8 4歳精霊祭初日午前散歩(アデリナ視点②)
《やっぱり見えてるって!》
アデリナの目にはタンポポの綿毛みたいな何かが、丸く薄ぼんやり光を帯びて動いているようにしか認識出来ない。それでも目が離せず見つめていると、そのうちの一つの光は甲高い少女のような声を上げ、アデリナを興味深く観察でもするかのような動きを見せて、ふよふよと周りを旋回しながら話し始めていた。
「すごい…虫、光っておしゃべりしてる……」
すぐにピタリと止んだかと思えば、吹く方向も何もかもメチャクチャに巻き起こる不自然な突風に、ドタバタしながらも収拾を図ろうと懸命に忙しく動いてるメルと護衛とは全く異なる場所にでも居るかのように、棒立ちで佇むアデリナの口の中で、消え入るように声にさえ成っていない小さく囁かれた言葉を、どうやら正しく受け取ったらしい幾つかの光る何かは空中で集まり合図をしあう。
一ヵ所にかたまった光達は直ぐまた散り散りに離れ浮遊しだし、中でも光度の強い一つが確認するようスーっとアデリナに近付き周囲をクルクルと廻ると目の高さで留まった。
《ふーん……まだ、はっきりとは見えていないみたいだね。でも、僕達の話し声が理解できる程に聞こえてるみたいだし……これで、どう?》
耳に心地良く響く男の子らしき声と共に、今まで受けた中で一番の心地好さと共に荒々しさを感じる冷たい風がパンッ!!とアデリナの顔や肩、胸元にぶつかった。
かなりの強風と何かが弾けたような衝撃に思わず目を閉じ、後退りそうになる体と足に力を入れてグッと数秒耐えたのち、僅かに下がった顔を上げゆっくり目を開くと、一瞬前まではぼんやりとした球体の影のようだった【キラキラの何か】は小さな小さな人間へと姿を変えて存在し、見えるか見えないかといった透明の羽を使い飛び交っていた。
《どう?何か変化はある?》
先程最後に聞いた声の主らしい銀色の髪の少年が、アデリナの目線の高さで音もなく羽ばたきながらした問い掛けに、これ以上ないほど開かれた目を輝かせながらコクン!!と全力の肯定を示し満面の笑顔を見せた。
「む……」
《む?》
「虫…じゃ…なかった…」
《ふ…ふふっ見えるんだね》
アデリナの言葉に少年は一瞬呆気にとられたように目を開いた後、小さく笑い出しながら大木の近くにいる仲間の近くに移動した。
透き通るような白い肌と、動きに合わせ優雅に揺れる銀色の髪は息を飲む程に優雅で目鼻立ちは完璧な絵画のようなのに、それが実際に動いて綺麗に笑う様に惚けて棒立ちで固まったアデリナだったが、それを現実に戻し呼び醒ます声が掛かるーー。
「…リナお嬢様!どうされましたか?お加減でも優れませんか?」
いつの間にかアデリナと小さな生き物達との間まで来ていたメルがしゃがみ込み、心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「あ……」
夢うつつから突如、自分が庭にいるという現実に引き戻され少し戸惑ったが、変わらず視界の端に入る【浮遊するもの達】の存在に言葉に出来ない高揚感と、メルの向こうで少年が人差し指を口元に当て秘密を促した事も相まってアデリナは産まれてから初めての『内緒』をした。
「う、ううん、だいじょうぶ!げんき!」
(メル達は見えないの…?お顔の近くにこんなにいっぱい飛んでるのに)
《そうだね、ちゃんと見えなくても僕たちに気付いた人間は君の前が100年……いや、もうちょっと前かな》
(ふ…ぇっ⁉)
言葉の内容ではなく心の中で思った疑問に返答された事に驚き、反射的に胸に両手を当て、思ったことが漏れないようにでもするかのようにじっとすると、忙しく動いていたメルもアデリナへと話しかけてきた。
「アデリナ様、お飲み物どちらになさいますか?」
《君、アデリナっていうの?僕たちと遊ぶ?》
まるで絵本の中の出来事のような誘いに、迷うことなく心の中で大きく返事をするのと同時にメルにも元気に返す。
「メル今日は飲み物とおやついらないっ、遊ぶの!!」
そこからは、今までにアデリナが見せたことのない強引さと力技でメルと護衛騎士を自身や大木付近から遠のかせ、次にメルが声を掛けるまでの時間を全力で楽しく過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇
「メルが呼んでるの。お庭にいる時間は終わりみたい…」
《え〜〜?つまんない!》
アデリナの言葉に肩近くを飛んでいた、前下がりのボブで鮮やかな黄色の髪の少女が、口を尖らせクルンとひと周りして目の前で止まる。
《明日も遊ぼうね》
一時間前に最初に姿を認識した銀髪の少年も、同じようにアデリナの目の前に来て、まるで決定事項のように言う。
「ーーーっあ、明日はお散歩ない日で……でも!でもお父さまとお母さまにお願いしてみる!だから……」
約束を取り付けたい逸る気持ちと、来れるかどうかまだ確実ではない事に迷いの見えるアデリナの返答だったが、銀髪の少年は気にとめた様子もなく更に決定事項のように告げた。
《うん、明日もまたここで会おうアデリナ》
言いながら少年が身を翻すと、あとへと続くように他の子も次々に《また〜》《明日ね!》等々声を掛け、キラキラと光り姿を消していったーー。
目の前に広がるいつも通りの景色に先程までの楽しい夢から、一気に覚めたような寂しさはあったものの、約束を交わしたことで明日への期待値が上がり、精霊際初日の午前は心踊る気持ちのままで庭を後にした。
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