第5章 運び屋ロブと運び屋ラビット

アジトダンジョンへ潜っての『成長レベリング』を再開して10日ほど経ち、階層としては20層、『成長』はLv.15に達したので、クララにラビット氏の【蘇生リバイブ】へと挑戦してもらうことになった。


【聖属性】もLv.8となっており、【聖魔法】にも成長ポイントを振っていて準備は万端だろう。


ここで、【空間収納】での格納門転移を他人に使う前にやったのと同様、まずは野うさぎで『生体実験』をしてみるつもりだった。


ところが、クララによると実は聖白銀教会でも人体での実践前に小動物で訓練する慣習があり、それ専用の魔道具まであるのだという。


クララにその魔道具を借りてきてもらったが……どう見ても、スタンガンだった。恐らくは【雷魔法】を使っていると思われるが、原理的には同じものだろう。


事前に捕まえておいた野うさぎをダンジョンへと持ち込み、魔道具で仮死状態にした後、クララに【蘇生】を行ってもらう。


聖白銀教会の規定では『10回成功させる』というのが人体に適用するための評価基準となっているそうだ。


クララに【蘇生】を繰り返してもらい、結果10回連続で成功させて、その規定を無事満たすことができた。


『10回連続』というのが、『成長』に加えて【聖魔法】に成長ポイントに振った結果なのかは定かではないが、一般にどういった評価になるのかは少し気になった。


そのため、クララには魔道具の返却時にでもシスターに相談するよう勧めておく。


──翌日、体調を整えてもらったクララにダンジョンに来てもらい、改めてラビット氏への【蘇生】へと挑戦してもらう。


安全地帯にカーペットを広げると、その上にラビット氏の遺体を置いた。


残り時間が不明なので、少し急かすようにお願いしてしまったが、クララはすぐに両手をラビット氏へと向けると【蘇生】を唱えてくれた。


魔力感知を使い慣れたのか、魔力がラビット氏の全身へと広がる様子が見えるようになっている。


しばらくして魔力が消えたところでクララが顔を上げ、術式が終了したことを伝えてきた。初めての人体への【蘇生】であるためだろう、不安気な様子だ。


しかし、程なくしてラビット氏の目元に反応があり、ゆっくりと上半身を起こして周りを見渡し始めた。


どうやら、クララの人体への【蘇生】は無事成功したらしい。ラビット氏に体調を確認すると、問題なく動ける様子だ。


体の様子を探りつつ立ち上がったラビット氏に、早速ながら状況説明をする。


ラビット氏が遺体で発見されてから既に2カ月が経過していることや、時間遅延のある収納で【蘇生】の機会を探っていたこと、そしてようやくその算段がついて【蘇生】を行ったことを話すと、ラビット氏はステータス画面を確認し始めた。


そして、【蘇生】による『成長レベル』の低下を確認したのだろう、こちらの話を信用してくれたようだ。


蘇生まで時間が経ってしまったことについては気にしていないようで、礼をしなければという話になる。


ここで、ラビット氏から権限を奪ってしまうことになった魔法袋の話になり、話が長くなりそうだったので、魔道具という言い訳で木製の扉を使いつつ、格納門転移によって拠点へと戻ってきた。


リビングのソファに座ってもらい、魔法袋がスキルにより権限を移せてしまったことや、中の料理を結構貰ってしまっていることについて話す。


すると、ギルマスからの説明もあった通り、ラビット氏は【料理人シェフ】スキルがあるため、全然気にしなくて問題ないと言ってくれた。


その上で、拾得物に対する倫理観という辺りから、ラビット氏はロブが異世界人であることを看破して、言い回しと意味深な笑みを浮かべて気付いていることを暗に伝えてきた。


横にいたスケさんをチラッと確認して、同じことを思ったようだったので、リナとクララにはそれとなく帰ってもらうように促した。


その際、クララには初めての蘇生成功について、祝いの言葉を伝えておく。


また、ラビット氏の蘇生のために手伝ってきてくれた2人に感謝を込めて、後日ラビット氏によるスイーツビュッフェ会が開催されることになった。


──2人が拠点から出た後で、改めて元日本人の3人での腹を割った話が始まった。


まずは各自の自己紹介をしたところで、ラビット氏の遺体の発見や【空間収納】による保存、ギルマスからラビット氏について聞いていたことなど、この世界に来てからのことを話す。


ラビット氏はどうやらスケさんの姿を肖像画で知っていたらしく、また遺物や逸話から日本人だったのではと思っていたそうな。


そこからスケさんの復活までの話になり、スケさんがまだしばらく【受肉】スキルの関係で食事を続ける必要があることから、魔法袋に入っていた大量の食事を譲ってもらえることになった。


代わりに、魔法袋自体は今後も運び屋をやっていく都合で返してほしいと頼まれたので、権限を解除して返却した。


魔法袋の方には衣類や武器、調理器具といった時間経過しても問題ないものを残していたが、特に調理器具は【料理人】の商売道具だし、そちらはそのまま返却することにする。


ただ、回収してきた幌馬車はその大きさから魔法袋に入らず、【空間収納】の方に入れてあるため、後で引き渡すことになった。


──魔法袋の話になったので、スケさんの魔法袋に残されていた魔物素材の件も相談しておく。


すると、その話を聞いた途端にラビット氏が興奮し、食い気味に調理を引き受けると言ってきた。


どうやら、冒険者活動の目的が主に魔物の肉を入手する目的だったらしい。


しかし、実際のところダンジョンでの探索はリスクが高くコスパが悪いため、常々悩んでいたそうな。


そんな中で、ハンタークランという魔物の肉を専門に狩る集団と渡りが出来たことをきっかけに、冒険者を引退することにしたんだとか。


──ラビット氏を連れてアジトダンジョンに向かい、実際に魔物の素材の例としてコカトリスを出して確認してもらったところ、その興奮は限界突破してしまった。


現代で魔物素材がドロップする場合、切り出された肉の塊というのが一般的で、丸ごと一頭となると古い魔法袋から発見された場合に限定されてしまうそうな。


ちなみに、肉を切り出す前に解体する必要がありそうだと懸念していたが、ラビット氏の【料理人】スキルには【解体】があるそうなので、問題なかった。


そのため、解体を依頼する必要が無くなったので、スケさんからは代金として肉の1割が渡されることになる。


……ただ例に出したコカトリスならまだしも、ドラゴンとかも丸ごとになるので、その1割となると大丈夫なのだろうかと心配になった。


──拠点に戻ってきたところで、実はこの拠点が元はラビット氏の借りていた場所だったと明かされた。


確かに、調理環境が整っていたり、地下に冷蔵魔道具があったりと、妙にキッチンが充実している単身用の借家ではあったが。


しかし、ラビット氏の口座には家賃を引き落とせるだけの額はあったはずとのことで、未払いによる契約解除ではなさそうだし、またラビット氏が亡くなっていた直後ぐらいに空き家となっていたことから、長期不在による契約解除の可能性でもなさそうだ。


これは商業ギルドの方で何かやらかしているのではと思い、ついでにラビット氏と面識のあるギルマスにサプライズを込めて、ご挨拶に行くことにした。


──死者を蘇生した、という場面で感動の再会といったものを想像していたが、実際の2人は久しぶりの帰省のようなあっさりとしたものだった。


そればかりか、ギルマスはロブの薬草やポーションにまつわる『やらかし』を愚痴り、迷い人としてどうなんだと問い詰められ始めた。


とはいえ、ラビット氏がこちらへ来た当初の話を比較に出されて、計算が得意だったり、こちらでは貴族語とされる丁寧語が流暢だったりと、そちらも大概だった様子だ。


ふと、ギルマスとの接点となった荷運び依頼の件を思い出し、あのインゴットやら宝石やらといった荷物が、今回のルーデミリュが仕掛けようとしていた戦争に関係あったのかを訊いてみることにした。


しかし、ギルマスもその用途については詳細は把握していないらしい。


ただ、暴走スタンピードが発生してすぐにダンジョンへと領兵を出して抑え込めたのは、あらかじめ領兵をフィファウデに集めておいた結果ではないかという。


実際、ロブが到着した時点でダンジョン内に兵が配備されていて、4層にあった前線を維持できていたのは、あまりに出来すぎていたように思える。


当時子爵だったキファイブン氏は、何かしらの情報を掴んでいて、暴走スタンピードを警戒したり、あるいは戦時への備えを進めていたのかもしれない。


そう考えると、その手腕によって伯爵へと陞爵されたと言われるのも、納得できる話だろう。


──話は尽きなかったが、ギルマスに次の予定が入っており、その場はお開きとなった。


ただ、商業ギルドに来るきっかけになった、肝心の『ラビット氏の家』まわりを確認してなかったので、帰り際にギルマスに契約について確認する。


すると、ギルマスは何やら思い当たる節があった様子で、しかし時間が迫っていたようなので後で連絡するということになった。


どうやら、死亡したと判明した時点で処理を進めてしまい、口座の凍結などについては翌日に蘇生の話が出た時点で差し止めたものの、一部の賃貸の契約解除といった辺りに話が通っておらず、そのまま空き家となってしまっていたらしい。


ひとまず、ラビット氏はこれでギルマスに貸しが1つできたようだ。


──商業ギルドから帰宅し、まだ夕食にするには間があったので、アジトダンジョンに行ってラビット氏に【解体】の実演をしてもらうことになった。


素材はヒュージサーペントという全長80m、直径3mにもなる巨大な蛇で、魔法袋に使われる胃袋など各種素材が取れるそうだ。また、肉質は鶏肉と魚の間のような食感で非常に美味しいらしい。


まずは腹を割いて内臓を取り出し、頭と尻尾の先を除いた70mほどを10mごとに分割して、1つを除いて魔法袋に収納してしまう。


ちなみに、ラビット氏の魔法袋は出し入れする物の大きさに1m程度の制限があったので、スケさんから『普段使いの魔法袋』を貸してもらっている。


解体の最中、ラビット氏は華麗にミスリル製の解体ナイフを操り、時に魔力を流してナイフの摩擦を調節しながら、飛び回るようにして作業を進めていく。


10mほどの筒状のサーペントが皮と骨と肉に分解され、魔法袋へと収納されていく。ここらで一旦休憩でも……と思ったが、ラビット氏からはここからはすぐだからやってしまうそうな。


その言葉通り、次に取り出したサーペントの塊は、ナイフを突き立てて【解体】スキルを使った直後、外皮も肉もするりと剥けて、一気に分解されてしまった。


一度解体した素材であれば、類似の形状は【解体】スキルによって分解できるようになるのだという。


ただし、その分解には上限として10m四方という制限があるそうな。


その制限について、スケさんから蜷局とぐろを巻いたら頭まで10mに収まるんじゃないかという提案があり、試しにやってみることにした。


試行錯誤で若干時間はかかったものの、最終的には円を描いて立てた木の柱の中に格納門で巻いて積み上げていくことで、1辺10mの立方体に頭まで入れることができた。


そしてラビット氏が【解体】した後、一度収納してから取り出すことにより、頭から尻尾まで繋がった一枚皮をはじめ、そのままの形状で分解が完了した。


骨はそのまま標本にできそうとか、内臓は別処理が必要とか、色々と作業は発生するものの、一体丸ごと解体できるようになったので、スケさんの魔法袋にあったもう2体も同様に解体して、その日の作業は終了となった。


──最後に、スケさんから解体の手数料として、1割となる10m分割での3つ分の肉が、ラビット氏に渡される。


ようやく、1割という規模がどういう物なのか気付いた様子のラビット氏だが、これからワイバーンやドラゴンもあるわけで。


スケさんから借りた『普段使いの魔法袋』は、まだしばらく借りたままになりそうだった。


──拠点に一旦戻り、荷物を置いたらそのまま温泉へと向かうことになった。


ラビット氏は、ギルマスの確認が済むまで戻る家も無い状態なため、せっかく2階に部屋が増えたので使ってもらうことにした。


宿賃代わりに【料理人】のスキルで腕を振るってくれるそうなので、そこでこちらも宿のサービスとして秘湯に案内したというわけだ。


湯に浸かりながら、こちらの風呂事情についてや、拠点を手に入れるまでの金の稼ぎ方についてなど、雑談に花が咲く。


そして、【空間収納】と同様に転生時のギフトが【料理人】という非戦闘系のスキルだったラビット氏に、不安じゃなかったかを聞いてみた。


すると、ラビット氏はこの世界に来てからの『出会い』による影響が、今までやってこれた全てだったと明かす。


──始まりとなった、転生した直後のあのステラワルトという森で、既に現在のギルマスであるサムとは出会っていたんだそうな。


探検と称して森で遊んでいた、やんちゃ盛りのサムと出会った後、そのまま街へと案内されて、実家である男爵家に世話になることになったらしい。


その実家は商家から貴族に取り上げられた男爵家で、当時は飢饉などもあり商売が上手く行ってない時期だったとか。


そんな中、ジャガイモやトウモロコシといった当時は『家畜の餌』とされていた売れ残りに目をつけて、塩味でも美味しいフライドポテトやポップコーンとしてラビット氏が提供したことで、皆の胃袋を掴んでいったんだそうな。


その後も料理の手伝いとして身を寄せつつ、【料理人】スキルを成長させ、新たに出せるようになった調味料や【解体】など、やれることを増やしていったんだとか。


──転機となったのは、その実家が商売を立て直した頃のこと。


元からやんちゃで恵まれた体格を持ち、商家の出にしては珍しい【剣術】スキル持ちだったサムが、家を出て冒険者になると言い出したことだった。


実家の方は後継者で頭の良い長男がいて問題なかったが、サムを溺愛していた両親は反対していた。


そこで説得するよう頼まれたラビット氏だったが、当人も食材探しとか旅をしてみたいとかは思っていたので、説得に失敗したふりをして彼のお目付役で一緒に行くからと彼の両親に言い聞かせ、サムに着いていくことになったんだそうな。


とはいえ、実際のところ非戦闘系のスキルでは身体を張って代わりに被弾する盾役という『肉盾』ぐらいしか出来ず、登録も『盾職』としていた。


しかし、『盾職』といってもスキルがあるわけでもない身では、怪我をしては戦線離脱するばかりで、その離脱中も傭兵として他パーティで装備を整えるべく稼ぐサムとは『成長』に差がついてきてしまったらしい。


しかもラビット氏の『成長』は【料理人】スキルの影響なのか、盾職に欲しい防御力は伸びず、サムとは金を貯めて防具でも揃えようと話しながらも2人の実力は離れていき……そうしている間に、家を出てから半年ほどが経過していた。


──その日も、サムが別のパーティに呼ばれてダンジョンに潜っていたので、ラビット氏はヨンキーファ行きの荷物運びを受注していた。


正直、【料理人シェフ】として働いた方が稼げることは分かっていて、冒険者を辞めようか悩んでおり、せっかくヨンキーファに行くから、サムの実家にどこか伝手を紹介してもらえないか聞こうかと思っていたそうな。


そんな道中、ちょうどステラワルトの森への分岐で1人の行き倒れを発見することになった。


小柄な老人で怪我はなかったようだが、どうやら空腹で力尽きていた様子。


【回復】もできなければポーションの持ち合わせも無かったラビット氏だったが、空腹であれば【料理人】の領分だろう。


そこで、ちょうど新たに出せるようになった調味料の『マヨネーズ』と『胡椒』を使って、非常食のベーコンと当時はまだ安かったジャガイモを使ったポテサラをパンに挟んで差し出したそうな。


なんと、自分用にも作っていた計3本のポテサラサンドは、一瞬でその老人の胃に収まってしまったらしい。いきなりマヨネーズは、この世界の人にとって劇薬だったようだ。


その後、正気を取り戻した老人が平謝りし出して、『これで勘弁してもらえないか』と差し出してきたのが、『小銭入れほどの皮袋』だったらしい。


そんな小銭入れとはいえ老人から全財産・・・を奪うのは気が引けたが、どうにも引き下がらない様子に受け取ることを了承すると、一目散に森に向かって消えていってしまったそうな。


気を取り直してその小銭入れを拾ってみたところ……明らかに中身が一切入ってない単なる皮袋。思わず『騙された!』と叫んでしまったとか。


──皮袋は適当に背負い袋に放り込んで忘れることにし、ヨンキーファへと到着して、依頼の荷物は無事に届け終えた。


あとはサムの実家に……と思ったが、そもそも家を出る際にサムのお目付役という建前でついていったわけで、どの面下げて会えるのかと思い止まる。


その日は安宿に泊まることにして、部屋について腹が減ったので背負い袋を漁ったところ、あの小銭入れが出てきてしまった。


無性に腹が立ってきて、思わず床に叩きつけようと握り込んだ瞬間だった。


袋の革紐についた石が指に触れて所有者登録され、それと同時にその皮袋の正体が魔法袋だということが判明したそうな。


しかもその魔法袋は超高性能で、これを受け取るのはマズいのではと思い、ステラワルトの先にあるという村に返しに行かなくては、という意識を持つようになったんだとか。


──結果、持ち合わせのスキルと魔法袋で出来ることを考え、知り合ったゴールドAランクの『荷物持ち兼【料理人】』という役回りで同行するようになった。


ゴールドAランクのパーティには、ダンジョン内で美味い料理が食える上に戦利品を全て回収できるとあって、非常に好評だったそうな。


ただし、他の冒険者からは『寄生』のように見られてしまい、何かと噂が立ってあまり長くは続かなかった。


それでも、『成長レベル』がサムに追いついたことで、再びパーティを組めるようにはなったとか。


──その後、無事ステラワルトの森の先にあった村で、あの行き倒れていた老人と再会し、魔法袋の返却を申し出るも断られ、代わりにマヨネーズなどの調味料を売買する関係になったそうな。


どうやら、その老人は元冒険者で魔法袋をいくつも持っていて、時間停止のものであれば他にもあるため問題ない、とは言っていたらしい。


【料理人】に由来する『成長』ではLUCも上がりやすい傾向にあったそうだから、その出会いもまたラビット氏だからこそ引き寄せたのだろう。


その頃にはすっかり登録時の『盾職』なんてのはやってなかったため、登録を変更しようとした。


しかし、冒険者ギルドでは変更が認められておらず、新規で登録し直す他になかったようだ。


それならばいっそのこと、ということで、元の世界の名前で『盾職のカイト』と名乗っていたところを、寄生の噂の払拭も込めて、以降は『運び屋ラビット』と名を改めて、登録し直したんだそうな。


──ラビット氏の魔法袋の由来を聞き終えたところで温泉から上がり、拠点へと戻ってきた。


風呂上がりのコーヒー牛乳を出してもらいつつ、今度はラビット氏が【料理人】の腕を振るおうと調理場で仕込みに入った。


早速サーペントを使った唐揚げを作るラビット氏へ、スケさんと同様に今後のやりたいことや予定を聞いてみる。


返ってきたのは、しばらくはスケさんの魔法袋にある大量の魔物素材を解体することになるのでは、とのこと。確かに。


まあ直近はそれとして、中長期的な目標とか計画があるのかを聞いてみた。


ラビット氏の調味料を出すスキルだけでも、金を集めることも名声を得ることも自由なように思える。


すると、やりたいことを選んでやりながら、好きなものをあちこちに運んでいる今の生活が性に合っており、そういった生活ができていることは随分と贅沢な人生だと語った。


ロブ自身も、前世でバイトと学業の両立に必死だった暮らしを思い出し、当時は普通でない状況を普通であろうとしたり、普通に戻れなくなって普通を避けるようになったりと、『普通』に縛られていたことを回想した。


こちらに来てから、それらから解放されて真っ新な身体を与えられたことで、気持ちが自由になり、またこの先があるという希望が存在する状況に、かなり救われていることに気付く。


なるほど、前世で皆が異世界モノに憧れ、流行ったのも道理だと思った。


ラビット氏は一方で、スキル上げをするのが趣味かもしれないとのことで、狩猟ハンタークランから肉を買い上げるのに金を使ったりしているそうな。


スキル上げには珍しいものを調理すると上がりやすい傾向にあるそうで、最近だとバイパー系の魔物が美味しかったそうな。


バイパーというのは皮膚に毒をもつ蛇だそうで、ラビット氏は【状態異常無効化】というスキルにより、食材を捌いた時に限定されるものの、毒を無効化することが可能らしい。


ウェスヘイム男爵に既に引き渡してしまったブラックドラゴンなども、【解体】によって毒抜きができてしまうわけで、狩ったものがあれば残しておいてほしかったとのこと。


それならば……と、リナに向けてウェスヘイム子爵に面会予約のメモを送っておく。


後で確認したところ返信が来ていて、子爵は不在だが領主代理の嫡男ワルターが面会できるとのことで、明日迎えに来てくれるそうな。


──ラビット氏の料理が出来上がり、テーブルの上へと作りたてが並べられた。


本日のメニューはスケさんからのリクエストにより、ラーメン・チャーハン・餃子・唐揚げセットと、異世界からかけ離れたものが並んでいた。


しかもスケさんは醤油チャーシュー・味噌バター・塩タンメンのそれぞれ大盛りだ。その要望に完全に対応できたラビット氏もすごいけど。


なお、スケさんが相当気に入ったようなので、いつでも食べられるようにラビット氏に麺とスープと具を大量に用意してもらい、ストックしておくことになった。唐揚げとチャーハンもだ。


ちなみに、食材は格納門の方に貰っていたものを返却するような形になったが、米についてはルーデミリュのダンジョン『収穫祭ハーベスト』産のものを提供した。


そういえば、ラビット氏の魔法袋になぜ米だけが一切無かったのか疑問だったので、訊いてみた。


どうやら、ステラワルトの森で襲われた日は、その先にある村の老人に会ってきた帰りだったようで、そこで米をあるだけ回収されてしまったんだとか。


しかも、調味料として一応出せる日本酒まで要求され、魔力の限界まで出す羽目になっていたそうな。


しかし、ギルマスからの届け物もあるため、その日は朝一番で出てくることになっていて、体調が戻らないまま馬車を走らせていたとか。


そんな中で、道端に倒れている人を発見して思わず馬車を止めてしまい、それが罠だと気付いた時には遅く、背中からバッサリやられてしまったという。


あの森は異世界人が出現する場所でもあったことから、そっちに気を取られてしまった部分もあるのだろう。


あの時の状況が色々と納得いったところで、スケさんから『【結界】の魔道具でも持っておくべきだったな』という話が出る。


しかし、ラビット氏は【結界】の魔道具というものは聞いたことが無いらしい。


スケさんの時代には商人の必携だったそうだけど、失伝したのか封印されたのか。魔道具作成については調べる予定があったので、課題のメモとして残しておくことにしよう。


──翌日、リナが馬車で迎えに来てくれて、ウェスヘイム子爵邸に向かうことになった。


相談内容は、紫の紐をつけた魔法袋にあった毒のある素材を、解体させてもらえないかといったものだ。


ラビット氏が食材とみなせば【解体】できる上に、捌いた際に毒を無効化することが可能で、一方でラビット氏にとってはそれがスキル上げに使えるということで、割と双方に利益がある。


リナによると、魔物素材を解体できる職人を集めることも難航しており、また素材を扱う際に毒の治療ができる聖職者も必要で、それらの人員確保で苦労しているんだとか。


また、無二の素材を扱う都合から解体工房を博物館のある敷地に建て、領兵に警備させる運用になったらしい。


そんな中で、領主代理となっている嫡男のワルターと面会し解体の提案をしたところ、言わば無料で危険物の解体をするかのような提案に、あまりにウェスヘイム家側に都合の良すぎる提案のため、詐欺を疑うような話だと言われてしまう。


また、肉の方はこちらで回収したい話もしていたので、本来は廃棄にも困る毒素材を引き取るとあっては、客観的に正気とは思えないとのこと。


言われてみればごもっともではあるが、実際それがこちらにとっても都合いいので仕方がない。


ラビット氏のスキル上げが本来の目的であることや、【解体】や【状態異常無効化】といったスキルについては仔細を話すわけにはいかず、あくまで『巨大な毒素材を解体する』『毒は無効化して肉以外の素材を返却する』といった内容にしているがゆえではあるのだけど。


どうにも納得いただいてないので、1つの依頼を追加することにした。


その場には、解体の腕を信用してもらうために、80mを丸めたヒュージサーペントの皮を出してあった。


それをはじめとした、今後も【解体】で出るであろう肉以外の素材を、名前を隠したまま売り捌きたいので、ウェスヘイム家が代理となって対応してほしいと依頼することにしたのだ。


結局はスケさんは肉が欲しいだけであり、ラビット氏はスキルを上げたいだけではある。


金は正直他でも稼げるし、名声にも興味ない人たちだから、外側に出る面倒を一手に引き受けてくれる窓口があるのは、非常に助かるのだ。


しばらく思案したワルターだったが、売り出す方法については持ち帰らせてほしいという話にはなったものの、概ね交渉は成立した。


──その後、毒素材の解体後について対外的にどう説明するか、などについて話を詰めていった。


現状では、毒素材について王家への報告でも『中身は確認していない』としているそうな。


この設定を利用して、『中身は既に解体済みの素材で危険性が低いことを勇者様が伝えてなかった』『聖職者を用意して確認したところ安全なことを確認した』という流れで進めてもらうことにした。


ひとまず聖職者を集めて中身を検品するため、こちらには2週間を目処に解体を進めてもらいたいとのこと。


1時間ほど、あれこれ懸念点や今後のスケジュールなどを打ち合わせ、紫の紐がついた魔法袋を引き渡してもらって拠点へと戻った。


……領主代理のワルター氏、解体まわりの責任者としての手配が完璧で、超優秀といった印象だった。


──拠点へ戻り、スケさんとラビット氏に相談の結果を報告し、ラビット氏には解体を進めてもらうことになった。


解体については、素材の大きさからアジトダンジョンでやってもらうことになった。


リナから『成長レベリング』の催促も来ているので、格納門は開いておいて安全地帯での解体をお任せすることにする。


ラビット氏によると、毒素材は取り出す際の飛沫も危険なので、周りにいない方がいいとのこと。


一応、ラビット氏のスキルについては秘匿するつもりなので、念のためにクマの着ぐるみを貸し、翌日から作業開始することになった。


──そういえば、着ぐるみに【清潔】の機能があることを知らせて無かったんだった。


そのことに気付いたのは、探索を終えて安全地帯に戻ってきた時に、解体の返り血で赤黒く染まったナイフ片手に迫り来るクマの着ぐるみを見て、リナとクララの2人が悲鳴を上げて失神した後のことだった。


◆ステータス

ロビンソン Lv.33

空間収納 Lv.13

成長ポイント:1

・容量拡大 Lv.3

・時間経過 Lv.3

・距離延長 Lv.6

・空間切削 Lv.3

・格納門増加 Lv.7

・格納門移動 Lv.5(MAX)

生活魔法 Lv.5

鑑定 Lv.3

気配察知 Lv.2

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