第3話:見習い剣士。

「ティグル・・・パルナッカス山麓へ行くのどっちだっけ?」


「え〜聞いてこなかったんですか?」


「はっきりした場所だから分かると思ったからね・・・」


「いつでもそうなんだから・・・いい加減、方向音痴なんだから」

「人の言うことちゃんと聞いた方がいいですよ?」


「まあいいや・・・・とにかく西へ向かえばいいんでしょ?」


城下を抜けると細い道に出て、しばらく行くと民家もなくなり誰かが掘った

であろう手彫りのトンネルがある。

そのトンネルを抜けるとその先にみごとな草原が広がっていた。


ペルシャディーは見慣れた異世界の風景を改めて眺めていた。


「しばらくは、ここへも帰って来れないね」


向こうに見える美しい草原には綺麗な花が咲き乱れていて、空の色は

オーロラのように虹色に染まって幻想的風景を奏でていた。

そして大小の岩が重力に反して空中に浮いてたまま漂っていた。


草原をかき分けてしばらく歩いたところに見慣れた一軒の食堂が見えた。


「ティグル・・・腹ごしらえして行く?」


「うん、急いで前に進むだけじゃつまんないもんね」


風にキーコキーコ揺れる店の看板に「驢馬ろばの耳垢亭」と書いてあった。


今、ふたりがいる驢馬の耳垢亭から西に森が見えた。


その森はニナイの森って言って普段はあまり人が近づくことのない怪しい森。

通称、死人の森ともいう。

パルナッカス山麓へ行くには森を抜けた方がはるかに早い。

避けて通ることが無難なんだが山の尾根を汗だくて歩いて何日もかけて

越えて行くよりはましな気がした。


「ペルシャディー・・・まずは腹ごしらえ」


ペルシャディーとティグルは木の扉を開けて店の中に入ると

ふたりは怪しげな客から、いっせいにジト目で見られた。


「姉ちゃん・・・そこの姉ちゃん、うちはペットお断り」


「これでもだめ?」


そう言うとペルシャディーは国王からもらったペンダントを店の親父に見せた。


「ああ・・・いいよ・・・入っていい」


ペンダント効果は絶大・・・この先、なにかと重宝しそうだった。


店の中を見渡すと昼時と言うこともあって満席に近いくらいの大勢の客で

賑わっていた。


みんな城に仕事を求めてやって来てる剣士や放浪者なんだろう。

どいつもこいつも見るからに胡散臭そうな連中ばかりだった。


「私、コロッケ定食・・・ペルシャディーは?」


「そうね・・・じゃ〜私は羊肉の煮込みと豆のスープにしようかな」

「あとビールも・・・」


この世界では未成年って概念はない。


ペルシャディーとティグルは腹一杯ご飯を食べてゲブゲブ言いながら店を出た。

すると店の入り口の横の丸太のベンチに、ひとりの若者が座っていた。


ペルシャディーと若者は目があった。


若者は、珍しいもので見るみたいにペルシャディーを見た。

その若者は髪が金髪でなかなかの好青年、背中にソードを背負ってるところを

見ると剣士か・・・。


するといきなり青年がペルシャディーを指差して言った。


「あ、ああ、あ・・・もしかして、もしかしてペルシャディーさん?」


「そうだけど・・・あんた、私のこと知ってるの?」


「お会いするのは今日が初めてです・・・でもあなたの噂は聞いてます」

「シャランダルには最も強い魔法使いがいるって・・・」

「剣士や魔法使いでペルシャディーさんを知らないものはいませんよ」


(こいつもか・・・)


「実は俺、あなたに会いにシャランダルに行くところだったんです」

「ここで、あなたに会えるなんて夢みたいだ・・・」


「そう?・・・私に用?」

「弟子にしてくれってのはお断り・・私そういうの向いてないから」


「いえ、そうじゃなくて・・・俺と一緒に来て欲しいんです」

「俺に力を貸してください」


「ほうまたなんで?・・・理由によっては力貸さないでもないけど・・・」


「ペルシャディーそんな悠長なことしてたら私たちの目的から外れるよ」


「いいんじゃない?・・・困ってるみたいだし・・・話によっちゃ力貸して

あげてもいいと思うけど・・・」

「ねえ、あんた、名前は?」


「リアム・・・リアム・ローデンバック」

「リアム・・あんた剣士だね」


「まだ宮廷にも使えてない修行中の見習い剣士です」


「その見習い剣士さんが、私の力を借りたいって・・・いったい何があったの?」


つづく。

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