第4話 攻略
蹂躙、蹂躙、蹂躙.....基本的にボスのことをワンパンで沈めることが出来てしまう暁にとってはその僅かな間というのは実につまらない時間だったのだろう。自分と同じように超越者、その一歩手前に到達している存在や下級の神等々.....まさしく絶望としか言いようがない相手に暁は一切ひるむことなく、寧ろ一切変わらないままに一撃でこの世から屠っていく。
実は、ダンジョンのモンスターは本来ならば魂さえ残っていれば何回でも復活をすることが出来るのだが.....そんなことは関係ないと言わんばかりに暁がこの世から消滅させている為そんなダンジョンの機能が働くということはない。最初に倒した
目の前にいる自分の敵対存在を、ぶっ飛ばすだけ。シンプルでありながらも厄介極まりないそんな思考を暁は持っているのだからモンスターについて深く考えることは天と地がひっくり返ろうとも決してあり得ない。
一種の上位存在である以上、下位の存在を気にかける理由はないのかもしれないが.....少なくとも今はまだその思考は人間相手には適応されていないというのは中々に朗報なのだろう。無自覚で行っている手前いつ、それを人間相手にやってしまうのかはわからなかったりもするのだが.....先の話は不安にさせるだけだ。
「ラストは....とびっきりの相手何だろうな?」
期待をしているというわけではないのかもしれないが、小さくそう呟く。万が一に、自分と同じ領域.....要するに超越者に至っている存在を用意しているのならばそれはそれで楽しむことが出来るのかもしれない。
同じ超越者相手でも、基本的に負けることはないと.....そういった自信はある物のそれでも、同じ超越者であるのならば今までの雑魚に比べれば幾分かマシであるのは間違いがなく純粋な戦闘を楽しむことが出来るのかもしれないと。どこまでも自分本位でありながら戦闘狂のような思考を、繰り広げてはいつつも特段本当に期待しているというわけではない矛盾。
自分が至っているからこそ、わかるのかもしれないが超越者になるなんてことはそう簡単にすることが出来るはずがなく....圧倒的な才能に己の人生をすべて捨てる覚悟の努力を必要とするのだから、そのような狂っている存在などそう簡単にいるわけではない。
暁は、少し特殊でありその全てを才能だけで超越者に至っているからこそそういった例外がいるのかもしれない、と考えないわけでは決してないのだがそれでも、自分自身が特異点であるという自覚はあるのだから。尤も、世界の中には自分と同レベルの存在が何人か隠れているとは本気で思っていたりしつつ.....モンスターにはそう簡単に到達できるわけがないと、そんなことを思っているわけだ。
『矮小なる人の子よ』
「....へぇ。喋れるんだ」
薄く目を細める暁。世界全体では、実は喋るモンスターという存在自体は結構確認されていたりするのだが....いかんせん暁と相対したモンスターというのは瞬殺で終わってしまうためそんなものと出会うことはなかった。
まさしく最強が故の弊害といったところなのかもしれないが、それ自体は出会ったことがなくとも予想をすることが出来ていた。完全に他の人間からの情報をシャットダウンしていたとはいえ....こっちはもっとダンジョンの深淵に触れてしまっているのだからこれぐらいの予想は朝飯前といったところなのだろう。
とはいっても、だから何だというはなしになってくるのも間違いがない事であり。喋れるからと言ってモンスターであるということに変わりはなく、であるのならば暁がそれに対する対応を変えるだなんて到底考えることが出来ない。
暁の頭の中にも、そんな思考が歩かないかで言えば欠片も存在していないわけであり興味本位で少し待っているだけでその実、いつでも戦闘をできるように油断はしていない。特に、あんなことが起きてしまった以上敵の対する警戒だけではなく周囲に対する警戒などもしなければいけない、ということしっかりと学んでいるのだからその状態で警戒をしないわけがないのだろう。
『我の名は不動明王』
「仏教の神様がこんなクソダンジョンでどうかしたのか?」
誰もがひれ伏すような圧倒的な覇気を前にしても暁の態度が変わるということは決してない。そして同時に、今のでこれよりも自分の存在のほうが生物としての格が上であると、そもそもの次元が違うということをなんとなくで察しているのだから警戒を辞めるというわけではないのだがどこか心の余裕のようなものが生まれることになる。
まぁ、どう考えてもそんな心の余裕なんてもの最初から持っていたようにしか見えないのだからだからなんだという話かもしれないが、本人的には少なくとも全力を出す必要はないということを、そして....ある程度の戦いが成立するかもしれないという可能性を見出している。
『矮小なる人の子よ。我が判決を下す.....貴様は.....死刑だ!!!!』
暁からの問いかけにその存在が答えるということは決してない。矮小なる存在であると見下し、一方的に自らの考えをぶつける。それは当然、暁を殺すためのプロセスでしかなく絶対に、確実に暁のことを殺すという意思を持っているようにも感じることが出来るのだが、それは実際に当たっているのだろう。
暁の方も暁の方で、なんとなく気づいてはいるようなのだがあの時と同じようにダンジョンそのものが、今暁のことを殺しに来ているということもあってかこうなっているのは当然といえば当然の話だ。
視認が不可能な、光速を越えている速度を優に出している不動明王の攻撃。どう考えても、躱すことが出来ないようなそれは、早いにも関わらず込められてる魔力が半端なく多いのだから掠めるだけでもその肉体は、暁が散々モンスターに対して行っていたかのようになってしまうことだろう。
それこそ、暁でさえもくらってしまえば多少のけがをしてしまうのではないかなんてことを思わせるほどの威力を持っている。しかし、そんなものは暁に一切関係のない話だ。
「おいおいおい、神様よぉ.....私の話は聞けないってのか?」
『なっ....?!』
拳を、真正面から受け止める。この程度の攻撃で自分のことをどうにか出来るのかと、その表情はそう物語っているようであり何の苦労もすることなく拳を受け止めているということからもその表情が正しいということは十分すぎるほどに伝わってきてしまうのかもしれない。
同じ超越者同士の戦いならば、どうなるのか。それはとても簡単な話であり.....より多く超越している存在が勝つということ。確かに、不動明王は十分すぎるほどの実力を持っていたのかもしれないがそんなものは暁にとって自分の劣化でしかない。
何かオリジナリティーがあれば、多少は変わるのかもしれないが観察をして覗いたところ完全なる自分の劣化でしかなく、不動明王に行うことが出来るものは自分もそれよりもさらに精度が上で行うことが出来る。
「所詮はなりたての超越者.....私の敵じゃない」
吐き捨てるように、挑発をするように。されど、明らかに本音を言っているその様子に怒りの感情を抱いている不動明王なのだが、どこ吹く風といった感じに暁は一切気にしていない。
気する必要がないのだから。下位の存在が思っていることを上位存在が一々気にするなんてことは当然なく、それは暁も例外ではない。不動明王という存在は自分にとって格下なのだから、一々顔色を伺うはずなんてありえない。
「さて、これで終わりだ」
『ぬぅっ?!』
瞬間、暁の姿が消える。不動明王ですらも、追いつくことのできないその速度はそれで毛でも十分すぎるほど、不動明王との格の違いというものを表現しているようにも、そう感じることが出来てしまうのかもしれない。
何せ、不動明王が先程はなった拳は全力である。それは当然、暁は認識をすることが出来いていたわけであり.....それとは対照的に暁は全力を出していないのにもかかわらず、不動明王が認識をするということはできていないわけだ。
何かが来る、という第六感自体は働いているようなのだが所詮はそれだけでしかない。そんなものは超越者として当たり前にできることであり、それ以上のことが出来なければ意味がないのだから。
「つまらん」
『なっ....神威が....?!』
魔力とはまた別の......神だけが扱うことのできる神威という絶対的な防御手段がある。神の名を持つ不動明王も当然それを使うことが出来たし、第六感に体を任せて発動をしていたようなのだがそんなこと知ったことないと、そういわんばかりに暁は不動明王の身体を貫手で貫く。
さすがは超越者、といったところだろうか。体を貫かれても数秒の間は意識を保つことが出来ている。それが幸運だったかは本人にしかわからない事であり....、しかり不幸であったとそう思うことが出来てしまうのかもしれない。
「さて....辞世の句でも聞いてやろうか?」
『(なっ....何なんでこの人間は?!)』
けらけらと薄ら笑いを浮かべている暁に対して、不動明王は初めて畏怖の念を覚える。錯覚、そんなものはないはずなのに.....暁の後ろには自分すらも、ダンジョンというものを創り出した自分よりも上の存在である神、それすらも越えているようなそんな化け物の姿が見えてしまう。
それがなにかはわからない。そして、何であるかということをわかりたくもないのかもしれない。他のモンスターとは違い、思考能力を持ってしまっているがゆえに起きてしまっている事故なのかもしれないが.....本気でそれだけは危険であると全力で頭が警告を鳴らしている。
「はぁ....まあいい。そんじゃ、死ね」
そこで初めて、暁は魔力を使う。右手からはどす黒い、一目見るだけでも危険であると理解してしまうような炎が出ているわけなのだが.....どうすることもできない。ただただ、地獄のほうがましであると思う中で、苦しむことしかできないのだろう。
最後に見えたものは興味を失ったように不動明王が元々いた場所から視線を逸らす暁の姿だけだった。
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