第16話:空飛ぶ帆船。

デルフィの島の周りの海はセーレーンの縄張り。

だから、そこを通りかかる船はセーレーンの餌食になるのだ。


「リアムあの歌声を聴いちゃダメだよ」


「ダメだよ、ペルシャディー・・・耳を塞いでも頭に入り込んでくるもん」


この歌声にはペルシャディーにもどうすることもできなかった。

このままではペルシャディーもリアムもセイレーンに惑わされて海の藻屑に

されてしまう・・・。


だがその時、どこからともなく美しいメロディーが聴こえてきた。

ピアスだった。

ピアスのオカリナだ。


ピアスの美しい音色がセイレーンの歌声をかき消した。


「なに、なに・・・・すげえ」

「ピアスのオカリナってすごいな・・・彼女が一緒にいてよかったよ」


ペルシャディーもリアムも正気を取り戻した。


セイレーンの影響を受けないエレンネルが言った。


「アルゴさん今のうちに船を前に進められませんか?」


「無理だ・・・船底になにか引っかかってるのか船が前に進まん」

「なにかに掴まれたみたいに動かない」


「せっかくピアスさんのオカリナでピンチを切り抜けられると思ったんですけど」


すると、どこからともなく一陣の風が吹いてきた。


「まずいな・・・こんな時に風まで・・・?」


「いや・・・待って・・・この風はアネモイさん?」


ペルシャディーがすぎに反応した。

するとアネモイが姿を現した。


「ペルシャディー、船頭さんに船の帆を張るよう言ってください」


「分かった」


そう言うとまたアネモイは消えた。


「アルゴさん、船の帆をいっぱい張ってください」

「私の仲間が船を押してくれます」


「分かった」・・・そう言うとアルゴは船の帆をめいっぱい張った。


するとさっきの一陣の風がまた吹いて、さらに強くなって動かなかった船を

持ち上げた。


「およよ、船が浮いてるよペルシャディー」


「リアム・・・大丈夫、アネモイさんのおこす風に船が乗ってるんだよ」


空飛ぶ帆船?って・・・RPGって言うかファンタジーゲームの世界だ。

ってことは誰も思わなかったんだけどね。


ペルシャディーもリアムもピアスもエレンネルも空に浮かぶ船に乗って歓喜の声を

あげていた。

みんなテンション爆あがりだった。


「アネモイさんのも来てもらって正解だったね」


するとアネモイが姿を現した。


「お役に立ててよかったです、ペルシャディー」


みんなでアネモイにお礼を言って敬意を表した。


「海に降りるのも面倒ですね」

「このままデルフィまで運んで行きましょう」


一難去ってまた一難、旅の仲間のおかげでペルシャディーもリアムも途中で

挫折することなく旅を続けられた。


そしてようやく船はアネモイの風に乗ってデルフィの港に着いた。

一行はアルゴにお礼を言って上陸した。


「アネモイさん悪いんだけど、アルゴさんを船ごと来た港まで運んであげて

くれる?」

「帰りの海でまたセイレーンにで出くわしたら大変だから」


「お安い御用、任せて、ペルシャディー」


そう言うと船はアルゴを乗せて空に舞い上がった。


「みんな元気でな・・・旅の成功を祈ってるぞ」


アルゴは一向に手を振りながら空へ遠ざかっていった。


「さあ、みんな行きましょう」


「パンを助けるためとは言え、よくここまで来れたよな」


「リマ自分で気づいてないかもしれないけど、あんた心なしかたくましく

なってない?」


「そうかな、自分じゃ分かんないよ・・・あんまり変わんないと思うけどな・・・」

「それに俺、いままで誰とも戦ってないよ」


「いいんじゃない無駄な戦いはしなほうが得策ってもんだから」

「ほら、あそこ・・・あと少しだからがんばりろう」


遠くの山にアルベルトの住処であろうオプスキュリテの塔が見えた。


「あれか・・・もうすぐエマに会えるな・・・」


オプスキュリテの塔へ行くには港からは一本道、迷うことなく行けそうだった。


くねくね曲がった山道をひたすら1時間ほど歩いて一行は、ようやく塔の門の

手前まで到着した。

ここから城の門番が立っているのが見える距離まで来ていた。


「ちょっと休憩させてよって言うか飯食わせてよ、腹減った」


リアムはすぐに腹が減る。

エレンネルもピアスもそこらへんの岩に腰掛けた。

門の前で一行は休憩してピアスとアネモイ以外は飯を食いはじめた。

精霊や妖精は基本なにも食べなくても大丈夫なのだ。


厳密にはここは人間界と違って空気中に彼らの栄養になるものが

漂っていて空気を吸っているだけで生きていられるのだ。


だが食事を取る楽しみは知っていたし、美味いものにも目がなかった。

だからピアスは人間と同じように普通に食事をしようと思えばできた。


ペルシャディやリアムに限らず人間は腹が減っては戦はできないからね。

でも精霊や妖精は飯も食わないくせに人間と違って疲れると言うことを知らない。


つづく。

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