第2話 封印

「クソダンジョンよぉ....もっと手ごたえのある雑魚を私によこせ!!」


 血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血、血.......緑色の不快な臭いを発する魔物の血は暁を汚していくのだが気にすることはない

 。恍惚としたその表情は、見る者を魅了させることが出来るのかもしれないが......残念なことに状況が状況であるがゆえに、そんなことはあり得ない。

 血に飢えている獣でしかないのだから、そんな存在に惚れるなんてことが出来てしまうのは哀れな、盲目的な存在しかない。それでも、そんな存在がいないとは断言することが出来ないほどには....恍惚とした表情は破壊力抜群であるということに間違いはないのだろう。


 鮮血の乙女、なんて呼ばれることがフィクションの作品の中ではあるのかもしれないが、そんなことは所詮フィクションでしかなくこの惨状を誰かに見られるなんてことがあるとするのならば.....暁につけられるであろう言葉は『鮮血鬼』或いは『化け物』。真っ赤な髪を携えているということもそれらに拍車をかけてしまっているのかもしれないが.....少なくとも万人に良い印象を与えることなんてものは夢のまた夢でしかない。

 諦めているとはいえ、諦めているからこそなのかもしれないが配信のオンオフに関しては完全に惰性で行っており、今も配信は続いてしまっている。本人的には、配信はすでに終わっているものであるとそう思っているのかもしれないがそんなことは一切なく......この惨状を全世界に向けて発信をしていることになっているわけなのだが、いつも通りのフェイク判定に加えてグロさというものが限界突破しているこれを見続けることが出来る、異常な精神の持ち主なんてものはいなかった。


「残り....100階層」


 気づけば、2時間もしないうちに100階層を踏破している。現在は1階層ごとに150km四方の空間が存在しているはずなのだが....そんなこと一切気にしないといわんばかりに、階層も広さがけた違いになっていっても一切その速度が遅くなるということはない。

 それどころか、心なしか攻略速度がどんどんと早くなっているようにも見えることが出来てしまうのかもしれない。異常な速度で、どういった理由が存在しているのかはわからないがレベルアップを繰り返して....その異常なステータスというものを伸ばし続けているわけだ。


 少なくとも、普通の人間であればその成長速度にはついてくることが出来ず過剰な成長により身を滅ぼしてしまうのだが、暁にはそんな様子はない。人間を辞めてしまっているのだから当たり前といえば当たり前の話でしかなく......もはや人間の基準で話をしてしまってはダメな領域に至っているのだから。


「地獄を見せてやろうじゃないの」


 そう小さく呟けば、今までも十分すぎるほどに人外の力を宿していた暁なのだがその速度はより一層素早いものになる。10億コマ/秒の撮影をすることが出来るカメラを使ったとしても、今の暁の速度は捉えることが出来ないのかもしれないし、そもそもとして物理法則の最大速度である光速を優に超えてしまっているのだから。

 今の今までも十分、いや十二分すぎるほどの速度で殲滅していたわけであり、そして今はそれ以上の速度を持っている。制御できなければ意味のないはんっしなのかもしれないが、それ自体は暁が気にするようなことではなくさも当然のように人間の演算処理能力を超えて演算を行っているわけだ。


「お?ようやく....中ボスのお出ましか」


 ふと、足を止める。残り10階層といったところまで来たのだがいきなり190程はある暁の10倍以上の大きさを持っている謎の門に当たることとなる。中ボス、と暁は呟いているものの雰囲気自体はラスボスのようなものを醸し出しているわけであり、本当に中ボスなのだろうかと疑ってしまうのかもしれない。

 それでも、中ボスでしかない。残り10階層あるということがそれを裏付けているわけではあるし、何よりも本能的にこれからボスラッシュが始まるということを理解してしまっているわけではある。


 めんどくさいと、その表情は物語っているのかもしれないがそれと同時にどこかその表情には喜び.....己が今の今まで戦っていた雑魚モンスター共よりも少なくともな存在と戦うことが出来るのかもしれない。そんなことを考えてしまえばテンションが上がらない理由なんてものは存在していないのだ。

 生粋の戦闘狂、というわけではないもののダンジョンに潜り始めてから戦闘を戦うようになってきてしまっているのは否定をすることが出来ない。


「さてそんじゃ.....殺し合い一方的な殺戮の始まりだ」


 目の前に存在している、開けるだけでも一苦労しそうな巨大な扉を蹴り上げるといともたやすく扉は木っ端みじんにされる。どれぐらいの力を籠めたらこんなことになるのか、気にならないというわけではないのかもしれないがそれをツッコむ者などこの場には存在していない。

 扉の中の空間にいたのは白銀の龍。正式な名前は古代龍エンシャント・ドラゴンドラグノヴァという、名持ちネームドのドラゴンでありとてもではないが人間とは生物としての格が違う。ただし、それが暁に通用するかしないかの話であれば、一切通用しない。


 やはり、とでもいうべきなのかこのドラゴンをもってしても暁は生物としての格が違うのだから、畏怖する理由も恐怖するわけも何も存在していない。同格であったのならば、まだドラゴンのほうに勝機があったのかもしれないが.......そんなことはあり得ない。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」


「うるっ.....せぇよ!!!」


 走り出す暁に向けて、ドラゴンは咆哮を自身の魔力のほとんどを上乗せした確実に殺すという意思を込めている咆哮を放つ....のだが今更その程度の攻撃を馬鹿正直にくらう暁ではない。あまりにも一方的に、あまりにも無慈悲にそれは躱されることとな.....ったのならばどれほどよかったのだろうか。

 暁が取った選択肢は躱すのでも、直撃をするのでもなく.....己の拳で完全に相殺するという方法。普通ならば、取ることはできないのかもしれないが暁は普通ではないのだから。


 魔力の籠っている攻撃には、魔力をぶつければ相殺どころか貫通すらもすることが出来てしまう。あまりにも、頭の悪い脳筋理論ではありつつも実際のところ、それが成り立ってしまう程度にはやはりドラゴンと暁の間には実力差とでもいうべき、生物としての格の差が存在してしまっている。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ?!?!?!」


 1分も経たないうちに、無様な断末魔を上げながらドラゴンは原形すらも残さない状態にへと変貌をする。道中と何ら変わりがないようにも見ることが出来るのだが、実際のところは暁が....道中とは比べ物にならない力を込めてぶん殴ったということもあり原形を残すことが出来ているというだけでも十分すぎるほどに評価することが出来てしまう。

 あまりにも名評価の仕方であるということは間違いがないのだが、残念なことに暁はそういったところでしか評価をすることが出来なくなってしまっているわけだ。他の存在が、自分より格下であるという傲慢さと、それに見合うだけの実力に努力様々な要因が重なっているわけであり......


「チッ....!ふざけんなよ...!!」


 油断をしていたわけではない。傲慢では確かにあるのかもしれないが、それは強さの基準に対するものだけであり戦闘中、戦闘後という何が起こるのかわからないような環境で油断をするほど性格が終わっているわけではないのだから、その変化にも気づくことが出来たのかもしれないが、それはたらればの話でしかない。

 現在、暁の足元にはとある魔方陣が出現してしまっている。それ自体は、スキルの1つである鑑定能力によりどんな効果を持っているのかということはわかっているのだが、厄介なのはそれを破壊することが出来ないということ。


 並大抵のトラップならば簡単に破壊をすることが出来るわけなのだが、この魔法陣だけは勝手が違う。完全に、自分1人だけを狙い撃ちするつもりで完全に暁特攻メタとして作られたものなのだから、破壊をするのにはあまりにも時間が足りない。

 破壊そのものを無理である、と思わない当たり流石暁といった感じなのかもしれないが同時にどうすることが出来ないということも本能的に悟ってしまっている。


だけを狙い撃ちの封印魔法とか....完全にやってくれるじゃない....!!」


 今の今まで完全に、戦闘狂といった表情しか浮かべていなかった暁はこの場で初めてどこか少量の焦りと....多数の怒りをその表情に滲ませることになる。誰がこんなことをしているのか、なんてものは魔法人を見た瞬間に見当がついてしまっているわけであり、当然なのだがこんなことをされる程度にはその存在のことを両方ともが快く思っていない。

 というか、直接的な戦闘はしていないもののダンジョンという器を使い小競り合いのようなものはさも当然のようにしているのだからこれで仲良しである、だなんて言うほうが無茶なのだろう。


「まぁいい....にだってプライドはあるんだからなぁ...抵抗、させてもらうぜ!」


 今からどんなことをしようと、これを防ぐということは確かに不可能なのかもしれないがそれ以外のことを、できないというわけでは決してない。というか、抵抗をするつもりしかなく....既にその準備は着々と進んでいる。

 いつになるのか、わからない一矢報いるための準備を。成功するかどうかは....運しだい、といったところなのかもしれないが不思議なことに暁にはこれが成功するという確証が存在している。


 そして、仕込みを終えるのと同時に....暁の意識はその体と共に深い深い闇の中にへと苛まれる。動くことは当然のこと、何かを見るということも思考をするということすらも許されることのないそれは......地獄でありながらも、決して思い出すことのできないというどこか矛盾を抱えているようなそんなことになっている。

 この日、世界から最強の超越者の存在が消えた。ある者はそのことについて嘆き、ある者は目障りな存在が消えたと嗤い、安堵をする。そしてそれから.....1000年以上もの時が流れることになる。

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