17 決めごと
昨年、連日に渡り続く高熱からアデリナが回復をした、その当日深夜に行われた、話し合いの最終的な幾つかの結論はーー
まず始めに決まった事は【アデリナの筆記具は夫妻もしくは側近三人の注意が行き渡る範囲でのみ使用させる】である。
二つ目の問題点、アデリナの次期専属侍女内定者として現在アデリナの側で様々な細かい仕事を学ぶメルへの対処だが、正式雇用の内定が知らされてからの二ヶ月、学院の授業時間と自宅に帰り眠りに就く時間以外は全てをアデリナと共に過ごしている…といっても過言ではないくらいメルは意欲的にアデリナに仕え、学び勤めている。
そんな中やっと全快したと皆に伝えられ、直接顔も合わせたアデリナの側から一週間以上距離を離すというのも違和感しかなく、侍女教育が滞るのもアデリナとメル二人にとって望ましくもない。
しかし、学院という外にいる時間の多い正式な雇用契約の済んでいない未成年者と貴族の一人娘の秘密を共有するなどは、念頭にない。
秘密の共有は相手に負荷を掛ける行為であるため、皆で出した結果は、大陸全体共通の成人と見なされる十五歳を迎えると共に学院卒業となる約三ヶ月後に伝える事で話しは纏まった。
そう長くもない期間とあって、どうにかなるだろうとの希望的観測と『隠しきってバレたらバレた時だ、メルが相手なら大丈夫』という信頼感もある。
他にも、まだまだ予見出来ない何かが起こるかもしれない筆記具の使用は、基本的に朝食後に行われるロベルトとの学習時間のみに留めるよう決めた。
夫妻が管理している筆記帳を朝食時後ロベルト又はベルタへと直接手渡し、学習時間の後に新しく、絵や好きな事の書ける自由時間を一時間程度、設ける方向で進めた。
そのため学習の時間は今までの倍二時間になり、結果として散歩の時間はやや少なくなる可能性もあるが、これもアデリナの成長やメルの卒業後の状況を鑑みて、柔軟に変更していく事になるだろう。
午前中は学院に通うメルが不在な事が多く都合も良いのだ。現在メルはメイド志望や侍女志望者が多く在籍する専科の最終学年に通っている。
本来の最終学年は【午前の座学】【午後の実習】を受けるが、子爵家での邸勤めの時間は【実務実習】と見なされるので、主に午前の座学だけを受けてから実務実習の現場である子爵邸に向かい勤務を始める。
よって、昨年までの一日を通し座学ばかりであった時より、多くの時間をアデリナの側にいれるのだ。とはいえ、まだ卒業前の未成年の十四歳の少女である事に変わりはないので、勤務時間はアデリナが夕食を終えるまでとし、夕刻に子爵家から領都に向け出ている使用人専用の乗り合い馬車へ、同じく夕方まで働いた通いの使用人達と共に乗り込み帰宅する。
因みに卒業後は子爵家敷地内の寮に移り住むのか、使用人寮より本邸近くに建つ祖母で料理長の住まいである建物に住むのかはメル本人も分かっていない…というか、イレギュラー過ぎる問題が連日に渡り次々と発生しており、正直そんな先の事は忙しすぎて当主側でもこの時点ではまだ何も決まってもいなかった。
そして精霊祭の終わりから、思いも寄らない形での予定変更続きで息つく暇もなく、あまつさえ妖精などという信じられない事を言い出す主の言葉に、何も言わず従ってくれる側近達には感謝しかない夫妻であった。
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