第7章 運び屋ロブと王都への旅

ナヤボフトに1週間ほど滞在し、仕入れを終えて帰宅すると、珍しいことにリナからの連絡が玄関の魔法袋に入っていた。


普段であれば、週に数度あるアジトダンジョンの探索時に用件を済ませるので、向こうからというのはあまり無いのだけど。


用件を確認したところ、ウェスヘイム子爵から相談事があるとのことで、戻り次第で連絡が欲しいとのこと。


明日以降であれば空いている旨をメモに書いて、格納門でリナの机に入れておく。香水瓶の合図も忘れずに。


──リビングの方では、持ち帰ってきた米と魚とで宴会が始まっていた。


スケさんにヴァル氏、ラビット氏にレーヴァン。日によってはこれにリナとクララも加わるので、若干の手狭さを感じてしまう。


拠点を借りた当初は、ウォルウォレンが時々来ること程度を想定していたけど、今のように4人+1体が日常的にいる状況は想定していなかったというか。


ただ、今の広いキッチン環境に慣れてしまったので、もし引っ越すにしても持ち出すか同じ環境を揃えるかが必要で悩ましいところではある。


時間がある時にでも、また商業ギルドでフランさんに相談でもしてみることにしよう。


──ラビット氏がキッチンからリビングに加わったところで、スケさんに魔王との決戦について聞いてみたいと話を切り出した。


どうやら一般には『魔王を倒しました』といったざっくりな話のみで、本などの形で残ってはいないようだ。


スケさんは、その点について今まであまり真実をおおやけにしてこなかった雰囲気を出しつつ、『実は魔王は死んでないらしい』という、宴会で出していい規模の情報じゃないものを放り込んできた。


どうやら何度か戦った末に勝ったそうだけど、その間に対話する機会も何度かあったらしく、嘘を吐くような奴には思えなかったという。


その魔王が曰く、『魔王が死ぬことは無い』と言っていたらしい。


剣の腕ではスケさんが優れていたものの、魔法の方は魔王の方が上だったとのことで、実力がある相手がハッタリをかましているようには見えなかったそうな。


スケさんは、次の勇者召喚を起こさせないために魔王を討伐しようとしていたので、完全に利害が対立してしまっていて、妥協点が探れたならどんなに良かったかと残念そうにしていた。


魔王の持つ能力についてスケさんに訊ねたものの、正確なところは分からず終いだったという。


ただ、無限の分身を作り出したり、夢幻のように被弾を無効化してしまうことから、『ムゲンの魔王』と呼んでいたそうな。


それと、多種多様な技を使うものの発動条件があるようで、分身体が使える技は1種類という制限があったり、本体も別の技を使う前に溜めのような隙があったりしたそうな。


スケさんの取った攻略法は、技の切り替えに必要な溜めに目をつけて、技を放ったら以降は切り替える隙を作らせないように立ち回ることと、放った技に合わせた攻撃に切り替えることだったそうな。


倒せた時は単に魔王側の運が悪かったのだと推測していて、使える技が万全ではなかったのだろうとのこと。


魔王による復活発言を聞いたスケさんは、王家に対して真実なのかを問い質したんだそうな。


すると、実際に過去の勇者たちが魔王を討伐した後も、100〜500年ほど経つと復活した記録があったらしい。


もっとも、それは王家の言い分が全て正確であることが前提で、当時残っていた勇者に関する話は、王家の先祖だと広めていた美化されているような話の中でのみだったとか。


同じく当時を知る様子のヴァル氏によると、その当時知られていた勇者は、魔王との戦いを『話し合いで解決した』とされていたらしい。


ただ、スケさんが魔王を倒した後、ヴァル氏が勇者の武勇伝として読み物として広めた結果、勇者といえばスケさんという風に世間の認知は上書きされたんだとか。


一方、現代の認識を知るラビット氏によると、勇者と言えば『初代勇者』とされており、それ以前に勇者がいたとか魔王との戦いが繰り返されてきたという話は、聞いたことが無かったらしい。


そういえば、リナも『初代勇者』と言っていたような気がする。


何か伝わり方に歪みがあるように感じたが、スケさんが『500年も経てばそういうこともある』と結論付けてその場は流されたんだけど。


実際のところ、既に魔王を倒して500年経過しているとのことで、過去の魔王の記録の範囲を外れたのであれば、予想された未来は回避されてる可能性はありそうだ。


魔王の発言もスケさんを懐柔するためといった何かしらの意図を持った発言だったのかもしれないし、国の方で500年の間に何かしらの魔王対策が行われていたのかもしれない。


いずれにせよ、勇者様ことスケさんは復活しているわけだし、万が一の事態は対応できるだろうから、なるようになると思っておこう。


──皿の上が片付いたところで、ナヤボフト帰りの宴会はお開きになった。


ヴァル氏もレーヴァンを伴って、2階に常設した簡易ダンジョンから研究所へと『空間転移】で帰っていく。


そういえば、宴の途中でヴァル氏に【空間転移】を魔道具に組み込んだ方法について聞いてみた。


ヴァル氏は【魔力解析】という、魔力に限定した【鑑定】の上位版のようなスキルを持っているらしく、実際の魔法はもちろん、魔法陣や魔道具といったものも解析出来るらしい。


それにより、既存の魔道具から対応する魔法陣を切り出し、ダンジョンの転移部屋を参考に最適化をしていったそうな。


そういった再現は、ヴァル氏曰く『そこまで難しくはない』と言っていたが……王立研究所の最高顧問の基準で言うそれをどこまで信用していいかは定かではない。


実際、商業ギルドで手に入れれた魔法陣の本や魔道具の本では、どんな仕組みで成り立っているかとか、新たな魔法陣の作り方といった記述は見当たらなかった。


その辺り、ヴァル氏の方法が何か参考になればと思ったのだけど、根本から違っていて何も参考にならなかった。


──ヴァル氏を見送った後、寝室で寝る前のルーティンへと入る。


まずは薬草の回収。最近は状態異常系のポーションも本で覚えたので、備蓄し始めた。


既に個人では使いきれなさそうな量になりつつあるが、この世界で何があるか分からないのは知っての通りで。


続いて女神像の量産に入る。既に800体を超えていて、もうすぐ国内の聖白銀教会に行き渡らせる量が確保できる予定だ。


今日も10体ぐらいは作るつもりで女神像に触れると、久々にステータス画面で更新通知が表示された。


少し長めのロードを経て更新が完了し、今回も神託メールで更新内容が通知されていたので確認すると、なんとレベルとスキルの進行度プログレス表示機能が実装されていた。


今まで不透明だったスキル上げに指標が出来る上に、モチベにも直結する今回の更新は、まさに神アプデと言って差し支えないだろう。


スケさんも、長らく食事を続けているが【受肉】スキルが上がっておらず先が見通せなかったので、この更新でLv.2が見えてきてスキル縛りから解放されるんじゃないだろうか。


まあ、当人は既に500年近くダンジョンにいたので、ほんの数年の縛り程度は気にしてない様子だったが。


また、もう1件更新内容があり、そちらは詳細情報の表示方法が変更になったとのことで、一部について長押しでの詳細表示からタップで詳細が開くよう変更されたとのこと。


実際にステータス画面を開いて確認すると、レベルとスキルの末尾に現在の進行度として『%』での表記が追加されており、また【空間収納】や【生活魔法】の先頭に『▶︎』の表示が追加されていた。


スケさんのアプデで貰った3つのスキルは、【生活魔法】Lv.5 58%が頭ひとつ抜けて使用頻度が高く、次いで【鑑定】Lv.3 76%、【気配察知】Lv.2 85%、の順となっている。


やはり【清潔クリーン】はダンジョン通いの際によく使う上に、返り血や汚れによって消費MPが高いこともあるので、断トツの伸びとなっているのだろう。


……なお、『成長』はLv.34まで上がっていて、これはルーデミリュでダンジョン巡りをしていた際に、スケさんとパーティを組んだ結果だ。


暴走スタンピードの解消というお仕事ゆえに効率重視となった結果、目の前で魔物が大量にいるのに雑用に徹する他ないことをぼやいたら、スケさんからパーティを組んだらどうかと提案された。


女神像でパーティは組めるとの話で早速試し、パワーレベリングしてもらった結果がこれというわけだ。


ステータス画面に話を戻そう。


【空間収納】の『▶︎』を押すと、表示が『▼』に変わるのと同時に【容量拡大】や【時間経過】といった成長スキルの各項目が表示され、それらにも先頭に『▷』が追加されている。


『▷』の先には、各成長スキルの『使用可能』と『性能補正』という項目が新たに表示されるようになっていた。


これが恐らく、クララが発見していた『詳細の表示』に当たるものだろう。


各スキルの詳細を確認していくと、明確に把握していなかった性能があることに気がつく。


例えば【容量拡大】で限界を超えてもMPを消費して収納できる『過収納』という性能があるらしい。


これはMPの自然回復量を超えない限りは見た目上の消費MPなしで収納できるため、MPが十分にあれば実質的に容量無限ということになる。


また、各成長スキルに紐づいた『性能補正』はMP消費軽減が主なもので、一部はレベルに従って性能を強化するものもあるようだ。


ただ、【格納門移動】に付いている『MP消費軽減』は成長スキルの性質に関係なく、【空間収納】全体のMP消費を10%ながら軽減してくれるらしい。


これは、【格納門移動】だけが成長スキルの中で唯一MAXになっているからだと思われるので、今後の成長ポイント振りでそちらを狙うのもアリかもしれない。


──翌日、ウェスヘイム邸の応接室に通されると、挨拶もそこそこに子爵から『指名依頼』をしたいと切り出された。


依頼の内容はリナの護衛で、入学試験のために王都の学園へ向かうそうだ。


しかし、領を越える護衛はブロンズCランクからだと聞いているし、指名依頼だって最低でもブロンズCランクから、一般にはシルバーBランクに出されるものだろう。


事情を聞いてみると、本来は女性冒険者のパーティに依頼する予定だったが、都合がつかなくなったらしい。


それだけであれば別の冒険者に……となるところだが、もうひとつ別の条件が加わったことで該当するロブに話が来た、ということのようだ。


その条件というのが、入学試験中も同行できるような、受験資格のある年齢の者ということだった。


子爵からは、不確定な情報で滅多なことは言えないらしく、それ以上はあまり詳しい話が聞けなかったが、『有事の際に動ける冒険者が必要』なんだそうな。


──結局、指名依頼はブロンズCランクに上がるための審査の評価になることや、逃げること自体は手段を選ばなければ【空間収納】が得意とするところ、といった辺りで依頼を引き受けることにした。


加えて、ラビット氏がスケさんとダンジョンに潜ることを見込んで冒険者に復帰しており、シルバーBランクでの再登録を行なっていたので、身内でパーティを固められた、というのも引き受けた理由の1つだ。


恐らく子爵側としては、勇者様ことスケさんが同行してくれることも見込んでの話だったのだろうとは思うけど。


実際のところ、ブロンズCランクになると犯罪などで除名されない限りは失効しなくなるので、旅に出たり長期にダンジョンに潜ることを考えると、持っていて損はない。


一応、スケさんやラビット氏からは、ゴブ師匠やブタさんを相手に出来る実力があるなら、その辺のブロンズCランクにも負けないと言われているので、心配する必要はないそうだけど。


──そんなこんなで、今回は格納門転移ゲートワープで王都に飛んでいくわけにもいかず馬車の旅になるので、旅支度をすることになった。


依頼を受けた翌日、レーヴァンの料理講習にかこつけて来たヴァル氏にも、来月の頭から1カ月ほど留守にすることを告げると、ナヤボフトの時と同様に同行を申し出てきた。


そして、旅の計画を話していた際に、以前スケさんが言っていた【結界】の魔道具の話が出て、普段は残念エルフだが魔道具のプロでもあるヴァル氏がいるなら取り付けようという話になった。


そして、子爵家で乗る予定となる箱馬車を下見することになったのだけど、取り付けのためにヴァル氏が預かることになって、そのまま任せることになった。


──数日後、納車された馬車は外観こそ一切変わった様子はない。


しかし扉を開けると、【空間拡張】された広々とした車内を天井にある魔道具が室内を明るく照らし、外観からは魔道具で見た目が隠蔽されたガラス窓により室内から覗けるよう加工されているという、完璧な魔改造が施されていた。


リナからは『こんなアーティファクト並の代物、絶対に王宮に知られるわけにはいかない』と高い評価をいただいたようだ。


その後、レーヴァンのメイド部隊により間仕切りや内装が施され、キッチンやリビング、寝室、バス、トイレが整えられて、立派なキャンピングカーが出来上がった。


──そんな準備をしている間に依頼を受けてから2週間が経ち、出発の時を迎えることになった。


広々とした車内のリビングで、ラビット氏の出してくれた紅茶と煎餅を齧りながら、馬車は一路王都へと向かうことになった。


なお、御者台に座るのは、ヴァル氏がナヤボフトでも出してくれた、スヴァヌルというメイドさんだ。


ヨンキーファから王都までは、10日ほどの距離になる。その間は一部でウェスヘイム家と関わりがある領主の街にはいくつか滞在するものの、基本的には野宿の予定だ。


……もっとも、レーヴァンやスヴァヌルが終日起きて監視している上に【結界】がある完璧な警備状況を、単に野宿と言っていいのかは分からないが。


──時間が有り余っている道中、ロブも試験を受けるということで、学科試験向けの問題集を解いてみることになった。


試験内容は、必須科目が国語と算数と歴史、選択科目が科学と古文と法律だそうだ。選択科目は2年次以降に薬学や官職などの専門職を選択する場合に有利になるとのこと。


試験結果は、ほぼ満点の算数が一番の出来で、次いで普通に読めた国語、歴史は全然知識が無いため点数が1桁だった。


ラビット氏によると、シルバーBランクに昇格するには基礎知識の試験が必要になるとのことで、ラビット氏も同様に勉強することになったものの、ロブ同様に王国史の知識が全く無くて、ギルマスに呆れられたそうな。


シルバーBランクの試験の経験から、ギルドの資料室に貸し出しのある読本が入門にいいと、勉強のアドバイスをもらう。


貸し出された本は、別のギルドで返却してもいいそうなので、旅の間に読むにはありがたい仕組みだ。


ちなみに、資料室は全ての冒険者ギルドにあるわけではなく、大きめの街に置かれているとのこと。


ただ、大半の集落には冒険者ギルドと水晶が置かれていて、情報伝達の通信網が敷かれているそうな。


それにより、農村で発生した災害も都市部で依頼を集約して派遣する仕組みが出来上がっているため、相互に利益があるという。


──王都への旅に出て5日目、昼過ぎまで領主家で面会していたリナが戻ってきてから、様子がおかしいことに気がつく。


どうしたのか訊ねると、会ってきた伯爵から少し気になる話を聞いたんだとのこと。


伯爵は血縁である侯爵家に頼まれてシルバーBランクの女性パーティを探していたそうで、ウェスヘイム子爵から有力な冒険者を紹介してもらったことに感謝しているそうな。


恐らくその紹介した女性パーティというのが、本来はリナを護衛する予定だったパーティなのだとか。


問題はその護衛が必要となった背景で、王都の近辺で最近、貴族の子息らを狙った『誘拐騒ぎ』が発生しているらしい。


しかも、学園の中でも失踪している生徒がいるという話もあり、伯爵からは入学試験中も気をつけるよう言われたとのこと。


恐らくこれが、入学試験に同行できる冒険者のロブを指名した理由なのだろうと合点がいった。


王都への旅の経験があるラビット氏にスケさんがこの先の道での襲撃の可能性を訊くと、明日6日目の森と、明後日7日目の峠がそれに該当するらしい。


一般には商人たちが寄り集まってキャラバンを組んだり、峠の方は領兵が定期的に巡回するのを追ったり、といった方法で野盗からの襲撃を回避しているのだとか。


もっとも、王都や学園で犯行があったとなると、手段を選ばない可能性もあるので、8日目以降の平野とかが安全とも言い切れなそうではあるのだけど。


気になる点としては、貴族の子息らを狙っているという辺りで、誘拐が奴隷目的ではなさそうだということ。


異世界でそういった場合、『聖女』を探しているケースなんかが頭に浮かぶ。そうなると、クララが狙われそうに思えてくる。


あるいは、勇者や賢者、聖騎士といった『特定の能力者』を探している場合。リナも客観的に見れば『唐突に能力が伸びた』ように見えなくもないから、該当する可能性はある。


そしてもう1つ……貴族を攫うという計画の規模から考えて、背後にはそれを支える貴族家が存在するだろうということも気になる点だった。


──翌日、昼過ぎ。森の手前にある街道沿いの町に差し掛かった際に、動きがあった。


【気配察知】で、こちらに向けて刺さるような気配を漂わせる何者かが5人いるようだ。


町に入る前に、町の中に既に仲間がいる可能性をスケさんに指摘されて、事前に馬車の屋根の上でバニッシュマントを被って待機していたが、その予想通りだった。


なお、屋根の上にいるのはスケさんとロブの2人で、秋も半ばの風が若干寒い。車内は魔改造によって快適に保たれていたようだ。


何者かは、町中をゆっくりと走る馬車の速度に合わせて追ってきている。それらは予想通り、街を抜けてからも距離を置いて追ってきているようだった。


こうして後方からも迫る敵がいるということから察するに、この先の森にお仲間がいることは、ほぼ確定だろう。


これが懸念されていた誘拐犯の一味かは分からないが、町に仲間を潜ませる程度には組織的な犯行だと思われる。


街を出るまでは御者をお願いしていたラビット氏はレーヴァンたちと入れ替わってもらい、襲撃に備えて準備を進めていく。


当然ながら護衛対象であるリナとクララも、中で待機してもらう予定だ。


作戦としては、前方で接敵する直前ぐらいで後方の敵を無力化すること。


前方にバレて逃げられないように早過ぎず、かつ挟撃になって馬車を襲われないように遅過ぎず、といった難しいタイミングが問われる。


スケさんが合図を出してくれるそうなので、ひとまずどこで出るのかを観察しよう。


なお、後方が片付いたら敵の裏に回って、頼まれた作業を進める算段になっている。


無力化の準備として、森の中へと入る前に後方5人の後頭部に【自動追尾】を付けておく。かなり小さく絞ってあるので、魔力感知が使えても気付きにくいだろう。


──まもなく森の中へと入り、少し進んだ辺りで御者のレーヴァンから前方に障害物があると報告が入る。恐らくは襲撃者たちが仕掛けたものだろう。


それに合わせてスケさんから合図が出たので、後方5人のうち最後尾から順に睡眠針で眠らせていく。


今回使用しているのは、上位の眠り草を使った睡眠ポーションと、それを使って格納門で射出する睡眠針だ。


また野うさぎにご協力いただいて、射出速度や使用量などを検証した成果が出たようで、あっさりと5人を仕留め終わった。


5人は1カ所にまとめて、逃げられないように土を掘って入れておくことにする。


その間に馬車は障害物の前で停車して、前方からは障害物の陰から出てきた襲撃者たちのざわついた声が聞こえてきた。どうやら【結界】に阻まれて動揺しているようだ。


そして、すぐにあちこちから悲鳴が上がり始め、次々に襲撃者たちが倒れていく。


スケさんがバニッシュマントを被ったまま、不意打ちを仕掛けている状況だ。


襲撃者たちは足を斬られているのが大半ではあるものの、腕や肩を斬られているのが数人いる。


スケさんから、後方の無力化が終わった後の作業として指令があり、それが『エラそうな奴とかを手負いにして逃すから、足以外の怪我のヤツに【自動追尾】をつけておけ』というものだった。


ザコは足を斬って逃がさないようにして、中心人物のような数人が塒に向かうことを狙っているわけだ。


ちなみに、スケさんにも睡眠ポーションは渡してあり、脇差しだけに塗って使い分けるとのことだった。


実際、足を斬られた犯人らは、一様に地面へとうずくまってから動かなくなっていく。


残り数人となったところで『撤退だ!』という声が聞こえてきて、【自動追尾】を付けた3人ばかりが障害物の向こう側へと走り去っていった。


ひとまずこれで、襲撃者たちの撃退は完了したようだ。


──襲撃者たち計17人を捕縛し、念のためクララに足の治療をしてもらう。


面倒なので土に埋めて放置しようかとも思ったが、盗賊の討伐や引き渡しはブロンズCランク昇格の評価になるそうなので、適当なギルドに突き出すことにした。


問題は『運ぶ方法』だったが、使用後に責任持って【清潔クリーン】をかけることを条件にヴァル氏から馬車と人造馬を借りられることになった。非常に便利なハイエルフだ。


一方で逃げた3人はと言えば、街道を逸れて森へと入っていったようだ。恐らく、その先に塒があるのだろう。


レーヴァンとスヴァヌルが襲撃者を積み終わり、障害物を【空間収納】へと回収し終わったところで、逃げた3人を追いつつ王都への移動を再開した。


ヴァル氏の魔道具による【空間拡張】が、【気配察知】などの他のスキルと干渉してしまうことが分かっていたので、追跡中は馬車には入らず御者台に座ることになった。


横で馬の手綱を取るのはスヴァヌルで、雑談がてら彼女たちの戦闘方法について聞きながら、3人の監視を続けた。


ちなみに、斥候型だというスヴァヌルは徒手空拳と短剣による暗殺術、遠距離型だというレーヴァンは小型の射撃魔道具を使うが、ヴァル氏の側仕えも務めるので徒手空拳もインストールされているらしい。


──逃走する3人の監視を続けていると、しばらくして廃村らしき場所へと入っていく。


そして、向かっている先を確認すると、かつて首長が住んでいたと思われる石造りの館があった。


石造りの屋敷の中を【気配察知】で確認すると、10人程の仲間と思われる輩がいることが分かったが、それとはまた別に、離れに数名の気配があることにも気がつく。


頭に浮かんだのは捕虜の存在で、リナたちが捕まったいた時も衰弱している被害者がいたとの話があったので、早めに動くことにした。


──スケさんとスヴァヌルを格納門転移ゲートワープで現地に送り込んだ結果、30分と経たずに館は制圧されてしまった。


いずれも睡眠ポーションを使ってもらったので、半数ぐらいはすぐに寝てくれたようだ。


もう半分は冒険者崩れだったのか、数発は耐えたものの、手数が重なり沈黙するのに時間はかからなかった。


離れの数名の方は、やはり捕虜となっていた子供たちだったとのことで、しかも後ろ手に手枷のような魔道具をはめられていて、具合が悪い様子だったらしい。


ひとまず回復のためにクララと、魔道具ということでヴァル氏も呼んできて対応に当たってもらう。


──ヴァル氏はしばらく魔道具に触れながら観察していたが、どうやらその腕輪が魔力を阻害する機能を持っているらしい。


しかも、MP放出を常に監視するために装着者のMPを吸い続けるとのこと。具合が悪いのは、MP枯渇の症状かもしれない。


ただ、取り外しのための解除システムが欠陥品だったらしく、ヴァル氏が継目の辺りにしばらく触れただけで手枷は外れてしまった。


具合が悪いのがMP枯渇の症状ならばと、初級MPポーションを取り出してクララにも渡し、順次飲ませていく。


やはりMPが減っていたのか、初級ポーションを飲ませた子から顔色が良くなっていった。


しかし、8人の体調が戻ったところで、また『運ぶ方法』の問題が浮上した。


襲撃者の仲間たちはヴァル氏の馬車へ詰め込めばいいとして、問題は捕虜の子供たちの中に、明らかに貴族と思われる服装の3人が含まれていることだった。


街道沿いに待たせている馬車に戻って、皆と色々と検討した結果、やはり箱馬車やヴァル氏の馬車を他の貴族に見られるのは色々とマズいという結論になる。


そこで、ラビット氏が持っていた『幌馬車』を出してもらい、そちらに箱馬車の馬を付け替えて、貴族3人を次の街まで運んでいくことになった。


箱馬車の本体の方は、ロブが【空間収納】へ入れておくことにして、次の問題はヴァル氏の馬車に乗っているお荷物・・・だ。


正直これが邪魔だったので、ラビット氏とヴァル氏に御者をしてもらい、人造馬を飛ばして先行で街の冒険者ギルドに届けてもらうことにした。


ついでではあるが、貴族以外の子供5人についても、ヴァル氏の馬車に寝室があったので、そこに寝かせて運ぶことにする。


──ガタゴトと揺れる幌馬車で、ロブとクララが手分けして3人の貴族を介抱しながら、次の街シュナムベインに向かって移動する。


御者は残った面子のなかで唯一、貴族の嗜みとして馬が操れたリナにお願いしている。スケさんも御者席に座ってもらい用心棒だ。


途中、目を覚ました貴族の子息が、実はパンツルックなだけで、オベラジダ辺境伯に仕える男爵家の娘さんだったという問題が発覚したりはした。


が、用意していた『手負いの襲撃者が逃げ込んだ拠点を発見したので、パーティで制圧した』という言い訳で納得してもらいつつ、当人も復調していなかったためか、すぐに眠りについたので、事なきを得た。


……後のことは、次の街の領主や冒険者ギルドに押し付けてしまおう。


──シュナムベインに着いて、貴族の子女らを一旦冒険者ギルドに引き取ってもらう。


襲撃者の引き渡しなどを済ませてくれていたラビット氏たちとも合流し、その日は遅かったので街の宿で一泊することになった。


なお、捕まっていた彼女たちも学園の入学試験に向かう途中だったのかもと思い、手を貸すべきかを念のためリナに確認したが、恩を押し付けたとか何とか面倒があるので、あまりやらないんだとか。……実に、貴族とは面倒なものだと思う。


翌日の峠も懸念されたような襲撃は無く、その後の行程は安全な旅路だった。その間は、一応入学試験の勉強で時間を潰せていたので退屈はしなかった。


──そんなこんなで、王都への旅程の最終日である10日目を迎えた。


スケさんは『無事王都まで着けそう』とか言ってるけど、はたして無事とはなんだろう。


確かに、リナとクララも含めて誰も怪我ひとつなく送り届けることはできたけど。


……ただ、今回の襲撃の件で一点だけ、気になったことが残っていた。


あの館には、捕まえた10人の他にもう1人『ケニス』と呼ばれる何者かがいたらしく、親玉はそいつが『逃げやがった』と言っていたのだ。


ロブもスケさんも感知した際には見つからず、高度な【隠蔽】をしていたのか、あるいは既に立ち去っていたのかは分からない。


いずれにせよ捕まえることができず、まんまと逃げ仰せたそいつが一体何者なのかが気になっていた。


願わくば、冒険者ギルドの方で襲撃犯たちから尋問で聞き出してほしいところではあるけど、そんな奴が足のつく情報を果たして残しているのかどうか。


もうすぐ王都に到着し、あと1週間ほどで入学試験があるわけで、それまでに何か明らかになってくれているといいのだけど。


◆ステータス

ロビンソン Lv.34/71%

▼空間収納 Lv.14/25%

 成長ポイント:7

 ▷容量拡大 Lv.3

 ▷時間経過 Lv.3

 ▷距離延長 Lv.7

 ▷空間切削 Lv.3

 ▷格納門増加 Lv.7

 ▷格納門移動 Lv.5(MAX)

▶︎生活魔法 Lv. 6/ 3%

▶︎鑑定   Lv. 4/ 2%

▶︎気配察知 Lv. 3/ 0%

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