第一章:配信

第6話 配信開始

「多分、あたしの容姿なら何人かはつられてくれる....はず」


 前の経験からか、今でも自信が少しなさそうにしつつもいつの時代にも釣りサムネにつられる存在はいるのだろうという、どこか確信めいたものは持っているのかもしれない。実際に、配信を行っていた時も暁の容姿に釣られて配信を付けたという人々は確かに存在していたわけであり。

 それを、定着に繋げるということはできておらずフェイク配信であると誰しもにそんな無慈悲な判断を下されていたわけなのだが....だからこそ、一定の効果があるということは、良い意味でも悪い意味でもある程度の信頼感というものを置いているということになるのかもしれない。


 結局のところ、来て来てくれた人々のことをどうやって定着にまでつなげることが出来るのかというところに話が行くのかもしれない。そんなことは、暁自身にわかっているのかもしれないが....だからと言って、同行することが出来るのかどうかで言えば暁にはどうしようもないというのが現実だ。

 ノリと流れと勢いだけで配信を始めた暁は、配信に関しては間違いがなく初心者であるとしかいうことが出来ないほど配信に関係する知識がない。そもそものカメラの設定すらも、自分自身でやったのではなく湊という存在に頼っていた部分が多いのだから.....視聴者を定着させる方法なんてものを知っているはずがないのだ。


「う~ん.....の戦いを見せるだけだと、前回の二の舞になってしまうわけだし.....」


 誰かに何かを言われているというわけではないが、それでもそれぐらいは暁でも理解をすることが出来る事柄なのだろう。だって明らかにそれが原因だったのだから、それぐらいの反省というものは流石の暁でも行うといった感じであり....かとってそれ以外に何か方法があるのかどうかで言ってしまえばない。

 元々からして、他の配信者がしていたようなエンタメの戦いをすることが出来ないからこそいつもの攻略風景を垂れ流す、という最終手段のような圧倒的なまでに人を選ぶ内容に行ってしまったわけであり、であるのならばそう簡単に何か妙案を思いつくことが出来るわけではない。


 確かに自頭はいい方なのだから、少しでも知識があればまた違ったのかもしれないが....湊に頼ればいいだろう、というある意味での負の信頼のようなものをも持ってしまっていたからこそ本当に、暁自身には知識なんてものが存在しているわけではなかった。その結果が、こんなことになってしまっているということもあって、まじめにやればよかったと思っているのかもしれないが後悔後の祭りだ。

 手元にスマホがあり、配信をすることが出来る環境がそろっている以上調べるということもできたのかもしれないが....素でそんなこと頭の中に無い....という時点でなんとなく察することが出来てしまう感じなのだろう。


「ま、いいか。あたしの....の全てを見せて喰らい尽くすだけ....かな?」


 ────悩むぐらいならばシンプルに。単純な情報の暴力と圧倒的な力で分からせればいいと。暴力こそすべてであるとはいかなくとも、暴力で解決することが出来うるものは多々あるのだから....悩むぐらいならば行動をするだけ。

 清々しいまでに.....圧倒的な暴力を見せつければ前と同じになるか或いは....特殊な反応が起きるかの二択なのだからという、実に脳筋の極みとでも言うような思考を持っているのだから、厄介なことこの上ない。


「さぁ....配信開始」


 この考えが、吉と出るのか凶とでるのか。そそんなことは暁自身にも、世界にもわからない未知の領域であり....それらがこの世界にとって、どのような作用というものを持ち込むのかは誰にも理解することが出来ないような恐怖の領域でしかない。

 ────そして、この時の私の考えは何も間違いではない。吉となり、平和となったこの世の中を....混乱とあるべき姿に戻していくことになるのだが、この時の私はそんなこと眼中にはない。ただただ、己が楽しむために.....自分という存在をこの未来の世界に証明するためだけに動いているのだから。


【初配信】クソダンジョン攻略


 :なんだこれ

 :クソダンジョン?


「......」


 :え?え?

 :なんで話さないの?

 :初見です...って無言?!


 やはりというべきか、どれほどの時間が経っても人の性というものは悲しいことに変っていないようであり.....美人、というか絶世の美女というべき暁の容姿に釣られてこの配信を飛来してしまっている人物というものは多々いる。暁の想定では数人くればいい方...だったのかもしれないが、自分自身の容姿というものは思っている以上に整っているようであり数人どころか、数十人数百人レベルで釣られてしまった存在というものはいる。

 特段驚くことではないのだろうし、寧ろありがたいとすらも思うことが出来るのかもしれないが、まさかここまで速攻出来るとは思っていなかったようでありコメント欄を見ずに無言で何かを考えこんでいる暁の姿...というものが映し出されている奇妙な事態に陥ってしまっていた。


 しかし、それが正解だったのかもしれない。口を開けばダンジョンに関する行動をすれば....無茶苦茶で破天荒なことしかできないのが暁という人間なのだからそれを見られてしまえば、ある意味で前と同じようなことが起きてしまったのかもしれないがそんなことにはなっていない。

 黙っていればミステリアスな美女ということで通すことが出来るのだから。これのほうが戦略的には圧倒的に成功、と断言はできる。尤も、そんなことは暁本人は意図していないのだろうし、意図するなんてことが出来るとは到底思えないわけなのだが。


「....ああ、人来てたのか。私は、暁。初配信をさせてもらっている」


 普段の様子からは考えることが出来ないほど、丁寧でいてとても常識的な態度を浮かべている。普段の彼女を知っているものがいたとすれば、偽物であるとそう疑われてしまったとしても仕方がない程に常識的な態度をしているわけなのだが、そんなことを聞いてしまえばそれぐらい自分にもすることはできると憤慨したかもしれない。

 今の暁は、普段の凶暴性というものが身を潜めているのだから絶世のミステリアスな美女である。性格や話し方が終わっているだけで素材としては...元が極上なのだからそのたった一言だけでもこの配信に来た視聴者を魅了するのには十分すぎる程な威力を持っている。


 ややダウナー気味な声は視聴者の精神状態をどこか落ち着かせることが出来ているようであり本人も一切合切意図していないというか、把握をすることが出来ていないような効果がそこには確かにあるのだろう。


 :うっわ、見た目めっちゃよ

 :このダウナーボイス落ち着く

 :それなあと単純に見た目が江戸い


「......」


 無言で眉を顰めてしまうのだが、これも想定の範囲内というか、これを狙っていたとはいえ些か己の欲望に素直すぎないかと思わないわけでは決してない。

 たしかに自分自身の容姿に、自信はあるし自信があるからこそこんなことをしているのかもしれないが、ここまで想定通りに事が進んでしまっているということに何処か驚きの感情を浮かべていないというわけではない。今までの苦労なんてものがなかったかのように、実にあっさりと物事が進んでいるのだからそう思わずにはさすがの暁であったとしても思わずにはいられないというわけだ。


「ほう.....中々、人が集まるな」


 感嘆の声が漏れてしまっている。本人の感覚的には、ついこの間まで....ここまで自分の配信に人が集まるということはなかったのだから、上位層ほどではないにしろ....少なくとも最底辺の最底辺からは浮上することが出来たという事実に対して、どこか嬉しいなんて言う感情を思い浮かべているのだろう。

 中々に俗物な感情を持っている超越者だ。元人間で、そもそも本人の自覚としてはまだまだ自分は人間と思っているからこそ、なのかもしれないのだが。


 :ダンジョン配信には珍しい正統派ダウナーお姉さん...だとッ?!

 :え、この赤髪って地毛?

 :最近外国人も減って、日本に黒髪と茶髪以外少ないから気になる

 :パッと見、染めているようには見えないよな

 :てことは地毛?いやでも、最近は日本人の遺伝子が強くなってるみたいだし

 :わからん。色々と謎すぎる

 :それに、高校生ぐらいなのにダンジョン入ってるのおかしくないか?


「....色々と、私に聞きたいことがあるようだな?」


 周章狼狽、までとはいかないがそこそこ混乱しているというのが見て取れるような.....それでどこか、好奇心を持ってこの配信を見ているのが感じることが出来るようなそんなコメントの数々。最初は確かに、暁の容姿に釣られてしまったのかもしれないが、今ではそれ以上に暁の容姿という部分には変わりがないのかもしれないが色々と謎のありすぎる....そんなことに対しての興味というものをもっているようにしか見ることが出来ない。

 同接数は、1000を越えている。初配信....正確に言えば何度目か分からない配信.....で、一気にここまでの同接数を集めることが出来ているのは、この配信がプチハズをしていると、言ったところなのだろう。


「その質問には追々答えていくが....まずは、ダンジョンだ。私の戦闘を見てくれ」


 :クソダンジョンって書いてあるけど結局どこなの?

 :なーんか見たことある場所なんだよな....どこだっけ

 :思い出せそうで思い出せないんだよ....

 :うーん....つい最近本当に見たんだよな....

 

 そこまで有名なダンジョンではないからか、視聴者たちはこのダンジョンがどこなのかということを背景情報だけで特定することが出来ていない。もう少し、人数がそろっていれば決して不可能ではなかったのかもしれないが.....悪い意味で当たり前のように、このダンジョンの存在というものは消し去られていて、自然と選択肢に入っていないのだからいくら見たことがあったとしてもといった感じなのだろう。

 ....まぁ、そんなこと知らぬといった様子の暁はなぜ、思い出すことが出来ないのかと疑問に思ってしまっているようなのだが。これもまた、暁が自分自身の異常性というものを正確に把握していないからこそ、起こってしまっている。


 ある程度の客観視はできているのだが、全部が全部正しいことを暁自身が合把握をできているわけではない。戦闘、という面に関しては完璧なのだが、それ以外の面では何処か抜けてしまっているわけで得意の天然が発動をして、自分の異常性に気づくことが出来ないという負の連鎖が起きている。

 暁は、今まで自分で攻略したダンジョンのことをすべて覚えている。そう、覚えているのだ。それだけで、暁の異常性というものは十分に伝わってくるのかもしれないが、ダンジョンに潜り始めたころ、最初からこれであったためイマイチ気づくことが出来ていないという。


 閑話休題それはおいといて。そんな理由があることに加えて、ここがクソダンジョンであるという認識はあるものの、現代未来においての正しい認識を持っているわけではないのだから何の気なしに、それこそ軽い雑談のつもりで視聴者がみなかけている疑問に対しての返答を行ってしまった。


「ここは、私の時代遥か昔には『東京ダンジョン』と呼ばれ、今では『東京第一ダンジョン』と呼ばれている場所だ」


 :は?

 :東京第一.....マ?!

 :は、え?!


 初心者だから、初めてのダンジョンで苦戦をしてそれをクソダンジョンとしている....そう思っていた視聴者にとっては慮外千万な返答だったのだろう。各々が思い思いに、短いそれでいて驚いていることが伝わってくる文字を打ち込むと1000人もの人物からの書き込みが途絶える。

 全てをひっくり返すのに相応しい、伝説の、幕開けだ。

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