第55話

その時、パトカーが目の前をゆっくり通過した。弥生ちゃんたちに探されてるかも知れない。僕は反射的に座り込んで身を隠した。

「ごめーん、シメイくん。もう帰ったよ」

同時にまあから呼ばれた。

僕は黙ってまあの前を通り過ぎ、「コンビニ、行ってくる」と小さな声で玄関を出た。それきり戻らなかった。

歩いてレジャー特区へ向かい、適当な店に入って酒を飲んだ。ろくに食わずにただひとり、黙って飲んだ。

またダメだった。こっちに来る前、めちゃめちゃだったけどやり直そうと頑張ってた。

家族、友達、迷惑掛けて離れた人にちゃんと埋め合わせして、またやり直してもらいたかった。それでもこっちにくる前の晩、馬鹿みたいに飲んでしまっていた。こっちに来てからだって、期待された役割を果たせずに逃げ出した。

まあはとんだとばっちりだ。結局そのまあからも逃げ出した。いつも自分がしたいようにして失敗するんだ。何も出来ないんだから、黙って誰かの言う通りにしてれば良かった。

いや、みんなと同じ事すら出来ないから、それを隠す為に変なやり方ばっかりしちゃうんだ。きっと脳に障害があるんだろう。人の気持ちを踏みにじって、いつでも自分だけかわいくて。

ああ、僕はこの若い身体でこれから気が遠くなるくらい長く生きなきゃならない。だいたいヒロシのせいだ。なんで僕を連れてきたんだ。

ほら、また誰かのせい。どうせあっちに居たって同じ様なもっと酷い失敗をしたに違いない。むしろやり直すチャンスをくれたんじゃないか。逆恨みもいいところだ。感謝しなきゃ。まあ、それも無駄にしたんだけど。


似たよな馬鹿 何度でも繰り返す


お疲れさんだ もういい さあ うち帰れ


グッバイ!


うち。どこにもない。前の時代でも車がねぐら、家族は遠く。今はそれすらどこにもありゃしない。


気付けば公衆便所の個室にへたり込んでぐずぐず泣いていた。

そしてそのまま眠ってしまった。


こうして結局、僕はひとりぼっちに還って来てしまった。もとの時代と違うのは、暑さ寒さの、それと小説さえ書いてれば金の心配もなかった事。それに若い肉体。


便所で目を醒まし、「なかなか死ねないな。あーうれしい」と呟いてふらふら。


どこへ向かうわけでもなく、歩き出した。


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