第6章 運び屋ロブと時を超える魔道具師
毒素材の解体を済ませてウェスヘイム子爵家へ納品し、スケさんの食材もひと通り解体し終わった頃には、この世界に来て4カ月が経とうとしていた。
ラビット氏は、そろそろ西にあるオベラジダ辺境伯領のナヤボフトに向かう予定だそうな。米を仕入れる時期なんだとか。
実は米を根こそぎ取られた際も、そのナヤボフトに行って仕入れてこようと考えていたそうな。
この時期は他にも収穫を迎えるため、護衛の冒険者も奪い合いになってしまうため、早めに確保する必要があるそうだ。
冒険者としてロブ達に頼みたいところだったが、領をまたぐ依頼は
仮に誰か
リナもクララも、豚辺境伯令息に『成長』が嗅ぎつけられないよう、冒険者ギルドのランクは
しかし、アジトダンジョンで『成長』とスキル上げを行い、さらに成長ポイントを振っている彼女たちとは既に、アジトダンジョンの25層に到達している。
アジトダンジョンがフィファウデと同じ難易度なのかは分からないが、手を出してないスケさんを除いた3人でその深さまで潜るとなると、実力は
実際のところ、スキルの無いロブでは既にリナとの模擬戦で歯がたたない状況であり、ゴブ師匠や時にはスケさんに相手をしてもらっている。
クララも、最近シスターから【回復】の出力を抑えるように言われたとの話があったとのこと。
……豚辺境伯令息の件が終わったら、各地に女神像を配る予定なので、珍しくもなくなっていく予定ではあるが。
──米を仕入れる話の途中で、ナヤボフトにラビット氏を送っていくことはできないのかと、スケさんが聞いてきた。
確かに、スケさんやラビット氏の移動係として役割を担えるようになれば、今後も彼らの一員として旅をしたりできそうではある。
ただ、
ナヤボフトは1週間の距離とのことだが、現在の【距離延長】がおよそ1日の距離となっているため、単純に6〜7回の中継で到着は可能だ。
しかし、ラビット氏は
スケさんから、ダンジョン同士なら距離が関係なく飛べるなら、ナヤボフト近くのダンジョンに飛べばいいのでは、という案が出るが、それはそれで大きな問題がある。
仮にアジトダンジョンからナヤボフト近郊ダンジョンに飛べたとしても、ダンジョンは失踪者管理のため入退場を厳密に管理しているため、出入口で見つかると都合が悪いのだ。
フィファウデの時はダンジョンの境界が変則的に天井付近だったため、実際の入退場口から離れた階段付近で、スケさんから貰ったバニッシュマントを使えば容易に潜入できた。
それは、場所が離れている上に『1人』だったから可能だった潜入方法であり、仮にどこかのダンジョンで送り迎えするにしても、複数人の場合は『上手く出る』方法を考える必要が出てくる。
──ふと、バニッシュマントがもう1枚どこかで手に入ればと思い当たり、スケさんに入手した経緯を訊ねる。
スケさんによると、実はあのマントは『普段使いの魔法袋』を作った魔道具師の手作りだったらしい。
手作りであれば生産できる可能性があり、光明が見えたかに思えた。……が、スケさんは現代で作れるか疑問だという。
以前、ラビット氏が【結界】の魔道具を持っていなかったことを疑問に思ったスケさんだが、どうやら【結界】の魔道具も同じ魔道具師の制作なんだという。
しかし、その当時の時点で、他に作れる者がいないとか、成功率が低いと言っていたそうな。
その【結界】の魔道具が現代に残ってないことを考えると、『バニッシュマント』もまたレシピすら残ってない可能性があるのではとのこと。
その魔道具師が超天才でオーパーツを生み出していた可能性はありそうだが、何か研究資料などは残っていたりしないだろうか。
たしかスケさんは『普段使いの魔法袋』を素材の代金として貰ったと言っていたので、資料の残存する手掛かりとなりそうな場所について知っているかもしれない。
スケさんに訊いてみると、確かに研究所が王都のさらに南の沖にある孤島に建てられていたとのこと。
しかも、魔道具師は【
今でもその魔道具が残っているかは怪しいが、何か手掛かりを探しに行くのはいいかもしれない。
──ちょうど探索の予定もなく時間が空いていたので、早速王都までスケさんと来てみることにした。
ヨンキーファから10日の距離、ちょうど10回ほど
初めて見た王都の印象は、高層ビルのような外壁で推測される、その街の大きさだ。
左右に延々と広がるその外壁を上空に浮かべた格納門から覗くと、それが凄まじく大きな円を描いていることがわかる。
元はあの円を覆う規模の【結界】の魔道具があったようだが、その魔道具が故障して機能喪失寸前なことが発覚し、あわてて造られたのがあの外壁だそうな。
王都に潜入し、魔道具師のいた住居を早速探そうとしたものの、どうやら当時あった王城の北にあったスラム街は貴族街へと区画整理されており、全く当時の痕跡が無くなってしまっていた。
王城の位置から大体の位置を特定したものの、当然ながらそこには貴族のものと思われる巨大な邸宅が建てられており、魔道具師の借りていた建物は既に無かった。
──さて痕跡も無いとなると、南の沖にあるという孤島に直接向かうしかない。
かつてスケさんは、【風魔法】で空を飛んでいたそうだけど、現在は【受肉】が未だLv.1で燃費が悪く、魔法を使うとすぐに空腹になってしまう。
当然ながらロブとしても、空を飛べるスキルは無い。
そんなわけで、王都の南の海岸線から最大限まで格納門を伸ばし、限界位置で
──凪いだ海の上を渡ること2回、スケさんが指し示した方向に強い魔力の発生源を感知したので、格納門をそちらに向かわせる。
魔力の発生源は灯台のような高い塔で、無事に島を発見することができたようだ。
島はそれなりの広さがあり、なだらかな山の上に白い建物があった。
付近に格納門をつなげて降り立ち、魔道具師のヴァルという人の研究所だというその建物へ向かう。
慣れた様子のスケさんが門扉へと手をかけると、自動音声が流れると共に生体認証されて、門扉が自動的に開かれた。
スケさんによると、敷地内には不審者を排除するセキュリティシステムまであるそうで、魔道具の範囲を超えているとしか思えない数々のシステムに驚かされる。
平屋の建物の扉へと近付くと、再び扉が自動で開き、人型の魔道具であるメイド服姿のレーヴァンに出迎えられる。
スケさんは面識があるようで、前回の訪問から約500年ぶりだという歓迎を受ける。
ロブも認証されたところで、レーヴァンに奥へと案内されることになった。
スケさんことカサニタスが来たら、奥まで通すよう主人に言い付けられているらしい。
その途中の廊下で、スケさんと思われる絵画を発見してしまい、思わず立ち止まってしまった。
ウェスヘイム家で見た現在の体型に近い姿とは違い、この絵に描かれているのはかなりふくよかな体型でのものだった。
戦闘中と思われるシーンを切り取ったその絵は、実はこの研究所の主人である魔道具師ヴァル氏の描いた作品だそうで、多才さにまた驚かされる。
──レーヴァンに促されて先に進み、途中からは階段を降りていくことになったが、その先にあったのは見上げるほどの巨大装置が据えられた倉庫のような場所だった。
ここが目的地だったようで、スケさんにはヴァル氏からだという1通の手紙が渡される。
……手紙には、『君が不在な人生なんてもう耐えられないから、幾千の時を重ねても君を待ち続ける』と書いてあったらしい。
室内にあった巨大装置は、魔道具師渾身の『魔法袋』だそうで、約1000万倍の遅延性能を持つらしい。
年に3秒ほどしか進まないその魔法袋に、自らを体温低下による仮死状態にした上で封入し、スケさんが来ることを信じて眠りについたそうな。
当時は既にスケさんが亡くなったと知らされていただろうに来ることを信じきっていたこととか、自身の研究した魔法袋に対する全幅の信頼とか、色々と愛の重そうな人のようだ。
──スケさんからヴァル氏の蘇生を頼まれたので、【空間収納】による運搬と、クララへの連絡を引き受けた。
レーヴァンの説明を受けて、巨大装置である魔法袋を操作すると、棺ほどの箱が押し出されてきた。
棺を開けて中を開けると、とある特徴が目についた。長い耳……クロエのそれと同様、エルフの持つ特徴だ。
時間経過がいつまでか不明なため、ひとまず【空間収納】へと格納していると、スケさんとレーヴァンの話から、ヴァル氏がハイエルフと呼ばれる古代種に近い血族であることが明かされる。
ハイエルフは数百年を生きる長寿で知られるそうだが、手紙の文字通り『もう耐えられない』から、リスクを負ってこんな行動に出たのだろう。
ちなみに、スケさんが失踪してから眠りにつくまで50年は経っているらしく、それにしては20代ぐらいにしか見えない美形だった。
──レーヴァンに見送られて、再び海を渡って王都へ、そのままヨンキーファの拠点まで戻ってきたところで、リナ経由でクララに連絡を入れた。
すると、解体現場の立ち合いに退屈していたリナも一緒に拠点までやってきた。抜け出せて助かったと礼まで言われてしまう始末だ。
早速、アジトダンジョンへと移動して、安全地帯にカーペットを敷いて、蘇生の準備を進めることにする。
ちなみにクララは現在Lv.20で、【聖属性】はLv.7だ。
ステータス表示について、クララが発見していたことがあって、【聖魔法】というスキル名を長押しすると、詳細を表示させることが出来るようになっているらしい。
詳細には、使える魔法と性能への補正が一覧で出るそうな。
現在のLv.7だと、【蘇生】は『魔力消費量35%減』『蘇生時体力回復40%』といった補正が入るようになっているらしい。
この辺り、成長ポイントが振られていなければ補正が入っていなかったと考えると、やはり女神像の効果というのは無視できなさそうだ。
ヴァル氏を出す準備ができたところで、クララにも用意をしてもらい、【空間収納】から遺体を出すのと同時に【蘇生】を発動してもらった。
──蘇生が成功し、ヴァル氏の目が開いた直後、その姿が消えた。
声が聞こえたのは背後で、そこにあったのは両手を広げて抱きつこうとするヴァル氏と、その顔を片手で押しのけるスケさんの姿だった。
高速コントみたいなものが始まってしまったが、スケさんから礼を言ってないという指摘があって、素直に蘇生の礼を言うヴァル氏。
ひとまず軽く名前だけの自己紹介を済ませたところで、色々と頼みたいこともあるので拠点へと戻ることになった。
どうやらヴァル氏はスケさんの体型に不満があるらしく、絵画に描かれていたようなぽっちゃりとした姿でないことに文句を言っていた。独特の感性を持った方のようだ。
──拠点へと戻り、ちょうどお昼の時間帯となったので、ラビット氏がリビングに料理を出してくれた。
本日のメニューは、お子様ランチプレート。ハンバーグにエビフライ、ウインナー、ナポリタン、マッシュポテト、そして台形に盛られたチキンライス。
横には、黙々と皿の中身を掻き込む残念エルフの姿が、そこにあった。
実は前世で見たことはあっても食べたことなかったな、なんて思いつつ味わっで食べていると、突然立ち上がったヴァル氏が料理を指して、こんなものでスケさんのことを『籠絡しようとしている』と糾弾し始めた。
スケさんが、大人しくしておけと軽くあしらっている間に、グラスにオレンジジュースのお代わりを注いで、大人しくしておいてもらう。
食べ終わった様子のリナが口元を拭きつつ、勇者の知り合いの魔道具師に思い当たる節があったようで、「王立研究所の最高顧問をしていて『勇者の右腕』とも呼ばれていた、あのヴァルキューリャ様でしょうか?」と質問した。
『勇者の右腕』と呼ばれたことに気をよくした様子のヴァル氏がまたテンション上げそうだったので、スケさんがまたクソエルフ呼ばわりで大人しくさせる。
──食事を終えたところで、王立研究所の最高顧問という目の前の残念エルフに相談したいことがあったことを思い出し、早速話を持ちかけることにした。
バニッシュマントを取り出して、これと同じものを作ってもらえないかと持ちかける。
当初は資料を探すつもりだったが、本人が蘇生したのだから作ってもらえるか交渉することにしたわけだ。
しかしヴァル氏は、そんなものは素材さえあれば誰でも作れるだろうと、あまり興味を持って貰えない様子だった。
……問題は『そんなもの』が現代に残っていなかったことなわけだけど。
素材になるという『魔力の通った魔物の皮』は、ワイバーンやドラゴンの飛膜が在庫として山のようにあるので、問題なさそうだ。
技術の認識がズレているヴァル氏に、スケさんから【結界】の魔道具が現代に残っていないことが伝えられると、何やらその原因に思い当たる節があった様子。
貴族が既得権益のために技術を独占しようとして秘匿し、失伝させたのではないかとのこと。
そこからは、しばらく450年前の貴族関連の愚痴が続いた。
ヴァル氏は学園やら王立研究所やらに関わったものの、貴族たちの振る舞いに辟易し、名誉や勲章を返上する代わりに国の仕事を放棄したそうな。
そんな中で、興味深い話が出てきた。スケさんが亡くなったと伝えられた後も、まだ生きているはずだと確信していた理由だ。
ウェスヘイム家が保管していた魔法袋も同様だが、魔道具に刻まれた魔法陣は固有名の文字列が反応するかどうかによって、その当人の生存を判定することができるのだという。
つまり、スケさんの固有名であるカサニタスという名前が魔道具で反応することを確認していたので、どこかの転移罠でも踏んだんじゃないかと思っていたそうな。
──ヴァル氏の愚痴がひと段落したところで、ラビット氏が『お子様ランチといえばこれたよね』と言って、デザートのプリンを出してきた。
リナとクララは、先月にラビット氏からのお礼として開催された『スイーツビュッフェ』により餌付けされきっており、出てきた皿に目を輝かせていた。
プリンを食べ終わるや否や、ヴァル氏が再び立ち上がって、礼はいくらでもするからレーヴァンへ料理を教えて貰えないか、ラビット氏に頼みだした。
どうやら、ここにもまた1人、餌付けされた犠牲者がいたようだ。
ラビット氏が、それなら今後の旅のためにバニッシュマントを作ってほしいと言うと、そんなものではプリンのレシピ1皿にもならないと他のものを要求してきた。
それならばと、解体前の魔物があれば欲しいと追加で聞いてみると、スケさんが戻ってきた時のために確保した食材があるはずとのことで、そちらを提供してくれることになった。
──ヴァル氏が早速研究所に戻ろうとするので、ここは研究所から結構離れている場所であることを伝えた。
しかし、ヴァル氏は心配される理由が分からないというか、簡単に帰れるかのような物言いで、どうにも話が噛み合わなかった。
ダンジョン経由で遠距離に移動するのが現代では難しい、といった話をした辺りで、ヴァル氏が話の齟齬の原因に気付いたのか、1つの魔道具を取り出した。
その魔道具は、周囲を【ダンジョン化】する魔道具で、これで周囲をダンジョンにすることにより、研究所の【ダンジョン化】した場所に移動できるらしい。
……しばらくヴァル氏から説明は受けたものの、難解であまり理解は出来なかった。
ひとまず【ダンジョン化】によって見かけは変わらず、ダンジョンが存在する高次元の空間に紐付けをする魔道具なのだとのこと。
そもそも地上で【転移】するのは効率が悪いそうで、【ダンジョン化】でダンジョンの性質を利用する方が、魔道具としても基本構造がシンプルなのだとか。
ちなみに、この【ダンジョン化】の研究でダンジョンコアの調査をするのに、スケさんが手伝うことになったのが、2人の知り合うきっかけだったらしい。
その後、【ダンジョン化】と【転移】を組み合わせて遠距離移動が可能になり、王都の借家に置かれていた孤島の研究所に移動する魔道具は、その集大成だったというわけだ。
……まあ、現代で未だフィファウデとヨンキーファの荷運び依頼が冒険者ギルドに張り出されていることを考えれば、その後の技術がどうなったのかは推して知るべしだ。
──【ダンジョン化】の魔道具を2階の廊下の突き当たりに設置し、ヴァル氏の研究所へと移動した。
ロブも、今後また来る可能性があるだろうということで、ヴァル氏に同行している。
【転移】の魔道具で移動した先には、レーヴァンが予見して待機し、ヴァル氏のことを出迎えた。
ヴァル氏は早速、ラビット氏から今後料理のレシピを教わることになる旨を伝え、その対価として渡す素材がどれぐらい残っているかをレーヴァンに訊ねる。
どうやら魔物素材は主にスケさん用のカロリーバー作成のために確保していたらしく、食用のものが2000体ほど残っているらしい。
ふと、ウェスヘイム家に渡した魔法袋のことを思い出し、食用以外の物は残っているのかも訊いてみた。
すると、非可食のものが7000体、カロリーバーに適さない海洋系の魔物が13000体、計20000体が未解体で残っているとのこと。
ラビット氏によると、ゴーレムのような物質系でなければ【
そのことをヴァル氏に伝えると、試しにそれらもサンプルを持ち込んでみることになり、レーヴァンがリストアップを始めた。
──準備を待つ間、スケさんが閉じ込められてから復活するまでの話をすることになった。
その話を聞いたヴァル氏は、当時の報告を受けた状況を踏まえて、貴族らによる周到な計画だったのだろうと推測した。
どうやら、あの崩落した通路で多数の兵士が生き埋めになったと報告されているようで、貴族たちは目撃者をそこで始末したんだろうとのこと。
なお、スケさんの【受肉】スキルについては言及を避けておいた。ひとまず、食料摂取は必要になるだろう、とだけは言ってある。
ラビット氏の食事を味わった今となっては効率重視のカロリーバーでは目劣りすると、ヴァル氏は残念そうに言う。
しかし、実際のところ【受肉】スキルにはカロリーバーが効果的かもしれないので、『出先で役に立つかも』といった言い回しで、持ち込むようアドバイスを入れておいた。
……後に、スケさんから【受肉】スキルについて聞いた様子のヴァル氏が、事あるごとに体型を元に戻す(?)ように言いだしたのは自明だろう。
──1カ月後。
拠点の2階に常設した扉を、ナヤボフト近郊の海岸にある洞窟へと繋ぎ、ラビット氏と移動する。
今後は、ロブが先行して【ダンジョン化】の魔道具を行先に設置するだけで、人数がいても扉ひとつで移動できるようになったわけだ。
……そんな長距離移動が出来るようになったタイミングで、【空間収納】スキルがLv.14になったのは、運命の悪戯というものなのか何なのか。
まあ、【距離延長】にポイントを振ってLv.7になり、格納門の移動距離が5倍になったことで、5日分の距離まで一度で行けるようにはなったのだけど。
結局、当初の目的だったバニッシュマントは作ってもらったものの、その用途だったダンジョンからの脱出は【ダンジョン化】の魔道具によって完全に無かった話になってしまった。
そのバニッシュマントは、ヴァル氏が『誰でも作れる』とあまり乗り気じゃなかった通り、流れ作業のように5枚が出来上がってしまった。しばらくは【空間収納】の肥やしかもしれない。
──気を取り直して、洞窟から出ながらナヤボフトの話をラビット氏から聞く。
どうやらこの時期は街では収穫祭をしているらしく、屋台も出て賑やからしい。
護衛がわりに一緒に来たスケさんは、魚屋が屋台で出すという漁師汁に興味が湧いたようだ。
こっちでは生で食べたりするのか聞くと、ラビット氏は見たことが無いとのこと。
しかし、ラビット氏のスキルは寄生虫も【状態異常無効化】の範囲に入るそうなので、後で醤油で食べてみようかという話になる。
それを聞いて、なぜか同行しているヴァル氏が、正気かと言ってきた。
最近は【ダンジョン化】の魔道具を2階に常設したので、朝晩にご飯を食べに来ることが常態化しており、今朝も旅支度してたところに来て同行すると言いだしたのだ。
生食について、ラビット氏から刺身や寿司などを勧められると、そこまで言うならと素直に食べてもいいかなと言うヴァル氏。
お付きのメイドであるレーヴァンですら驚くほど、ラビット氏はヴァル氏を手懐けられる数少ない存在のようだ。
なるほど、胃袋を掴むテイマーは、どの世界においても最強ということだろう。
ちなみに、ヴァル氏の持ち込んだ海洋系の魔物は、滅多に出ない素材だとラビット氏に喜んでもらえたようだ。
そちらも一般には生臭く食用に適さないとされていたようだが、醤油をはじめ数々の調理法を持つ元日本人にとっては、立派な食材だ。
なお、実際に海洋系魔物の料理を試食したヴァル氏は、生きてきた100年間その味を知らなかったことに、愕然としていた。
恐らく、今回の刺身や寿司でも、同様に敗北する姿が目に浮かぶ。
──洞窟から上がり道に出たところで、街までしばらく歩く距離であることを告げると、ヴァル氏がそれなら馬車を出すと言ってきた。
すぐに魔法袋から馬車と人造の馬2頭、御者兼メイドのアンドロイド1体が出てきたので、そういえばこの人って単なる残念エルフじゃなくて、王立研究所の最高顧問やってた魔道具師だったと思い出す。
【空間拡張】された車内へと入ると、徒歩で2時間ほどの距離を馬車が走り出す。流石というべきか、全然揺れない快適な走行だ。
──
……と、旅暮らしに夢を馳せながら、馬車はナヤボフトへと向かっていった。
◆ステータス
ロビンソン Lv.34
空間収納 Lv.14
成長ポイント:7
・容量拡大 Lv.3
・時間経過 Lv.3
・距離延長 Lv.7
・空間切削 Lv.3
・格納門増加 Lv.7
・格納門移動 Lv.5(MAX)
生活魔法 Lv.5
鑑定 Lv.3
気配察知 Lv.2
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