてしまった。


そんな山本に遠藤は、話を再開して説明を続けた。

「今回の計画では空母6隻を中心とした一艦隊だけだから、その艦隊に湾内の戦艦や空母だけでなく飛行場、基地施設、燃料施設も叩けと言うのは、酷な話です。」

と指摘した。そして、遠藤は今回の計画の修正案を提示した。

「ならば、もう一つの航空機動艦隊を編成します。別々で行動して、一方はアメリカ太平洋艦隊や飛行場を叩き、もう一方は基地施設や燃料タンクを叩く。これならば、悔いが残らない戦いが出来ます。」


遠藤の指摘と説明を一通り聞いた山本以外の宇垣達は、暫し、言葉を失った。

目の前にいる、まだ20代になって間もない青年将校が、ここまでスラスラと指摘や考えを述べている事だけでなく、世界各国にかなりの規模で情報網を築き上げている事にも驚きを隠せなかったからだ・・・。


そんな中で遠藤は、

「良ければ、目黒にある海軍大学校で図上演習を行い、初期案と改修案の違いをお見せする事も出来ますが・・・?」

遠藤の提案に反対する者は、誰一人、いなかった・・・。

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